「ルイ・ロデレール・クリスタル」95年
「クリスタル」(水晶)という言葉の持つ響きは独特で、どこか神秘的なものを感じさせます。もともと「クリスタル」という言葉の語源は「澄みきった氷」を意味するギリシャ語なのだそうで、ある意味水の持つ透明度と密接に結びついたイメージを持っています。水晶占いはもともとインカやアパッチの間で行われていたもののようですが、母なる大地の子宮から生まれたものとして、ガラスや金属以上に確実に未来を見通
せるものとして扱われてきたようです。
さて、このシャンパーニュのクリスタルですが、これはルイ・ロデレール社のビンテージ物で、その名の通
りクリスタルガラスで作られた透明瓶に入っていることが最大の特徴。通常、シャンパーニュに限らず良いワインというものは緑か茶色の色付き瓶に入っていて、底には澱が引っ掛かるように大きなくぼみがあり、ある意味上げ底になっているのが普通
ですが、このクリスタルに限っては、完全な透明ガラスで底も真っ平。まあ考えて見れば、色付き瓶は緑や茶色に耐光性があり劣化を防ぐためですが、きちんと暗いセラーにしまっておく分には問題ないし、シャンパーニュは瓶を逆さにして熟成させコルク栓を付ける前に澱を除いてしまうのであまり上げ底にこだわることもない、ということなのかも知れません。
1873年、ロシアのアレクサンドル二世が、自分のために出されるお気に入りのシャンパーニュを他と区別
するためにクリスタルガラスの瓶に入れることを命じた、というのがこのシャンパーニュ誕生の由来とされています。よほど味が良かったのでないかぎり、そんな話も生まれようがないのですが、実際ルイ・ロデレール社は「高品質のシャンパーニュでクリュグやボランジェと並び称される」と言われるほど、徹底した家族経営で品質管理を行っています。木製の大樽に最上の年のワインを最低5年以上寝かせ、これをノン・ビンテージ物に約一割混ぜることで高品質を保たせるのですが、その分ビンテージ物の量
は少なくなるわけ。
95年というのはまだビンテージシャンパーニュの真価を発揮するのには若すぎたのかも知れませんが、同じ日に開けた「サロン」が男性的でコクとボディが売りだとするならば、こちらのクリスタルはあくまで優しく軽やかなイメージ。その名の通
り澄みきった水を連想するような味わいですが、もちろんこれは口当たりが薄いということではなく雑味が全くなく、限りなくストレートな味わいだということ。シャンパーニュに銘醸物のワインの味を求めるなら、「クリュグ」か「サロン」ということになるでしょうが、あくまでシャンパーニュらしい華やかさを第一とするなら、こちらの「クリスタル」を選ぶことになるかも。なんか真っ白のテーブルクロスに置くだけでうれしくなるような、そんな雰囲気がありますね。某テレビ番組で、タレントがクリスマスに一般
の人達の食卓を訪ねるという企画をやっていて、その時石田純一氏が最後に開けてふるまったのがこのクリスタル、だったと思います。ちょっとスノッブではありますが、そういうハレの場に似合うボトルだと思います。うちの少々油のシミの付いたテーブルクロスでは役不足……だったかな?