Via Vino No. 47 "Gibier & Italian Wine"<ジビエ&イタリアワイン

<日時・場所>
2012年12月15日(土)12:00〜15:00 四谷「カルネヴィーノ」 
参加者:15名
<今日のワイン>
辛口・シャンパーニュ「ヴーヴ・フルニ・キュヴェ・R」
赤・辛口「カーゼ・バッセ・トスカーナ・ペガソス 2005年」
赤・辛口「チニャーレ・コッリ・デッラ・トスカーナ・チェントラーレ 2006年」
赤・辛口「ファットリア・カステリーナ・ダイノ・ビアンコ 2006年」
<今日のランチ>
前菜の盛り合わせ
チーズの盛り合わせ
ジビエの盛り合わせ(鴨・馬・鹿・猪)
デザートの盛り合わせ

    


1.ジビエ&イタリアワイン

● 本格フレンチならではのジビエ、その原点はイタリアにあり。
● 古代ローマ、ゲルマン、中世ヨーロッパを通じて求められた「ゲーム」。
● 「血肉こそが力の源」とされた時代から、バランスの良い健康食とされる現代まで。。

 ジビエと言えばフレンチで、実際のところフランスは狩猟人口でもヨーロッパ第1位を誇ります。しかし、フランス料理の原点はむしろイタリアにあるとも言えるのです。1533年にカトリーヌ・ド・メディシスがアンリ2世に嫁ぎ、イタリア料理が導入されてから、フランスは美食に目覚めました。トリュフやソース、ケーキや氷菓子まで、イタリアから導入されたものがほとんどです。
 最盛期を迎えた古代ローマは、植民地から数多くの食材を取り寄せ、現在にも通じる料理が色々と作り出されました。肉類では野鳥が好まれ、ヤマウズラやキジバトなどが多く食べられていましたし、ミルクも大部分がチーズに加工され、すり下ろしたり燻製にしたりして料理に使用されていました。ワインも当初は水などで薄められたものが、次第に技術が進歩してそのままの形で飲まれ、熟成も行われるようになります。
 ローマ文化を引き継いだとは言えないゲルマン民族も、肉食主義を貫き、中世初期の森の多いヨーロッパで盛んに狩りを行いました。ジビエ(gibier)のことを英語ではゲーム(game)と呼び、ゲームという言葉そのものに「狩猟の獲物」という意味があります。もとは食用になる野禽の総称で、フランク語の gabaiti (鷹狩り)が語源と言われています。

2.シャンパーニュ
 
 

「ヴーヴ・フルニ・キュヴェ・R」(タイプ:辛口のシャンバーニュ   品種:シャルドネ100%+ピノ・ノワール5%+ピノ・ムニエ5%  産地:フランス/シャンパーニュ)
 1856年創業の、伝統と格式のあるシャンパンハウス「ヴーヴ・フルニ」社は、シャンパーニュ地方でも特に上質なシャルドネ種を産するコート・デ・ブラン地区ヴェルテュ村に位置します。妥協を許さない精神は、現在5代目となるマダム・フルニとフルニ兄弟に受け継がれ、家族経営ならではの優れたシャンパーニュを造り出しています。「キュヴェ・R」は、先代ロジャー氏の没後、セラーから偶然発見された1本のシャンパーニュを、残された古い資料をもとにフルニ兄弟が再現したもので、敬意を込めてロジャー氏の“R”がラベルに記されています。平均樹齢35年の古木から得られた果汁をオーク樽で発酵・熟成し、さらに48ヶ月の瓶熟成により、しっかりしたボディとコクのある味わいに仕上げました。実際に飲んでみると、ビンテージ・シャンパーニュでなければ到底味わえないような、香ばしいナッツ香と濃厚な味に驚かされました。

3.赤ワイン

   

 今回は、ジビエ盛り合わせに「馬肉」「猪肉」「鹿肉」が揃うと言うことで、イタリアワインの中から、それぞれ「馬」「猪」「鹿」がラベルにデザインされているワインを選んでみました。単なる動物ラベルというだけでなく、それぞれがなかなかに稀少で、しかも非常に味わいのしっかりした本格的なワインを揃えさせて頂きました。

