「イル・メルロー」1990年



 機会があればブラインド・テイスティングに挑戦するようにしています。当たるかといえば、実はそう当たりません。まあこれは、プロの世界最優秀ソムリエコンクールにしたって、トップクラスの挑戦者が産地も品種も外すことが多いわけで、数千種の品種、数万の銘柄、そしてそれぞれについて異なるビンテージが存在するワインを全て経験することも無理ですし、まして経験したからと言って香りや味の記憶がすぐに呼び出せる訳でもありません。その意味ではまあ外したからと言って恥に思うこともないわけですが、一方で曲がりなりにも勉強を重ねてそれなりの資格を頂いたからには、全く訳が分かりませんでは済まないわけで。
 米国の資格CWEにしても、英国の資格Diplomaにしても、テイスティングに選ばれるワインは、品種や産地の特性を活かした物で、あまりにも安いバルクワインや、レア物の高級ワインが出されることはありません。その意味では、銘柄はともかく、品種や産地をある程度同定することは可能なわけですが、実際にお店で出されるワインは、別にテイスティング練習目的で供出されるわけではないので、これが意外に、というかかなり当てるのが難しいのです。

 今回も4銘柄のブラインドに挑戦…。
 1本目はスパークリングワイン。普通のシャンパーニュに比べて、色合いはやや明るく、非常にまろやかで酸も丸みがあり、甘い印象。泡立ちも妙に細かく、外観はプロセッコか? と感じるほど。しかし味わいは瓶内2次発酵ならではのイースト風味のある泡の細かい深みのある味わいの物。さて最初から迷う。どうも甘味が気になり、イタリアのフランチャコルタ? スペインのカバ? オーストラリアの瓶内2次発酵? とどうもうまく焦点が定まらない…。
 正解は、「シャンパーニュ・ル・ブルン・セルヴネイ・ブラン・ド・ブラン 2003」なんとアヴィズ村生産の正統派ビンテージ・シャンパーニュであります。猛暑の2003年ということで、甘味が感じられるということなのですが、それにしても淡い色合いで10年近い熟成とは意外でした。色とりどりの野菜、それぞれ異なる調理法と4つのソースで。
  

 2本目は白ワイン。高い透明度、輝きのある黄金色、しっかりした脚、高い粘性…かなり濃厚なスタイルの白です。非常に強いやや甘い香り、バニラ香、ナッツ香、バター、若干のライム香、洋梨の香り…この甘い樽香は新世界か? 辛口、中程度の酸味、ボディあり、ミネラル風味、柑橘系の味わい、長い余韻 。黄金色、甘い樽香、ボディと長い余韻から樽熟成シャルドネと推測。新世界かとも思ったものの、非常にふくよかな味わいからシャープなモンラッシュ系よりもリッチなムルソーのスタイルと判断、甘味を感じることからムルソー2003年かと。   
 正解はモレ・サン・ドニのドメーヌ・デ・ランブレイが造るピュリニー・モンラッシェ。「ピュリニー・モンラッシェ 1er クロ・デュ・カイユレ  2003年」でした。かろうじてビンテージはまぐれ当たりか。そのままでは飲みにくいので2時間前に抜栓してかつ氷で冷やしつつ、飲む前にやや室温に戻したとのこと。実際のところ、かなりの稀少品。フォアグラのフラン(洋風茶碗蒸し)、コンソメスープで。
  

 3本目は赤ワイン。高い透明度、深みのあるルビー色、若干の熟成 、華やかな香り、若干の樽香、ストロベリー香、ラズベリー香、若干ブラックペッパーの風味、若干紅茶のような風味。辛口、しっかりとした酸味、中程度のボディ、長い余韻 …ルビー色、ベリー香、しっかりとした酸味、長い余韻から典型的なブルゴーニュ・ピノ・ノワールと判断。ただ動物香や花香はそれほど感じられず、全体的にまろやかな印象から、ニュイではなくボーヌの2004年と考えました。
 正解はジヴレイ・シャンベルタン、しかも名門デュガの2000年物。「クロード・デュガ・ジヴレイ・シャンベルタン 2000年」ジヴレイ・シャンベルタンの特徴的な動物香はどちらかというと控えめでした。まろやかな味わいに感じたのは2000年だから? それにしても果実味があって若い印象。タスマニアのサーモン、卵黄のソースで。
  

 4本目も赤ワイン。透明度あり、深みのあるカーネット色、高いエキス、華やかな香り、若干の樽香、僅かにピーマン香あり、やや青っぽい、ブラックカレント、ダークチェリー、辛口、中程度の酸味、豊かなタンニン、高いアルコール、フルボディ、長い余韻 …。濃い色調、あまり熟成は感じられず、かつやや青っぽい風味があることから、カベルネ・フランかメルローがブレンドされていて、かつ猛暑でない年と推測。ここまで泡・白・赤とフランスの正統派ワインで来たということもあり、次はやはりボルドーか? という先入観もあってか、実際味わいもボルドースタイルと感じられ、そして青っぽさはまだ若い証拠と考え、あえてややメルローの比率の高いサンテステフの2007年と回答。   
 正解は北イタリア、ロンバルディアのメルロー100%で、ビンテージは1990年! 
 20年以上の熟成でこの色合い、かつ青っぽさが感じられるとは驚きでした。「カ・デル・ボスコ・イル・メルロー 1990年」1990年の次のリリースは2001年という、かなりのレアもの。黒毛和牛の赤ワイン煮で。

 いやいや、勉強になりました…というか、最後の最後は大外れという気もしますが、ある意味メルローの底知れぬたくましさにあらためて感服した次第。確かに振り返ってみれば、銘醸品のメルローは、「シャトー・ペトリュス」にしても、20年熟成を経てしかもまだ「青い」「若い」という印象でした。まさかそのクラスが出て来ようとは思わない訳ですが、ある意味何年経っても、ワインの熟成能力については不思議に思うことしきりであります。



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