「フロッグス・リープ・ラザフォード」98年
76年のフランスワインVSカリフォルニアワインの赤の部門で、一位を制したのはカリフォルニアの「スタッグス・リープ73年」。ムートン70年は2位
に甘んじた訳ですが、そのせいか今じゃ「スタッグス・リープ」も格が上がり、「カスク23」なんか3万円近くするから下手すりゃムートンより高くなってるし。以前ムートンと飲み比べた「オーパス・ワン」も人気はうなぎ上りで、同じビンテージなら確実にムートンよりも高くなってます(3年前はムートンの半額だったぞ……)。そこで今回何をムートンにぶつけようかと思って探していて、見つけたのがこの「フロッグス・リープ・ラザフォード」であります。お値段にしてほぼムートンの半分と、丁度目的に適うものでした。
「フロッグス・リープ」は、以前メルローやソーヴィニヨン・ブラン、ジンファンデルなどを飲んだことがあり、すごく丸みのある味で私のもろ好みのタイプのワイン。ここのワイナリーはカリフォルニアにおける有機農法の先駆的存在です。醸造においても野生酵母だけで発酵させ、二酸化硫黄も最低限しか使用しないとのこと。オーナー兼ワインメーカーのジョン・ウィリアムスが1981年に設立、カリフォルニアワインの代表格「スタッグス・リープ」をもじって名付けたネーミングとおしゃれなラベルは、一見ふざけているように見えてなかなかセンスがよく、中身も外見も決してひけを取りません。「ラザフォード」は年間980ケースのみ製造されるプレミアムワイン。フレンチオークで24ヶ月熟成。清澄処理もろ過処理も行わない。97年はワインスペクテーター誌で92点の高得点。これは期待大であります。
カリフォルニアワイン界の大御所ロバート・モンダヴィは「ワインは文明の始まりから我々と共にあり、家族文化や伝統、快適な生活に欠くべからざるものである」という文章を裏ラベルに入れて、「やれアルコールは体に悪いのどうのこうの」といった表示義務に反発していますが、ジョーク好きなフロッグス・リープのジョン・ウィリアムスは裏ラベルの最下部に"OPEN OTHER END"(反対から開けろ)とだけ書いています。「もし消費者が本当にそんな表記を必要とするなら、『ボトルを底から開けるな』という注意書きまでも必要だろう」という皮肉なんだそうな。実に遊び心のあるワイナリーであります。
実際に飲んでみると、香りが豊かで味もフルボディ、決して苦渋味だけが先に来ないし、飲んだ後味に充実感が伴う、とにかく飲んでうれしくなるような味。ブラインドで一位
になるのも当然かな。
「98年のムートンなんて新しすぎる、15年以上寝かせなければ真価は発揮しない!」というのもおそらくはもっともな意見。しかし有名なフランスVSカリフォルニアブラインドテストでは、76年にカリフォルニアに首位 を奪われたフランス側が、10年後の86年に10年熟成で同じラインナップでもう一度挑戦して、再びカリフォルニアワインが一位 となったという話もあり、果実味豊かなカリフォルニアワインが長期熟成しないという意見は否定されたといえましょう。ちなみにその時の順位 は……一位がクロ・デュヴァル、二位がリッジ・モンテ・ペーロと共にカリフォルニア。前回二位 のムートンは5位に、一位のスタッグス・リープも6位に転落。まあ、ここまで来ると、要するに殆ど差がないってことなんでしょうね。
さて、人気投票二位の「クラレンドン・ヒルズ」は、オーストラリアワインの中でもかなり評価の高いもの。ここのメルローは、オーストラリアのペトリュスとまで言われる逸品なんだそうな。97年のカベルネについては、「葡萄が極めて熟していて、甘草・スパイス・花の様な香りと混ざり合った、ジャムのようなブラックカレントの華麗な香りを発する。コクがあって、ふくよかな舌触りがあり、豊富な果
実味が感じられる。酸度が低く、大柄で噛みごたえのある構造をしたこのワインは、今でも飲めるし、あと7〜8年のうちでも美味しく飲めるはずだ」(ロバート・パーカー「世界のワイン」より)。97年はロバート・パーカー90点。
実際、ブラインドティスティングで最初に飲んだのがこれだったのですが、かなり香りはシャープで、「ラザフォード」よりも強く感じるほど。「ラザフォード」がどちらかというとどっしりとしたコクのあるタイプなのに対し、こちらはより果
実感が前に来ると思います。
今回用意したチリワインは「カルメン・ナティバ・マイポバレー」。有機農法により栽培され、発酵も野生酵母によるもの。フレンチオークで10ヶ月熟成。マイポ・バレーはチリの中でも地中海性気候の半乾燥地帯に属し、年間降水量 は300ミリ程度。チリワインでは「モンテス・アルファ」や「ロス・バスコス」当たりが作りもフランスワイン的でおいしいので、そちらが用意できればよかったんだけど……。この「カルメン」は、かなり香りがきつめで、「香りの強さ」だけならば五つの中でも一番強いと思うのだけど、いかんせん飲みやすいものではなかった気かしました。セレクト次第ではかなり上位 に迫れる物もあったかなあと思います。