「カーゼ・バッセ・トスカーナ・ペガソス 2005年」(タイプ:辛口の赤ワイン 品種:サンジョヴェーゼ・グロッソ100%  産地:イタリア/トスカーナ)
 カーゼ・バッセ社のジャンフランコ・ソルデラ氏は、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ地域で、サンジョヴェーゼ(グロッソ)100%をあくまでも貫き、自然環境との完全な調和を追求する孤高の生産者です。IGTトスカーナ「ペガソス」は、2005年にリリースされたもので、サンジョヴェーゼ・グロッソ100%、7500リットルのスロヴァニアンオーク大樽で熟成されます。イルカのラベルで知られるブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リセルヴァとの違いは、夏季の気候の影響で特殊なビンテージであったため、樽熟期間が16ヶ月短く32ヶ月となったものが瓶詰めされていることです。ドライ・チェリー、花香とミネラルの風味を持つ、ブルネッロとしては非常に柔らかく、透明感と凝縮感とが同居した、デリケートな味わいに仕上がっています。本来ならば、本格的なブルネッロは最後にあじわうべきワインなのですが、どちらかというとピノ・ノワールを思わせるデリケートな味わいであることを考慮して、赤ワインの最初に持ってきました。まさに雑味がまったくなく、それでいて酸味がしっかりとあり、余韻も長い不思議なワインでした。

 なお、丁度このワイン会を開催している時に、造り手のカーゼ・バッセのワイナリーに何者かが侵入し、5年分のワイン樽が全て廃棄されるという事件が起きました。ただでさえ入手困難なワインが、ますます手に入らなくなってしまった訳で、非常に残念な話であるとしか言い様がありません。犯人は元従業員だったとか…。

「チニャーレ・コッリ・デッラ・トスカーナ・チェントラーレ 2006年」(タイプ:辛口の赤ワイン 品種:カベルネ・ソーヴィニヨン90%+メルロ10%  産地:イタリア/トスカーナ)
 ファーストリリースが1985年となるチニャーレは、海抜427mに位置するグレーヴェ・イン・キアンティ地区のラバッテ、ポンティチーニにある僅か3ヘクタールの畑の、粘土質の土壌から生み出されます。 栽培されているカベルネ・ソーヴィニヨン種とメルロ種は、合わせても1ヘクタールあたり2.5トンを下回る収穫量で、果実は非常に凝縮されたものとなります。熟成はフランス産の小樽で約20ヶ月。非常にタンニン分が豊富でありながら、果実の熟した甘味が口中を包み込み、芳醇で濃厚な味わいが楽しめます。ラベルの猪はマリア・エンプソンによるデザインで、全部で6種類あります。

「ファットリア・カステリーナ・ダイノ・ビアンコ 2006年」(タイプ:辛口の赤ワイン 品種:メルロ100%  産地:イタリア/トスカーナ)
 ファットリア・カステリーナは、かつてメディチ家所有の狩猟区域でもあった、キャンティのモンタルバーノの山麓に畑を持ち、110ヘクタールに及ぶ敷地の中から選別された僅か10ヘクタールほどの土地だけでワインの生産をしています。2004年からはビオデナミ農法を取り入れ、醸造・熟成は、畑同様厳しく管理されたセラー内で行われます。ブドウは収穫後除梗され、28℃で発酵を行い、その後フレンチオークにて12カ月以上の熟成が行われます。紫がかったルビー色で、熟した赤い果実、チェリー、ブラックベリーの香りがあります。複雑でスミレ、タバコの風味があり、ブーケが長く持続します。味わいは滑らかで、濃厚でありながらバランスの良い酸も感じられます。メルロ100%でありながら、非常にしっかりしたタンニンがあり、ある意味最後に回して正解でした。「ダイノ・ビアンコ」とは珍しい白い鹿を意味し、そのため赤ワインでありながら「ビアンコ」と記されています。

4.ジビエについて 

ジビエとは  
 ジビエとは「狩猟鳥獣」のことです。鳥類では鴨、鳩、シギ、キジなど、獣類では鹿、猪、野兎などがあります。飼育された動物に比べ、自然の餌を食べて育つジビエには、肉本来の旨味が段違いに含まれているのです。  
 秋から冬にかけて、動物たちは体に脂肪を蓄えるので、味わいも格段に上がります。フランスでは9月中旬頃に猟期が始まるので、11月から翌年の1月頃までがジビエシーズンとなります。

