「9月の独り言」
9月4日(土)
中野の「哲学堂」にて、空想小説ワークショップのメンバーと朗読会。
ここは明治時代の哲学者で、哲学館(現在の東洋大学)を創立した「井上円了」が精神修行の場として造った公園。園内には「釈迦」「孔子」「カント」「ソクラテス」を祀る四聖堂や六賢台、宇宙館などがあります。なかなか仰々しい名前がついていますが、みたところは普通
に地味な公園でした。なんでも哲学堂域「哲学堂七十七場」として哲学に由来した名称がつけられている77の施設が園内に散在しているとか。
その中にある、民家を改築したような建物「霊名閣」を一つ借りて、午後一時から一人持ち時間5分の朗読会。趣のある(というか開けたらほこりだらけで蚊が舞う)和室にてミステリ、ホラー、コメディとジャンルを問わずにその場で本を読むのであります。ちなみに私が持っていったのは「クイーン編 ミニ・ミステリ傑作選」で、その中の一編「ティー・ショップの暗殺者」(マイケル・ギルバート作)。文庫本七ページの小品で、ほぼ5分間で読みきれるもの。この本に載っている短編ミステリは皆長くても十ページまでで、セルバンテスやモーパッサンからクイーンに至るまでのあらゆる分野のミニ・ミステリを集めている私の愛読書の一つ。
さて、五時頃哲学堂を引き上げ、中野駅近くにある老舗の名曲喫茶「クラシック」で一息ついた後、「丹華麗」
(タンカレー……ジンの銘柄か?)という洋風居酒屋で飲み会。スペインの赤ワイン「王様の涙」が意外とすっきりしていて飲みやすかったです。スペイン旅行記ファイルなどを回し読みしてもらったり。その後何故か池袋に出て「天狗」で二次会。
9月11日(土)
埼玉のふじみ野で、香取慎吾君ファンのAさんを囲んで数人で映画「忍者ハットリくん」を観に行きました。
丁度八月に「藤子不二雄A展」を見てきたばかり。もっとも映画は香取君主演の娯楽アクション作で、原作とはあんまり関係がなさそう。私自身は幼少からの藤子不二雄ファンといってもどちらかというと「パーマン」「ドラえもん」といった藤本さん路線で、線が硬質な我孫子さんの作品にはあまり親しんでいないので、「怪物くん」「ハットリくん」あたりはあまり読んでいないのでした。肝心のAさんはオープニングの一番の見せ場のシーンで、遅れてきた騒がしい女学生達に前を遮られ、大層ご立腹。作品の出来はともかく、もう一回見に行かざるを得ないとのことでした。
その後K氏の車で川越まで移動し、K氏おすすめのスペイン料理のお店「すぺいん亭」に。店の外側は工場を改築したままのどちらかというと目立たない作りですが、中に入るとえらく広い空間に壁一杯のお皿とタイル。割れたタイルを敷き詰めたカラフルな壁はまさにガウディ・スタイル。ここまで外と中のギャップの大きいお店も珍しいなあ。さらに地下にはセラーが合って、飲みたいワインを選べるスタイル。運転するKさんを除く三人で発泡酒(カバ)「ラベントス・ブリュット・レゼルバ2000年」・白「コンデサ・エイロ・ヴェルデホ2000年」・赤「ファウスティーノ一世・リオハ・グラン・レゼルバ1994年」の三本をセレクト。
シャンパーニュと味わいの殆ど変わらないカバ、フルーティな香りの割には酸味が大人しく料理と合わせやすいヴェルデホの白は好評でしたが、リオハの赤は十年という熟成期間を置いているにも関わらず苦渋味が強くて今一つの人気。残った分は持って帰りました。「ボデガス・ファウスティーノ」は、後で本で調べたところ、1861年創設の四代にわたる家族経営のワイナリーで、そのグラン・レゼルバはリオハでもトップクラスとのコメントあり。う〜ん、確かに飲んだ時はまだ果
実味が強くて、もう少し置いたほうがまろやかになるかもという印象を受けました。これに限らずリオハの赤はどれも長命。
