あとがき


 「自然」のことを考えるとき、「自然(じねん:訛って“ずねん”)」と発音して
いた祖父の言葉を思い出します。自然とは、山川/草木のことを指して言うのではな
く、“あるがまま”といった意味合いで捉える事のほうが、より本質的なのではない
かと思えてなりません。

 もともとこの地球上に生命として生かされているもの達が、共存し生活する中で四
季折々の季節毎に、そして朝昼夜の一日の時間毎に出会う自然の光景や、それに触れ
て感じる心の動きを大切なものとして捉えながら生きることが、本来の“あるがまま
”つまり「自然(ずねん)」なのではないでしょうか。

 この「自然(ずねん)」は、特別な所に出掛けて接するというのではなく、本来は
日常の生活の場を通して感じる必要のあるものだったのだろうと思います。豊かな自
然に囲まれた地域ではなおのこと、日本の自然との接し方の工夫に見る庭や盆栽とい
ったイメ−ジの楽しみ方にも見ることが出来ます。

 日本に生まれ、四季の変化を楽しむ生活を有り難いことと思います。

 その日本にあって、自然に積極的に関わった生き方をしたいと思い、限られた人生
の時間をそのことに費やすことに悔いがないと学生時に決め、社会人となって20数
年を試行錯誤で過ごしてきました。各地の温泉をめぐり、ファミリ−でのキャンプを
しつつ四季の光景との出会いがありました。その出会いの中で感じる「人とのかたら
い、自然とのかたらい」を生涯楽しんでいく人生をこれからも歩みたいと思っていま
す。

 今、四季を通して出逢い感じた事柄をここに「心の風景のデッサン」として表すこ
とが出来てくるにつれ、その人が大切にしてきた見えない価値観が次第に姿を現して
くるのに気づき始めています。そして、その気づいた価値観を持って日常のまわりの
出来事を見つめてみることで、日常の出来事の中に自然を楽しむように成ってきてい
ます。

出版を決意して間もなく、この本で描こうとしている日本の宝物である四季、その
四季とともに暮らす日本人の自然観や四季観を、どうにかして世界の人々にもわかっ
てもらいたいと強く思うようになっていったのです。
 このためにお力を貸していただいたのは、田中 勝さんでした。この本の日本語の
タイトル「心の風景のデッサン」に対して、英語で“mind story”と詩的に表現して
はどうかとアドバイスいただき、また「曲り屋の四季」について、ここまで感性豊か
な英訳にするためには、どれほど心を砕いて英訳に当たっていただいたか計り知れま
せん。本当にありがとうございました。

 初めての作品ということで、未熟な表現も多いと思います。まだ、自分が大切にし
ているものに自分自身が気づくといったことが精一杯で、多くの方々に見ていただけ
るようなものにするために、高田 城さんをはじめとするスタッフの方々から貴重な
アドバイスを戴きました。その甲斐あって、このようなすばらしい形に仕上がったの
です。

 数年前に、初めての個展というべき「心のデッサン写真展」の開催のきっかけを与
えていただきました鈴木幹夫さんより、「あなたの作品は、写真というより“写心”
だね」との言葉をいただきましたことが、今回の出版というところまで背中をポンと
押していただいたように思えてなりません。本当に感謝申し上げます。

ここでどうしてもお礼を言うべき人がいます。それは、人生のパートナーである小生の
妻(敏枝)です。
 学生の時に”自然と積極的に関わった生き方をしたい”と思い、それ以来日本に生
まれて四季を楽しみ、地球の宝物である各地の温泉で自然と人に真近に接し、アウト
ドアライフを生涯のライフサイクル上に位置づけてしまおうと、折に触れ心がけてき
た様子を見て、“温泉人(オフロウド)”を小生のアイデンティティにしてはどうか、と
提案してくれたのです。この愛称の誕生によって、小生はもちろん我が家の生活スタ
イルが家族の中で、よりはっきりと意識されるようになったのです。またお付き合い
を始めた方々に対し、小生と我が家がこだわりを持っているものが何なのかを伝える
ことでき、新しい交流がスムースに生まれるようになってきています。
 ここに掲載した写真も、季節との出会いについて妻とともに撮影したものも多く、
妻の写真もいっしょに掲載することにしました。何よりも、著作協力として自分の経
験であるかのように熱心に文章の更生を引き受けてくれ、これまでの自分史の色彩が
濃い表現が、読んでいただく方々と思いが共有できる読みやすいものとなったのです


 次に、妻の「心の風景のデッサン」の一遍を紹介するとともに、鈴木幹夫さんから
頂いた「写真じゃなく“写心”だね」を二人で心がけ、これからも自然とともに歩ん
でいこうと思います。


★見守りの月
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 「お月様が見ているよ。泣いていると笑われるよ。」

幼いころ、一人で泣いていると、決まって祖母が、側に来て言ってくれた言葉である
。そんな時、急いで 服の袖で涙を拭いて空を見上げた。暗い空には、まるくて 大
きな黄色い月が、まるでほほえんでいるように やさしく 輝いていた。
 それからは、いつも悲しいとき、淋しいとき、悔しいときなど、こころの沈んでい
るときは、泣いていても涙を拭いてから夜空の月を見上げることにしている。泣きな
がらお月様を見ると、恥ずかしく思えるから。

 お月様を見ようと外に出てみても見えないときもある。そんな時祖母は、「雲が邪
魔して、お月様が見えないけど、お月様からはいつも見えているんだよ。今日は、ど
うしているんだろうかってね。嬉しいときも悲しい時も、良いことをした時も悪いこ
とをした時も、いつも見て居てくれるんだよ。いつもいつも・・・。」

 大人になって、祖母を思い出すときは、きまって月を見上げていた。祖母が、いつ
も見守っていてくれているように思えるから・・・。
                                               (敏枝)


今新たに、日本の四季、日本人の四季観、自然観をさらに見つめ続けていく生き方
をしたいと心に決めました。そして、この地球上のすべての生きているもの達を意識
した生活を楽しみ、これからも継続して自分の心の目で大切なものを捉え、「心の風
景のデッサン」として表現しつづけていきたいと考えています。

 最後にこの本を読んでいただいた方々にお願いがあります。今後、是非その方にし
か表現できない宝物について「心の風景のデッサン」をされ、いつの日か私にも作品
に出会える機会を頂きますよう、そして出版記念にぜひご招待いただけることを楽し
みに筆を置きます。

                                          温泉人(オフロウド)