ジビエの種類と栄養学
【鹿】 

 ヨーロッパのノロ鹿、赤鹿に比べ、日本のエゾ鹿、本州鹿は淡泊な味とされますが、その中では本州鹿よりもエゾ鹿の方が肉の味が濃いとされます。雌の方が肉の繊維が細かく、2、3歳までの若鹿がベストとされます。甘酸っぱい果実の風味とも相性が良いとされています。  
 鹿の肉は脂肪分が少なく、タンパク質が多いため、消化の早い健康食として注目されています。カロリーは牛肉の4分の1で、タンパク質と鉄分は牛肉のそれぞれ2倍、7倍含まれており、青魚に多く含まれている善玉コレステロールを増やす働きのあるDHAも豊富であることが知られています。
【猪】  
 豚の原種ですが、赤みが強く肉質も全く異なります。仔イノシシをマルカッサン、大人のイノシシをサングリエと呼び、70キロ以下の雌が柔らかくベストとされています。瓜模様が残る幼獣はまだ味が弱く、100キロオーバーの雄のサングリアは肉が固すぎます。  
 猪の肉の効能は日本でも古くから知られており、猪を食べることを「薬食い」と呼んでいました。脂肪肝を防ぎコラーゲンの材料ともなる必須アミノ酸スレオニンを牛肉の2倍以上含み、疲労回復に効果があるアスパラギン酸や、天然保湿成分であるセリンなども牛肉や豚肉より多く含んでいます。
【野鳥】  
 中世においては、生物、すなわち食材には造物主が決めた序列があるとされました。天に近い存在ほど高位とされ、空を飛ぶ鳥が最高位、地を走る獣、水の中を泳ぐ魚、地面から動くことの出来ない植物へと続きます。同じ海の生き物でも、水上に顔を出すことのあるイルカやクジラは上位で、海底で動かない貝類は下位となり、同じ植物の中でも、樹上に実る果物は上位で、土の中の根菜類は下位とされました。  
 真鴨は青首鴨とも呼ばれ、雄は美しい青緑色の頭を持っていますが、雌の方が脂肪が厚く味が濃厚とされています。雷鳥は数が減少し日本では天然記念物ですが、ヨーロッパでは代表的なジビエです。水辺の近くに棲み独特の風味のある山鴫(ヤマシギ)は、フランスではジビエの王様とされています。
【ジビエの名称】  
 真鴨(コルヴェール Col-vert)  
 鳩(ピジョン Pigeon)  
 山鴫(ベキャス Bécasse)  
 鹿(シュヴルイユ Chevreuil)  
 野兎(リエーヴル Lièvre)  
 猪(マルカッサン Marcassin/サングリエ Sanglier)  
 雉(フェザン Faisan)  
 雷鳥(グルーズ Grouse)  
 山鶉(ペルドロー Perdreau)

ジビエとワイン

 ジビエの多くは香りの強い赤身の肉で、その香りを引き立てるのがスパイス。従ってジビエを楽しむなら、スパイス風味を持った赤ワインが合います。シンプルなローストなら、ふくよかな果実味を持った赤ワインを。内蔵を用いた濃厚なソースや、旨味が潤沢な煮込み料理なら、より複雑な風味を備えた、オーク樽で熟成させたコクのある赤ワインを合わせます。
 ラムのローストとボルドーの赤は、同化型マリアージュの古典的な例です。ラムのソースにはバジルやミントなどのハーブを多く使いますが、これにはハーブやミントなどの香りを持つカベルネ系のワインが自然と合います。同様にして、血の風味の強い野兎などは、鉄っぽい風味を持つコート・ロティやイタリアのバローロ、タウラジなどが合います。
 焼いた肉にはカベルネ、煮た肉にはピノ・ノワールが合います。焼いた場合は肉そのものの噛みごたえがカベルネの固さに合い、煮た場合は肉のなめらかさとソースの香り高さがピノ・ノワールの柔らかさと合うとされます。また、しっかりした噛みごたえのある肉は、ビンテージの新しいタンニンの苦みのはっきりしたワインが、一方柔らかさのあるリブロースなどには、ある程度年代を経た熟成感のあるワインが馴染みます。

イタリア料理とワイン・定番の組み合わせ

 ピエモンテ州のバローロには、牛肉のバローロ煮(ブラサート・アル・バローロ Brasato al Barolo)、そして野兎の煮込み(レープレ・イン・シヴェ Lepre in Civet)を。ネビオロから造られるバローロは、タンニンがずっと多いものの、どこかブルゴーニュのピノ・ノワールに通じるところがあり、ブフ・ド・ブルギニョンなどと同様に、肉の煮込み料理が合うようです。贅沢ではありますが、バローロで煮込めば、なおさらその相性は完璧とならざるを得ません。
 トスカーナ州のブルネッロ・ディ・モンタルチーノには、猪肉の串焼き(チンギアーレ・アッロ・スピエード Cinghiale allo Spiedo)を。そしてキャンティ・クラシコには、牛肉の炭火焼き・フィレンツェ風(ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ Bistecca alla Fiorentina)を合わせます。果実味が強く、カベルネ・ソーヴィニヨン系とも相性の良いサンジョヴェーゼには、やはりグリルが合うようです。
 他の地域では、たとえばウンブリア州のモンテファルコ・サグランティーノには、山鳩の焙り焼き(パロンバッチャ・アッラ・ギオッタ Palombaccia alla Ghiotta)が、サルディーニャ島のカンノウナウには、野兎のサルディーニャ風(レープレ・アッラ・サルダ Lepre alla Sarda)が定番の組み合わせとなっています。

