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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

        月 刊 ノ ベ ル ・ 6 月 号

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  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)ミヤザキ、が独断と偏見(?)に基づき選抜し
 た小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆくメールマガジ
 ンが「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  なお、本編終了後に簡単なアンケートがあります。今後の編集
 に役立てたいと思いますので、なにとぞご協力ください。

    
http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/novel/ 

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      月刊ノベルは等幅フォントでお読みください。
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  今月の小説@:ささやかな邂逅   作者:まあぷる
  ジャンル  :近未来       長さ:文庫本5頁  

  今月の小説A:スローフード    作者:PAPA
  ジャンル  :ショートショート  長さ:文庫本2頁
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 月刊ノベルのホームページには、掌編小説用の投稿掲示板が設置され
ております。そちらでは、どなたでも自由に自作を登録することができ
また、感想の書込みもできるようになっています。
 今月ご紹介する掌編ふたつは、その「投稿掲示板」に登録された35
編の中から編集人(私)が選び、作者のご了解を得て掲載いたしました。

 まあぷるさんは、そのネームが示すように、大のミステリファンだと
伺っておりますが、書かれる方はこのようなファンタジーからホラー、
ミステリーと多彩です。今回の「ささやかな邂逅」は、まるでスティー
ブン・スピルバーグ「AI」のお株を奪うような近未来SFですが、悲
惨な中に希望を感じるエンディングがとても心に残りました。

 PAPAさんは、アマチュアライターズクラブで長く活躍されておら
れる方で、ご結婚後、作風が丸く(?)なった印象を受けております。
今回の「スローフード」は、いわゆる安直なファストフードに対する警
鐘として現在話題となっている題材ですが、それを舞台を変えた軽妙な
ショートショートに仕上げてあり、くすっと笑えました。

 奇しくも、ふたつとも主人公が*****ということになりましたが、
これはまったくの偶然です。それではどうぞお楽しみください。
 
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■ささやかな邂逅           まあぷる
 
 見つけた。男は思った。
 久々の獲物だ。最後に獲物を見つけたのはいつの事だったろう。
 何ヶ月前か、何年前か。そう、多分あの出来事があってからは初めて
だ。

 未知のウィルスによる伝染病で人類があっという間に絶滅してからも
う5年が経つ。
 巨大な廃墟と化したこの地球で、それでも男は生き続けていた。
 道端に乗り捨てられた車を乗り継ぎ、都市から都市へ、海辺から山の
中へ、そうして食料や水を調達し、それまでに得たあらゆる知識を駆使
して、男は生き延びていた。
 だが、どこへ行っても仲間を見つけることは出来なかった。
 並外れた生命力を持つ彼らにしたところで、獲物が無くなれば絶滅す
るのは当然のことだ。
 いや、何処かで眠っているのかもしれない。
 いずれにしても男は、自分が生き延びていることが不思議でならな
かった。
 獲物は見つからない。捜し続けることすら無意味だった。
 時々、耐えがたいほどの寂しさと虚しさに襲われ、いっそ消えてしま
おうと何度も思った。
 だが、ようやく男は獲物を見つけた。
 髪の長い、美しい娘を。

 コンクリートとガラスで出来た要塞のようなデパートの前を、その娘
はゆっくりと歩いて行く。
 ショーウィンドーの中で色褪せた服を纏ったマネキン達が、空ろな目
で娘を見送っている。
 男はビルの陰からそっと娘に近づいた。昔だったらこんな馬鹿な真似
はしなかった。
 真昼間から獲物を襲うなどという事は考えられないことだった。だが、
背に腹は替えられない。
 滑るように近づいた男に、娘はまったく気付いた様子は無い。
 男は後ろから素早く娘の口を塞ぎ、白く滑らかな首筋に鋭く尖った牙
を立てた。

「痛えっ」
 男は思わず叫んだ。口を押さえてその場にへたり込んだ男を、娘は不
思議そうに見つめている。
「どうかなさったのですか?」
「お前、一体何なんだ。畜生! 歯が欠けたじゃないか」
「歯が? あなたは私に何をしようとしたのですか」
 男は娘の顔をまじまじと見つめた。人間じゃない。

「お前、アンドロイドか?」
「そうです。私はA.I.237…」
「もういい。そんな数字の羅列なんて意味が無い。要するに名前は無い
んだな」
「はい。私に名前を付けて下さる筈だった人達は、みんな居なくなって
しまいました」
「工場で生産された最後の製品、て訳か。お前、ずっとそうやって歩い
ていたのか」
「はい。私に命令を下さる人を探していました」
「5年間もか。エネルギーはどうやって維持していたんだ」
「私は永久エネルギー装置を備えています。動力源としているのは…」
「わかった、わかった。で、結局人間は見つからなかった訳だ」
「ええ。あなたが私が見つけた最初の人間です」
「それは違う。残念ながら俺は人間じゃない。ヴァンパイアだ」

