「マルセル・ダイス・シェナンブール」1998年
ワインツアーに参加して、アルザスに行ったのが2002年の春、マルセル・ダイス、ワインバックなどを訪れ、それ以来自分の中ではすっかり白ワインならアルザスで決まりとなったのでした。定番のリースリングはもちろん、ライチの香りが特徴的なゲヴルツトラミネールや、蜂蜜のような甘い香りのミュスカなどは、この地ならではの独特な品種で、まさにはまってしまったのもこの時期でした。
マルセル・ダイスのワイナリーは非常に印象的でした。当時はまだこのワイナリーのビオデナミやテロワールへのこだわりなど知る由もなかったにも関わらず、建物の中に飾られていた土の標本に畑に対する並々ならぬポリシーを感じた次第であります。そのワイナリーで購入して、そのままセラーに寝かせていたのがこの「シェナンブール・アルザス・グラン・クリュ1998年」。リースリングやその他の品種をブレンドしたもので、南向きに位置する畑の平均樹齢は50年。品種名が表記されるアルザスワインにおいて、あくまでテロワールを反映させる畑名ラベルを主張したマルセル・ダイスならではの看板ラベルです。ワイナリーの購入価格は49ユーロで、それなりの値段がするなあと思った記憶がありますが、今や最新ビンテージでも1万円が当たり前のこの逸品、10年以上熟成したものはなかなか見つからないかも。
季刊紙「ワイナート」No.53のトップワイン総決算号でも、この同じビンテージの「シェナンブール1998年」が総合得点98点のワインとして紹介されていました。「透明感にあふれ、泣けるほどに清らかで、りんとした威厳をも感じる香り。静かなパワーを内に秘めた凝縮した果実が、整然とした姿のままで、飲むものを包み込む巨大な光輝となって飛び立つ」……うーん。
某氏のお祝いにと、銀座の名のある鮨屋さんに持ち込ませて頂きました。普通樽熟成させないアルザスワインは早飲みするものとされていますが、このマルセル・ダイスの逸品は10年寝かせてこそ真価を発揮すると言われていますし、同じくアルザスのワインバックでも、いかにアルザスワインが日本料理と合うかを強調されていたのが印象に残っていたので。かの田崎真也氏も著書の中で、「京都のふぐ料理と相性の良かったのがアルザスワイン」と書いているほどですし、今年のあたまに某和食料理店でふぐ料理に合わせたアルザスの「ワインバック・リースリング・シュロスベルク・キュヴェ・サント・カトリーヌ・ リネディ 2004年」が、日本酒に負けない相性を見せた印象がまだ残っているくらいなので。
というわけで、実際に鯛の白焼きなどに合わせて頂いたわけですが、前述のワイナートの記載には少々及ばないものの、確かに素晴らしい味わいのワインでした。黄金色に輝き、蜂蜜や白桃の複雑な香り、土地に由来するミネラル感と熟成によるボディ感があって、余計な雑味は全くないにも関わらず長い余韻が残ります。12年経ってはいるものの、まったく衰えを感じさせず、まだまだ寝かせておけそうな勢いでした。やや甘味のある味わいが、逆に日本食との相性を高めています。大抵の白ワインは、甘味とアルコール感の強い日本酒と一緒に飲むとパワーで負けてしまうものですが、ことアルザスのワインに限れば、その心配も杞憂に終わるのでありました。
さて、この日は他にも色々なワインが持ち込まれました。中でも筆頭は某氏の持ち込んだ「ルイ・ラトゥール・モンラッシェ1999年」。さすがに滅多にお目にかかることのできない「ひざまずいて飲むべき」ワイン、モンラッシェであります。10年以上の熟成ということもあって、心地よいほどの香ばしさであります。ナッツやバター、トーストやバタースコッチを思わせる甘い香りは、樽熟成させた上質なシャルドネならではの味わいでした。他にも、なんとお店から差し入れのあった「シャンパーニュ・バロン・ド・ロートシルト」、酸味がしっかりあって意外にシャープな印象。おなじくお店からぜひともトロと合わせて欲しいと「ブリュレ・ロック・ヴォーヌ・ロマネ・レ・ゾート・メジエール2005年」の差し入れ。まだ若いということもあり、野性味があってかなりパワフルさが前面に出てくるワインでした。他にも「ロゼ・マルサネ」「マルセル・ラピエール・モルゴン」「ジュラ・スパークリング」「磯自慢(静岡の日本酒)」等々、面白いワインが沢山揃いました。やはり和食でのワイン会ということで、皆さん濃厚な赤ワインの持ち込みは避け、ブルゴーニュやその周辺の白や軽いロゼ、赤あたりに落ち着いたみたいですね。