「ズラタン・チェリエナーク」2008年



 アメリカを代表する黒葡萄品種「ジンファンデル」。私自身は、テイスティングで非常に思い出深い品種ということもあって(「トポロス・ジンファンデル」参照)、結構こだわりがあったりするのですが、ずいぶん前に、「ワインデュケーター協会」のセミナーに参加した時、このジンファンデルという品種の由来について、色々と研究がなされていて、その先祖はクロアチアの「チェリエナーク」という聞き慣れない品種なのだという話を聞いたのでした。
 
 アメリカ独自の地場品種というイメージの強いジンファンデルですが、DNA鑑定ではイタリアの「プリミティーヴォ」という品種と殆ど区別がつかないということで、当時の本などにも、ジンファンデル=プリミティーヴォという記載がされていたように記憶しています。プリミティーヴォは現在プーリアのDOCGである「Primitivo di Manduria Dolce Naturale」等にも使用されている比較的メジャーな品種ですが、主に植えられているプーリア州はアドリア海を挟んでクロアチアに面しており、このクロアチアから元々の由来である品種が運ばれてきたとされていました。
 当初、クロアチアの品種プラヴァッツ・マリが候補に挙がりましたが、遺伝子型が完全には一致せず、あらたに発見されたドブリチックという品種とジンファンデルとが、プラヴァッツ・マリの親であると証明されました。その後、2001年に海岸の町カーステーラKastelaで発見された「チェリエナーク・カーステラーンスキー Crljenak kastelanski」という品種が、ジンファンデルと全く同一の遺伝子を持っていることが判明して、先祖捜しに一応の決着を見たとされています。
 以上の詳細は、2004年に出版された飯山ユリ/北山雅彦「ジンファンデル」(小学館)に記されています。当時のセミナーでは、このチェリエナークは殆ど絶滅しており、クロアチアの畑にわずか8本ほどしか残っていないと教わったので、まあ実際に飲むことは無理だろうなと思っていたのでした。
 ところがたまたま新宿伊勢丹のワイン・フェスティバルに足を運んだ時、このチェリエナークが、前述のプラヴァッツ・マリと一緒にワインとして売られているのを見て非常に驚いたのでした。
「いつの間に製品化されていたのだ?」

 裏のラベルの記載を見ると、「ワイナリーのズラタン・オトクZlatan Otokは、クロアチアの高級ワイン産地であるアドリア海に浮かぶフヴァール島にあります。ズラタン・ツュリエナックは、ジンファンデルのルーツである土着品種から作られる赤ワイン。赤いベリーなどのフルーツの香りとスパイスの風味がバランス良く溶け合って、甘味を感じる柔らかい味わいです。ジンファンデル発祥の地で生まれる最高の味わいをお楽しみください」とあります。
 えらくあっさりとした記載。実はその後調べてみると、楽天などでも普通に検索で引っかかり、購入出来るアイテムであることが分かったのですが、記載は全て上述と同じで、僅かに8本の樹しかなかった稀少な品種が約10年間でいつの間に製品化までこぎ着けたのか良く分かりません。ある意味ワイン業界恐るべしという気もしますが、そもそもジンファンデルの元祖チェリエナークで目の色変える人間もそんなにいないのかも、と納得した次第。ある意味驚いたものの、飲むことが出来て大満足という次第であります。
 実際に飲んでみると、ある意味イメージ通りというか、ジンファンデル独特の果実味、野性味、クセがありながらもどこかシンプルというスタイルに確かに近いものを感じます。私としては何となくシラーを思わせる甘酸っぱさがあると思うのですが、チェリエナークといういかめつい名前とは裏腹に、クロアチアという産地のイメージからどこか明るい、陽気に飲める味わいのワインだと感じました。



◆トップページに戻る。
◆「宇都宮斉作品集紹介」のコーナーへ。
◆「宇都宮斉プロフィール」のコーナーへ。
◆「一杯のお酒でくつろごう」のコーナーへ。
◆「漫画・映画・小説・その他もろもろ」のコーナーへ戻る。
◆「オリジナル・イラスト」のコーナーへ。
◆「短編小説」のコーナーへ。