07年/「SFセミナー」報告
●「奇想天外」の時代
雑誌「奇想天外」といえば、どちらかというとSF専門誌というよりは「別
冊マンガ奇想天外」の方が印象深いので、「1974年に『SFマガジン』に次ぐ第2のSF雑誌として創刊され、二度の休刊をはさみ90年まで発行された」と言われても、実はピンと来ないのですけど、SF小説がいまだ十分に市民権を得ていない時に、結構試行錯誤で色んなことをやっていたんだなあと感心させられました。第一期が6号で休刊になった際、再刊のめどなど全く立たない段階で、編集後記に大胆にも「復刊予告!」と冗談で書いたというエピソードには笑いました。新人賞で新井素子氏が佳作となった時、星新一・小松左京・筒井康隆という錚々たるメンバーが審査員として並び、その中で唯一星新一氏だけが新井氏を推していた、というのもなかなか意外性があって面
白い話でした。
●アヴラム・ディヴィッドスンの思い出を語る
短編小説の名手アヴラム・デイヴィッドスンの元伴侶、作家で日本SF翻訳者でもあるグラニア・デイヴィスさんを迎えての講演。この両名の作品を全く読んでいないので、あんまりあれこれ言う資格はないのですが、分かりやすい英語で故人の思い出を面
白可笑しく語って頂きました。まだ10代の時に20才近く年上のデイヴィッドスンをいきなり訪ねてそのまま居着いてしまったというなれそめから(微笑ましいエピソードですが、パンフによると2年後にしっかり離婚してたりして……)、ブリティッシュ・ホンジュラスに行くデイヴィッドスンにおみやげは何が良いかと聞かれ、冗談で「イグアナ」と答えたら、本当に2匹の大きなイグアナを生きたまま送り付けてきたという話まで、英語で喋っているにも関わらず会場がここまで湧いた講演も珍しいんじゃないかと思うくらい楽しい内容でした。
●高橋良輔インタビュー・リアルロボットの向こう側
「ダグラム」「ボトムズ」「ガリアン」「レイズナー」「ガサラギ」と、なかなかハードな設定のロボットアニメを制作してきた高橋監督ですが、もともとは商事会社に3年ほど勤めていた会社員。SF小説もあまり読んではおらず、簿記一級の資格を持っていたので事務職で虫プロに就職しようとしたら落ちてしまい、何故か動画で採用され、そのまま演出を手掛けるようになったというのはなかなか意外な履歴でした。ロボット物はやりたくないと言っていたのに、「ゼロテスター」を手掛けていた時には「ヤマト」がヒットして、「サイボーグ009」を手掛けていた時には「ガンダム」がヒットして、オリジナルロボットアニメの方が何かと企画が通
りやすくなったので仕方なく「ダグラム」をやることになったのだとか。かなりがっちりと作品設定を造り込むこだわりの作家と思っていたので、何かにつけて予定通
りにならなかったという話は逆に意外で面白かったです。「ボトムズ」のあの独特のレンズは、宮崎駿のロボットの目と自転車のチェーンが元になっているそうな。「ボトムズ」の新作アニメーションも製作中とのことですが、ATは全てCGになるそうで、これも時代の流れかなあ。
●こうして「異形」は10年を迎えた
井上雅彦氏編集によるオリジナルアンソロジー「異形コレクション」……もう10年になってしまうのですね。当初発刊された時のインパクトはなかなかなもので、真っ黒の表紙もかなり目立っており、CVSでも売っていたので毎回買って通
勤時に読んでいたものです。最近ではCVSに置かなくなってしまったのでかなり購入も途切れがちですが、全部が短編なので読みやすく、表紙や挿し絵も独特の雰囲気で、こういう短編集がなぜもっと文庫で出てこないのか正直不思議に思ったものです。
毎回テーマが与えられ、それに基づいて書くという手法は、読み手にとってだけでなく書き手にとっても受け入れられやすいもののようで、例えば「吸血鬼」というテーマが与えられると、作家さん達はいかにして他の人が思いつかないようなアイデアを練り上げるかに注力することになります。「血を吸う吸血鬼は当たり前だから、血を与えまくる輸血鬼なんてどうかと思った」と牧野修氏が言えば、「400才だけど赤ん坊、という設定はどうだ」と平山夢明氏が返す、といったように(こりゃこのネタでどっちも読んでみたいなあ)、会場でも作家さんの底力を実感できる講演でした。
●ロボットアニメに乾杯
いつもの深夜枠の新作アニメ紹介の部屋、今年はロボットアニメに絞っての紹介。「ヒロイックエイジ」「キスダム」「Gフォーミュラ」「コードギアス」「グレンラガン」「ライディーン」「ジーグ」「ぼくらの」「アイドルマスター」等々。オープニングアニメーションだけあって、皆驚くほど絵が綺麗であります。まあそれぞれ一部を除いて一回ずつくらいは観たことのある作品なのですが、出来栄えはそれぞれ一長一短というところ。その中では、「ぼくらの」という作品の、選ばれた15名の子供が並行世界の地球を相手に、参加すれば必ず死ぬ
という戦闘に加わるという物語に興味をそそられました。絵柄は今一つという気がしますが。
●ワールドコンNippon2007速報
