【映画】クリストフ・ガンズ「ジェヴォーダンの獣」
最近のフランス映画ってなんだかんだいって面白いと思う。リュック・ベッソンがメジャーになって、「TAXI」当たりが受けるようになって結構イメージも変ってきました。ビジュアル性を第一に重視しつつ、娯楽性を大事にしてますね。ゴダールとかルイ・マルとかの渋い映像や、ブニュエルなんかのシュールレアリズムは、実際観ると凄いと思いつつも、こっちの方も気を抜いているとおいてけぼりをくらってしまうことがしばしばあるのですが、最近の若手の監督作品はそういう意味ではこちらの気を抜かせないような演出効果
を駆使していて、だれることがないような気がします。ある意味コマーシャリズムな部分を感じさせないこともないのだけど、映像それ自体を楽しく見せてくれるということはそもそも映画の原点だと思うので。
「クリムゾン・リバー」のマシュー・カソヴィッツ、「ドーベルマン」のヤン・クーネン、「ヴィドック」のピトフ、「アメリ」(まだ観てない……)のジュネ等々、皆30代そこそこですがそれぞれのスタイルを既に持っていていいなあと感じてしまう。
さて、「ジェヴォーダン」ですが、「18世紀半ば、ルイ15世の時代、フランス中南部の辺境の地に、一匹の野獣が出現、100人以上の犠牲者を出した……」という設定自体、史実に基づいているそうですが、結構ぶっとんでます。まあ「ヴィドック」の「革命後のパリに鏡の仮面
をつけた錬金術師が徘徊する」という設定も凄かったですが。その「獣」を退治するためにジェヴォーダンの地にやって来たのが生物学者のフロンサック(なんか聞いたことある名前ですけど……)とそのボディガード、インディアンの生き残りマニ。この二人、冒頭では黒づくめの忍者みたいな服装で登場し、日本映画の時代劇という雰囲気ですが、後半マニは裸身に墨を塗ってカンフーアクションを披露、敵の罠にはまってマニが殺された途端、復讐に燃えるフロンサックは自らも裸身に墨を塗ってアクション全開。そんなに強いんなら最初から二人してカンフーやってたら良かったろうに、それに金髪のまま顔だけ黒くして何か意味あるのかよとか思わず言いたくなるような展開。ヴァンサン・カッセルが変態的な貴族役を熱演していますが、伸び縮みのする剣で野獣そっちのけで主人公と大格闘。そういえば後半は正統派の怪獣映画のノリなんだけど、肝心の「獣」のシーンは少なかったかも。
血みどろでグロテスクな惨劇を扱いながらも、どこかユーモラスなのは「ヴィドック」とも共通
したテイスト。サイコドクターことK氏は「フランス人はミステリの意外なオチというものに対してなんか勘違いしている!」と断じているけれど、まあロジックよりもインパクトを重視していることは間違いないです。私は少なくとも面
白いと思ってますよ。これはこれで楽しいですしね。
【映画】ピーター・ジャクソン「ロード・オブ・ザ・リング」
なんて素敵なんだろう! 「指輪物語」ってこんなに面白かったっけ? 文字通
り三部作の第一部なので「続く……」のエンディングなんだけれど、戸惑いながらもそう思いましたね。「指輪物語」は評論社から出ている文庫本全9巻のうち7巻、第二部「二つの塔」までは読んでいたんだけど、正直言って「ファンタジーの定番」という謳い文句に嘘はないものの、あまりに「定番」的過ぎる展開に少し退屈さを感じていたものだから、そんなに期待はしていなかったのです。原作が出版されたのは1954年、それ以降沢山のファンタジーが書かれてきたし、ゲームやアニメーションの世界では殆ど陳腐化されつつある魔法使いや小人の物語ではなかなかつらいんじゃないかなと思っていました。
これは実に脚本と演出の巧さにあります。第一部「旅の仲間」は、三部作の中では戦争もまだ起きてないこともあってあまり見せ場がなくえらくもたもたしている印象があったんだけど、映画ではそこら辺をうまく時間軸を縮めることによって処理していて、あれだけ沢山の人物が出てくるにも関わらず(なにしろ中心となる「仲間」ですら9人もいるのだ!)非常に分かりやすく物語の導入部をまとめています。第一部の後半、メインキャラの一人、魔法使いのガンダルフが魔物バルログと戦い共に地下深く奈落の底へと落ちていくシーンも、原作ではわずか数ページであっさり処理しているのに、映画ではじっくりとスローモーションで残された仲間達の嘆きのシーンを描いていきます。本でも彼らのセリフはないので余計なおしゃべりがないという点では原作通
り、でも映像化されている分より心に迫ってくるものがあるのです。
これは一つには評論社の文庫本の翻訳が「……だったのです」という風に全般的に丁寧語で書かれていることも影響しているのかも知れません。一見読みやすいんだけれど、その分より平易で緊迫感に欠けるきらいがあるのです。ファンタジーとはいえ、「指輪物語」は戦争の中での登場人物達の葛藤を描いているので、そこら辺は普通
の小説と同じようにしても良かったのでは?
それにしても第一部でこれだけ緊張感のある画面を描き出したとなれば、第二部、第三部にもやはり期待してしまう。今丁度原作の第三部を読んでいるのだけれど、後半になるほど人物の心理描写
も複雑になってくるし、一方で戦闘場面も頻繁に登場してくるので、さてさてどうなることやら。
ちなみに、「指輪物語」は1978年に一度アニメ化されてます。今回の映画公開に合わせてDVDが出たので観てみたんだけど、驚いたことに第二部の後半にさしかかったところで唐突に「終わり」となっているのですね。続編作るつもりだったのかしら。それにしては「ここで指輪物語は終わるのである」とかナレーションが入ってるし(だってまだ指輪を火の山に捨ててないじゃん!)……。でも構図とかデザインにかなり今回の映画と近いものがあるのでおやおやと思ったりして。当時「スター・ウォーズ」が公開されたとはいえ、まだまだトールキンの物語を実写
でやれるとは思わなかったのでしょうね。
ここまできたら、次はワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」を映画化して欲しいな。3時間×3部作の「指輪物語」が映画化できるのなら、4時間×4部作の「ニーベルンゲン」も可能じゃないですかね。ワーグナーの楽劇自体は神と人間世界の確執を描いた壮大なスケールの物語だし、「指輪物語」にはない官能性(なにしろ登場人物の半分が女性だし、近親相姦ばっかしだし)もあるけれど、いかんせん舞台で役者が踊っているのをみると違和感を感じるのでした。やはりここは本当に空を飛び回るワルキューレ達が観たいところです。どこかが作るんじゃないでしょうか。何しろ毎年バイロイト詣やっている人達があれだけ沢山いるくらいだから。