5.ジビエの歴史

B.C.4世紀頃 古代ギリシャのミタイコスの料理本(大部分は失われた)
B.C.121年 最古のビンテージ「オピミアン・ファレルヌム」
4〜5年 古代ローマ、現存する最古の料理本「アピキウス」、コース料理の紹介
66年 ネロ帝の側近、「サテュリコン」の作者ペトロニウスの死
1395年 タイユヴァン(本名ギョーム・ティレル)の死
1533年 カトリーヌ・ド・メディシスとアンリ(アンリ2世)の結婚       
 〜フィレンツェ料理を宮廷に持ち込みフランス料理を改革
1671年 コンデ公によるシャンティイ城の大祝宴、料理人ヴァテールの死
1814年 ウィーン会議、タレーランのもとでのアントナン・カレームによる料理
1825年 ブリア・サヴァラン「美味礼賛(原標題:味覚の生理学)」刊行
1833年 アントナン・カレーム「19世紀のフランス料理術」刊行
1891年 ペレグリーノ・アルトゥージ「料理の科学と美食の技法」刊行       
 〜イタリア地方料理の集大成
1903年 エスコフィエ「料理の手引き」刊行
1933年 キュルノンスキー「美食の歓び」刊行
1950年 カレン・ブリクセン「バベットの晩餐会」刊行

 古代メソポタミアでは、食肉として山羊と羊が飼育され、羊が最も美味とされました。ウズラなどの野鳥も食べられましたが、後期には鶏が飼育されるようになります。古代エジプトでも同様で、豚については庶民には食べられていたようですが、どちらかというと卑しい物とされていたようです。古代ローマは、当初は比較的貧しかったものの、領土の拡大と共に美食の伝統が広まり、その集大成として、ケーナ(正賓)のコースメニューが細かく記された料理書「アピキウス」が登場します。美食を極め、空腹を怖れて服毒自殺したマルクス・ガイウス・アピキウスによる著書という説もあれば、アピキウスは実在の人物ではなく、食通の愛称として用いられたという説もあります。ローマでは肉と魚は同等に扱われたとも言われていますが、メインの肉料理としては猪や野豚、子羊や子ヤギを焼いた物などが出されました。
 当初、ギリシャやローマでは、ワインは水で割って飲まれていました。また、保存のため様々な添加物が加えられていました。蜂蜜、松ヤニ、海水、各種のハーブやアスファルトまでが加えられ、酸化防止のために表面にはオリーブオイルを浮かべました。その後製造技術が発達すると、より上質でアルコール度の高いワインが好まれるようになります。なかでもカンパーニャ地方の「ファレルヌム」が最上のワインで、世紀のビンテージ、紀元前121年物は、あのカエサルやカリギュラも飲んだと言われています。
 ローマの肉食はゲルマン貴族にも受け継がれ、カロリング朝のカール大帝も狩りの獲物を調理した料理を好んだようです。ヴァロア朝のシャルル6世の調理人タイユヴァンは、30種類の野鳥料理を残していますし、コンデ公の元でルイ14世を招いた大祝宴を行った料理人ヴァテールは、食材の到着が間に合わないことに責任を感じて自殺したとも言われています。14世紀頃から盛んとなった「アントルメ」は、現在では口直しの料理に過ぎませんが、当時は客を喜ばせる余興として、孔雀や白鳥の料理や、城や噴水をかたどった豪華な装飾にまで発展しました。こうした貴族の料理は、フランス革命以後、宮廷料理人達が開いたレストランによって一般の人々にも紹介されるようになるのです。

<今回の1冊>

   
「Winart No.62 May 2011」(美術出版社)
 「ワイン王国」に「リアルワインガイド」、「ヴィノテーク」に「WANDS」…ワイン雑誌も色々ありますが、全てに目を通すこともできず、今のところ定期購読しているのはこの「ワイナート」のみ。2011年5月号では、「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」が特集され、ビオンディ・サンティを筆頭に、カーゼ・バッセ、ポッジョ・ディ・ソット、ヴァルディカヴァからカステッロ・バンフィまで、垂涎のアイテムが並びます。この記事で紹介され、表紙にもなっているカーゼ・バッセのブルネッロ2003年を、シャトー・ムートン・ロートシルト2001年と飲み比べて、意外に大人しいかななどと酔っぱらって偉そうなことをいったのは今年の正月のことだったような。今一度しっかり飲み直してみたいなどと思ったのもつかの間、さらに輪をかけて入手困難となってしまいました。うーん…。

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