お料理の方は「タコのガリシア風」「ホウレンソウのソテー」「ハモン・セラーノ」「パエリア」等々、どれも本格的で美味。確かに現地でもこんな感じだったなあと思うことしきり。
その後ウサギを飼っているIさん宅へ。ケーブルテレビで堺正章の「西遊記」総集編などをやっていたので思わず見入っていたら帰りそびれてしまいました。結局一泊して翌朝これもケーブルテレビで流れていた白土三平「忍者武芸帖」映画版(といってもアニメでも実写
でもなく、漫画のコマを紙芝居形式で音楽とセリフ付きで流すという独特のスタイル)を観てから、車で駅まで送ってもらい解散したのでした。
9月20日(日)
船堀の「タワーホール船堀 応接会議室」にて、映画「エクスカリバー」(ジョン・ブアマン監督 1981年製作)
上映会。
最近上映された「キング・アーサー」があまりにひどかったので(というか、私は見てませんが……)、イギリスにしばらく行っていたYさんと、そのBBSに書き込みしていた本職マロリー研究者の「金のたてがみ」ことK先生が口直しにと企画されたもの。K先生はわざわざ「エクスカリバーを読み解く」と題した小冊子をコピーしてくれるほどの力の入れよう。ちょっと画面
の小さいテレビだったのが残念。集まったのは六人位だったので、これくらいの人数ならうちでも開催できたなあ。
アーサー王伝説は、剣にまつわる伝説や王妃とランスロットのロマンス、アーサー王の戦死といった主軸の物語に、さらに「トリスタンとイゾルデ」や「パルジファル」の聖杯伝説がからんで、かなり複雑怪奇。あまりにも脇役が活躍するので、「アーサー王って、そんなに偉い人かしらん」と思わず首を傾げてしまう。映画は15世紀にマロリーが残した「アーサー王の死」をもとに、アーサーの生涯、ランスロットのロマンスとパルジファルの聖杯探求の物語に絞って、登場人物もかなり思い切って整理しています。音楽は全てワーグナーの楽劇を使っていて、「ジークフリート」のテーマをアーサーに、「トリスタンとイゾルデ」のテーマをランスロットとグエネヴィアに、「パルシファル」のテーマをパルジファルにそれぞれ割り当てています。ビジュアル的にも、アーサーの誕生を巡る場面
では陰湿な森と霧の世界だった舞台が、ランスロットの登場あたりから宮廷内の装飾も明るくなり、騎士達の鎧も銀色に光りはじめ、ランスロットが去りアーサーの息子でもある宿敵モルドレッドが金色の人型の鎧というかなり異様な姿で現れると、次第に暗く幻想的な雰囲気に変わっていくというように、かなり細かい配慮がなされています。それでも長大な物語をムリに縮めたという印象はぬ
ぐいがたいところが映画の難しいところ。つくづく「指輪物語」を三部作の長編映画として完成された「ロード・オブ・ザ・リング」の製作者達は偉かったのだなあ。「トロイ」も「HERO」も、歴史を題材にした映画は皆無理に縮めてこじんまりとまとめてしまったような印象を受けてしまうのはある意味仕方がないような気がします。
この後K先生も連れて有楽町まで行き、銀座のスペイン料理の店「エスペロ」本店へ。三丁目店の方には時々ランチを食べにいきます。「ドン・キホーテ」の絵をモチーフとした皿やタイル、オブジェが壁に飾られていて、かつパエリャに関しては
スペイン国際パエジャ大会で数々の賞を受賞している実績があるとのこと。私的にはスペインで購入した「ダリのブランデー」がさりげなく棚に置かれているあたりがポイント。白ワインと赤ワイン(確かリオハのもの)をボトルでもらい、例のごとくパエリアをメインに数品、デザートにドングリのムースまで頼んで一人4,500円というのは銀座にしては良心的。表面
はカリカリですが鍋の側は焦げ付いていないというのがここのパエリアの一つの特徴となっているらしい。喫茶店で一服して解散。