本年夏の終わりに横浜で開催される、ワールドコンをかねたSF大会に先駆けて、ワールドコンのビデオ紹介と企画の進行状況についての解説を聞きました。あんまり企画は進んでいないようで、あと3-4ヶ月なんだけど大丈夫かしらと思ってしまいました。今のところ参加者は国内1,200人、国外1,000人というところ。赤字を出さないためには3,000人は欲しいとのことですが、具体的にどういう面
白い企画があるのか分からないと参加しようにもする気が起きない人も多いのでは? 今のところの参加者は、何があろうが毎回顔を出す常連さんばかりのようです。今回の目玉
は、著名なSF作家が日本に来ることで、ラリー・ニーヴンやイアン・ワトソンら私でも知っている作家が参加を表明しているのはうれしいところ。
●非英語圏SF映画上映会
精神科医でありながらSFマガジンの書評をも担当する風野春樹氏は、毎回趣向の異なる企画を用意してくれるのですが、今回は「非英語圏SF映画」をDVDで紹介するというもの。「非英語圏」といってもヨーロッパではなくトルコやインド、フィリピンやタイといったアジア系の作品で、それだけにどれも内容はぶっ飛んでいて面
白いのでした。
トルコの「GORA」は初の本格SF映画とのことで、実際オープニングはかなり力の入ったCG。冒頭のエイリアンの宇宙船は、内部も外部もかなり造り込まれた本格的なデザインで驚かされますが、地球侵略の目的が「昔友好のため地球を訪れた先祖が、馬泥棒と間違われて石をぶつけられたから」というのはあんまりといえばあんまりなような。エイリアンにさらわれたお調子者の主人公は、五つのエレメントを使って見事に隕石衝突を回避するのですが、それを思いついた理由が「リュック・ベッソンの『フィフス・エレメント』を観たことがあったから」……ってどうよ! 追放された主人公は「マトリックス」よろしくカンフー能力を脳に直接ダウンロードすることによってマスターしたりするのですが、その時使用されるのがディスクではなくてカセット・テープというのが泣かせます。全てがハリウッドSF大作映画の引用ばかりなのですが、主人公は最後に観客に向かって「敵だからといって問答無用で殺すのは良くない」としっかりハリウッドを批判して物語を締めくくるのです。なんというか、そのムチャクチャなパワーには圧倒されました。
ロシアの「PERVYE NA LUNE」は、スターリン時代の月世界探査を、インタビューと再現フィルムで偽ドキュメンタリーとして作り上げた異色作。蒸気機関で運ばれるロケット発射台を、馬に乗って軍人達が追いかけていくシーンは、妙にリアリティがあります。1930年代に月へと降り立った宇宙飛行士は、その後地球に帰還、チリに落下し、月に言ったと主張しても信じてもらえず、あげくは精神病院に収容されてしまうという悲惨な結末。2005年製作のこの作品、ヴェネツィア国際映画祭ドキュメンタリー賞を受賞したというのですが……何でだ?
インドの「KOI MIL GAYA」は、歌って踊るシーンが唐突に挿入される3時間物のSF大作。風野氏曰く、「未知との遭遇」+「E.T.」+「少林サッカー」+「アルジャーノンに花束を」みたいな映画、とのコメントでしたが、まさにその通
り! 宇宙人を音楽で呼び寄せる研究をしていた(ココが「未知との遭遇」)科学者夫婦は、空から迫る円盤に驚いて交通
事故を起こし、父親は死亡、身ごもっていた母親はケガをして、生まれた子供(主人公)は知恵遅れで20才近くなっても心は子供のまま(ココが「アルジャーノン」)。しかし父親のコンピューターをいじっていた主人公は再び円盤を呼び寄せてしまう。やって来た巨大宇宙船から降り立つ宇宙人達は、突然出てきた象(!)に驚き逃げ帰り、逃げ遅れた一人の宇宙人は主人公の家に居座る(ココが「E.T.」)。主人公は宇宙人のパワーのお陰で並外れた知能と体力を身に付け、バスケにダンスに大活躍(ココが「少林サッカー」)。宇宙人から与えられたパワーは宇宙人が帰ってしまうと失われてしまうのですが、主人公は彼を帰してやることにします。でもさすがハッピーエンドが必須のインド映画、宇宙人は再び地球へ戻ってきて、彼の能力も元通
りになってめでたしめでたし(それじゃ最初から悩む必要ないじゃんか、と思わず突っ込みたくなる日本人は悲観主義でしょうか?)なのでした!
フィリピンの「DARNA」はワンダーウーマンのフィリピン版TVシリーズですが、より露出度は高め。主人公の敵役の方が美人でプロポーションも良く、かつコスチュームも白と黒で頭に白鳥のような飾りがついていて正義の味方っぽいというのが笑えます。向こうではこれを家族でゴールデンタイムに観ているのか?
タイの「MERCURY MAN」はムエタイの技を駆使する肉体派仏教ヒーロー。スパイダーマンっぽいコスチュームで、格闘シーンのキレの良さはさすがにタイであります。風野氏に言わせると、この作品の唯一の難点は、主人公だけでなく登場人物全員がムエタイの技をマスターしていること。全員が全員、見事に格闘シーンをこなしてしまうので、派手なコスチュームの主人公もイマイチ目立てないのでありました。
いやいや、最初から最後まで笑わせてもらいました。いまではネットで色んな国の傑作が手に入るようになったのですね。でも自分であえて買ってみたいかというと……こういう会場であれこれ野次を飛ばして観るのが楽しいので、家で一人で観てそこまで楽しめるかどうかはちょっと疑問かも。