「ポッジョ・ディ・ソット・ブルネーロ・ディ・モンタルチーノ」2005年



 コミック「神の雫」最新刊(30巻)の第9の使徒は、「ポッジョ・ディ・ソット・ブルネーロ・ディ・モンタルチーノ2005年」。その記述を引用すると……。

  このワインは秘めた情熱である
  このワインは困難を乗り越える力の源である
  このワインは華やかな成功を夢見る野心である
  このワインは手にした果実であり それを口にした若き勇者の高揚であり 
  忘れ得ぬ「勝利の余韻」である

 ちなみに作品の中では、参加者である三人ともが、この記述から第9の使徒は「ポッジョ・ディ・ソット・ブルネーロ・ディ・モンタルチーノ2005年」であると言い当ててしまい、「使徒対決はワイン当てゲームではない!」と一喝されてしまうシーンがあり、ひええと思ったりしたのですが、実際のところ、私自身の体験からも「ブルネーロ・ディ・モンタルチーノ」というワインは「勝利の余韻」と結びついていないこともないのです。
 米国ワインエデュケーター協会のCWE受験で、2006年の最高得点者として「Banfi Award」を受賞した時、翌年にカリフォルニアに招かれて受賞の記念に頂いたのが「バンフィ・ブルネーロ・ディ・モンタルチーノ2001年」でした。バンフィ社は協会を後援している会社の1つで、イタリアではかなり名の知れた名門のワイン会社であります。今のところセラーに寝かせているのですが、なかなか開ける機会もなく…「やまや」のブラインドテストで頂いた「ガヤ・バルバレスコ1994年」と共に、手付かずで保管しているイタリアワインの1つなのです。

 もともとブルネーロ・ディ・モンタルチーノはイタリアワインの名品の中では比較的歴史の新しいワインです。もともとモンタルチーノは17世紀まで白のモスカテッロで有名な産地で、赤ワインであるブルネッロ・ディ・モンタルチーノが誕生したのは、1888年にビオンディ・サンティがサンジョベーゼ・グロッソを100%使って大樽で4年間熟成させて作り出したのが始まりで、しかも1967年にDOCに昇格するまで、誰もそれを真似る者はいなかったと言われています。そのあたりの事情は「ワイナートNo.62.2011年5月号/ブルネーロ・ディ・モンタルチーノ」に詳しいのですが、ビオンディ・サンティのブルネーロ・ディ・モンタルチーノは、ロバート・パーカーやワイン・スペクテイターでは「薄い」「軽い」とさんざんこきおろされたことでも知られています。リリース直後は果実味に欠けたスタイルに感じられるものの、20年以上熟成させると複雑な味わいがうまれてくるのだと、コミック「新ソムリエ/瞬のワインvol.8」で堀賢一氏はコメントしていますが、開けた直後と熟成を経た後ではかなり味わいが異なるというのはおそらく間違いのないところ。

 さて、コミック「神の雫」では、勝利を掴むコメントを残すのは、主人公のライバルの遠峰氏の方であります。

  このワインの本質は決して黄金の冠ではない
  光り輝くメダルでもトロフィーでもない
  諦めずに自らを信じ走り続けてきた者が
  自らの手で掴み 誇りをもって胸を張る
  評価する者などいらない
  明日に向けまた新たな挑戦を始める
  その第一歩を記すために自らを鼓舞し
  一杯の杯を掲げよう!

 自らを信じて挑戦をし続ける者がすなわち自らに月桂冠を捧げるのだと結論付けるわけなのですが、もちろんブルゴーニュワインもスペインワインにも同じ要素は当然あるだろうと思いつつも、どこか思わず納得させられてしまうのは、ブルネーロ・ディ・モンタルチーノの持つ独特の個性に依るところが多い気がします。
 ちなみに私は、今年の8月に念願の「WSET Diploma」の取得に成功しました。足かけ4年、6つの単位を取るのにかなり手間取ってしまいましたが(特にUNIT-3の論文は4回も挑戦する羽目に……)、無事賞状とバッヂを手にすることができたとはいえ……もちろん、賞状とバッヂが本質なのではないのでして、やはり挑戦し続けるしかないということでしょうか。

 というわけで、今回のDiploma取得祝いに自ら選んだのがこの「ポッジョ・ディ・ソット・ブルネーロ・ディ・モンタルチーノ2005年」であります。「神の雫」本編同様デカンテーションして味わうことにしました。実際に試飲してみると、確かに堅さのある味わいがデカンテーションによって一気に華開く有様を実感することができたのであります。柔らかさがあって抵抗感がなく、重厚でありながらまとわりつくようなしつこさとは無縁。「ワイナート」の記事では、造り手が非常に清潔なワイナリーでブルゴーニュワインを志向していることが記されていましたが、実際イタリアワインらしい親しみやすさがありながら、フランスワインの持つどこか毅然とした雰囲気を合わせ持っているような、そんな印象でした。
 これについては自家製の「ラムのロースト・グリーンソース」で味わいました。
 

 それにしても、「神の雫」の連載が始まり、第一巻が発売されたのは2005年3月。亡くなった神咲豊多香氏が残した記述に2005年ビンテージのワインが使徒として選ばれていて良いのかしら?
 ちなみに現在判明している「使徒」は次の通り。

 第1の使徒 ジョルジュ・ルーミエ・シャンボール・ミュジニー・レザムルーズ 2001年
 第2の使徒 シャトー・パルメ 1999年
 第3の使徒 ドメーヌ・デュ・ペゴー・シャトーヌフ・デュ・パプ 2000年
 第4の使徒 シャトー・ラフルール 1994年
 第5の使徒 ミッシェル・コラン・シュヴァリエ・モンラッシェ 2000年
 第6の使徒 サンドローネ・バローロ・カンヌビ・ボスキス 2001年
 第7の使徒 シン・クァ・ノン・ザ・イノーギュラル・イレブン・コンフェッションズ・シラー 2003年
 第8の使徒 ジャック・セロス・エクスキーズ NV
 第9の使徒 ポッジョ・ディ・ソット・ブルネーロ・ディ・モンタルチーノ 2005年

 



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