 娘は、驚いたような表情で男を見つめた。
「人間ではないんですか。ヴァンパイアって、どんな生物なんですか」
 生物。そう言われれば間違いなく生物ではある。
「俺達は、人間の血を吸って生きてきた。首筋に噛み付いてね。人間は
俺達の餌に過ぎなかったんだ」
 男は立ち上がると、体に付いた砂埃を払い落とした。
「こんなところで立ち話じゃ、あんたも疲れるだろ。ああ、疲れること
なんてないのか。この先に広場がある。ひとまず其処へ行こう」
 白骨化し、崩れかけた遺体が店の中といわず、外といわず、まるで前
衛彫刻のように意味ありげに転がっているショッピング・ストリートを
抜けると、中央に噴水のある広場があった。
 かつては、ここに大勢の人々が集い、歩き、話し、愛を囁きあってい
た。
 今は、ひびの入った噴水の周りをときおり風が吹き抜けるだけだ。
 男と娘は噴水のへりに腰を下ろした。

「それじゃあ、俺の話をしようか。たいして話すこともないけれどね。
俺の名はジーク。俺の仲間はかつては大勢いたんだが、ほとんどがハン
ター達に狩られてしまった。彼らは俺達に噛まれると自分もヴァンパイ
アになると信じていた。でも、それが本当なら仲間がやたらに増えるば
かりで、餌の方は減ってしまう。そんな馬鹿な話はないだろう。でもと
にかく彼らはそう信じていたし、俺達を酷く忌み嫌っていたからね。俺
達は人間を殺すことで生きてきたのだから、それは仕方がないことかも
しれない。でも生きる権利はある筈だ。だから俺は人間達と暮らしてみ
ることにしたんだ。実際そうしてきた。ときおり襲ってくる衝動はどう
しようもないが、なるべく人を襲わないようにしてきた。でも、今と
なっては無駄な努力だったと思う。人間は絶滅してしまったのだから」

 娘は広場の上を流れて行く雲を眺めながら呟いた。
「あなたは、人間が好きだったのですね」
「そうかも知れない。でも殺さなければ生きられない。皮肉なものだ」
「でも、もうあなたは人間を殺すことはないでしょう」
「それはそうだ。人間はいないのだからね」
「そういう事ではないんです。あなたは私を襲った。そして失敗した。
でもあなたは少しも苦しそうではないし、飢えている様にも見えない。
多分、あなたはもう人間を襲う必要の無い体質に変化したんでしょう。
だからもし、これから人間を見つけることが出来たら、あなたは一緒に
暮らせる筈です」
 
 ジークは考えた。そういえばこの5年間、特に激しい衝動が襲ってき
たことは無かった。
 この娘の言う通りなのかもしれない。
 この娘を見つけて襲ったのは、かつての記憶による惰性のようなもの
だ。
 だとしたら。もし、そうだとしたら。
 もう、人間を襲う必要はないのだ。

「お前を襲ったりして済まなかったな。許してくれるだろうか」
「ええ」
「お前はいい娘だな」
 娘は、深いエメラルド・グリーンの瞳でジークを見つめながら聞いた。

「悲しくは、ないですか」
「悲しい、か。もう悲しみも通り越してしまったな」
「私は感情、というものを授けられました。でも、生まれてからずっと
悲しみ以外の感情を知りません。怒りとか、喜びとか。いっそ、感情な
んて無い方がよかったと思います」
 アンドロイドに感情を与えること。それは人類の自己満足に過ぎな
かったのだろうか。
 あれだけの繁栄を誇りながら、なぜか人類は淋しかったのだ。自分達
以外の知的生物を常に追い求めていたのだ。なぜだろう。ジークには分
からなかった。
「感情もそんなに悪いものじゃないよ。ただ、それだけに支配されない
ようにすることは大切だ。憶えておいたほうがいい。難しいことじゃな
いから」

「見て! 見てください! ほら!」
 突然、娘は空を指差して叫んだ。
 何かが飛んでいく。高い空の彼方を。陽の色をしたそれは、風に乗り、
西の空を目指して漂うように飛んでゆく。

「あれは…。あれは風船?」
 そう、確かにそれは風船だった。と、いうことは……。
「いるんだ。人間が。生き残った人間達が」

 ジークは立ち上がり、娘に手を差し伸べた。
「行こう。あの風船が飛んで来た方向に、間違いなく人間がいる筈だ」
「私もですか? 連れて行って下さるんですか?」
「当然だ。さあ、一緒に行こう。日が暮れないうちに」

 娘は笑った。それは彼女が生まれて初めて見せた、輝くような笑顔
だった。

ーENDー

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この作品を評価願います。





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