「マルキ・ド・サド・プレステージ」2000年
シャンパーニュには有名な人物の名前がよく使われます。シャンパーニュを発明した(実際には必ずしもそうとは断言できないようですが……)とされる「ドン・ペリニヨン」をはじめとして、「ポール・ロジェ」の「サー・ウィンストン・チャーチル」や、「マリー・スチュアート」なんてものまであります。これらは全て著名人にあやかって商標を使っているわけで、「マルキ・ド・サド」というシャンパーニュがあると知人から聞いたとき、サド公爵の作品に夢中になった奇特な方が自分の商品にそう名前を付けたのだろうと勝手に想像してしまったのでした。何か怪しげでそれはそれで面
白いんじゃないかと思ったものですが……。
しかしこの「マルキ・ド・サド」、単なる名前だけを借りたものではなく、サド公爵の五代目直系子孫であり国会議員でもあるチボー・ド・サド氏が、同家の城を引き継いだゴネ家と共同開発して1988年から造り始めたもの。ある意味、由緒正しい「サド」なのです。もっとも、私にこのサドのシャンパーニュの存在を教えてくれたM氏、このボトルを見て「サド家の紋章がないけど……」と言っていました。あれ……?
サド公爵については、「サディズム」の語源になったことは知っていましたが、その作品は実は読んだことはなく、この間それにまつわる映画も公開された筈なのだけど観ていないし、あまり偉そうにいえる立場でもないのでした。ものの本によれば、バステューユ牢獄で「ソドム120日」を書き、格命中は劇作「オクスチェル」で成功したが、恐怖時代に反革命の嫌疑で再び投獄、ナポレオン体制下で死ぬ
まで精神病院に監禁された、とのこと。フランス革命からナポレオン独裁へと向かうフランスのある意味暗黒面
の象徴たる人物だったようです。
さてこのシャンパーニュは2000年プレステージとありますが、別に2000年に収穫した葡萄から造られたわけではなく、テタンジェや他のワインと同じように2000年記念ラベルとして売り出されたものです。従ってそれなりに熟成したニュアンスがあり、非常に味わい深いシャンパーニュでした。「クリュグ・ビンテージ」とは違ってかなりやわらかでしなやかな印象。「シャンパーニュ物語」にも「サドというイメージとは全く違った、いわばスリム感がありながら肉付きのしっかりしている個性派の美しい女優という風情を持つ」とありますが、まさにその通
りの印象。名前で損しているのかなあ。でもこの個性的なネーミングはそのままにしていて欲しいものです。