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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

        月 刊 ノ ベ ル ・ 8 月 号 1

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  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)ミヤザキ、が独断と偏見(?)に基づき選抜し
 た小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆくメールマガジ
 ンが「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  なお、本編終了後に簡単なアンケートがあります。今後の編集
 に役立てたいと思いますので、なにとぞご協力ください。

    
http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/novel/ 

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      月刊ノベルは等幅フォントでお読みください。
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  今月の小説:私が殺した女    作者:EllieQuoon
  ジャンル :ミステリー     長さ:文庫本13頁  

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 インターネットには、同好の士が集まる様々な会があります。お互い
顔も知らない人たちが集まって、共通の趣味の世界で交流する。あるい
はお互いの素性を名乗らないがゆえに、気軽な会話ができるという面も
あるのかもしれません。
 そして、8月真っ盛り。もうひとつの同好会らしき結社が作られよう
としています。名付けて「電脳ミステリー作家倶楽部」(略称:電ミス)。
その名前通り、インターネットで活躍するミステリー作家(主にアマチュ
ア)が集まって何かを楽しいことをやろうという倶楽部です。おそらく、
ミステリー小説の発表だけに留まらない企画が飛び出してくるに違いあ
りません。
 そして、今回ご紹介するEllieQuoonさん(倶楽部内でのネームは久遠
絵理さん)がそのまとめ役をやっておられる女性。本格ミステリ作家、
エラリー・クイーンの大ファンだとおっしゃるEllieさんですが、その
心酔ぶりはペンネームに如実に現れておりますね。
 さて、自らをロジックジャンキー(?)と呼ぶEllieさんのミステリ作
品の中で、編集人が選んだのは、移動するエレベータ内での殺人事件、
いわゆる密室ものの「私が殺した女」です。
 ミステリーらしく「問題編」と「解決編」の2部構成になっておりま
すので、問題編を読み終えたら、解決編へと進む前に、トリックについて
ちょっとだけ考えてみてください。
 
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■私が殺した女      by Ellie Quoon(ellie)

 *** 問題編 ***

 12月26日、深夜――
 
 空から見る街は昨日までとうって変わってイルミネーションも控えめで、
お祭り騒ぎが終わった後の居心地の悪さを見せている。
 私は溜め息を付くと、ポケットから煙草を取りだした。
 
 手の平で囲った闇の中で赤い灯がぽっと浮かび上がる。その光に照らさ
れた私の横顔は一体どんな表情をしているのだろう。たぶん、殺人者のそ
れに違いないのだけれど…
 
 
 都心のはずれにある中層の古びたマンションの屋上から自分の部屋に降
りてくると、私は後ろ手でそっとドアを閉めた。
 大きく深呼吸してから、仕事用のデスクに向かう。
 
 何もかも準備は整った。
 後は待つだけ…
 
 しばらくして半時間おきに鳴るリビングの壁掛け時計がチャイムを鳴ら
し始めると、間延びしたインターホンの音がそれに重なる。それがこの殺
人劇の開幕を告げる音だった。


「新村先生、夜分遅くにすみません。多嶋です」
「どうぞ、開いてるわよ」

 インターホンから聞こえてきたのは編集の多嶋君の声。彼の律儀な挨拶
に、吹き出しそうになりながら私は返事をした。だっていかにも彼らしい
台詞で。この時間、11時30分にここに呼び出したのは私の方なのに。

 彼はドアを半分開けて顔を覗かせると、「失礼します」ともう一度声を
かけてから部屋に入ってきた。
 
「あの、これ、玄関ドアのポストに入ってましたけど」
 彼がおずおずと差し出したのは回覧板だった。そう言えば、二、三日前
からそこに突っ込まれていたのを見たような気がする。でもこっちはそん
な物に構っていられる気分じゃなかった。
 
「サンキュ。その辺に置いといて」
 私は適当に返事をすると、椅子から立ち上がって書き上げた数枚の絵コ
ンテをちらつかせた。
  
「ねえ、多嶋君。今度の新作のアイディアが浮かんだんだけど。見る?」
「え?本当ですか?それはすごい、うちが頂いちゃっていいんですか?ぜ
ひお願いします」

 彼は大喜びで原稿を受け取ると、早速目を通し始めた。

 漫画家兼イラストレーターの私はいつもこうして雑誌社の人間と組んで
仕事をしている。デビューして10年、結構売れてる方だからどこの編集
部でも別格扱いだ。数人いる担当者の中でも、多嶋君はまだ新人らしさが
抜けなくて少々おっちょこちょいながら真面目な人柄で、何より時間に正
確なのが気に入って今回の計画に一役買ってもらうことにした。
 
 時計を見ると11時40分、そろそろ頃合いだ。
 
「悪いけどさ、それは持って帰って見てくれない?疲れてるの」
「あっ、そうですね。気が付かなくてすみません」
 
 彼は絵コンテを慌てて、それでも丁寧に鞄に仕舞うとぴょこんとお辞儀
をして玄関に向かった。私も煙草を買いに行くからと言ってすぐ後を追い
かける。
 二人でマンションの中央にあるエレベーターの前に立った。そのすぐ横
に階段もあるけど、ここは5階だからそれを使う人なんてほとんどいない。
 
 腕時計を覗くと11時44分…予定通りだ。
 私は多嶋君の他にもう一人時間に正確な人間を知っていて、その人物が
もうすぐここへやってくる事になっている。私は、目の前のエレベーター
が呼ぶ前に1階から上がってくるのを見て、この計画がうまく行くと確信
した。
 
 案の定、5階についたエレベーターには一人の女が乗っていた。
 
 黒いコートに黒い革手袋、スエードの黒いブーツ、と上から下まで黒ず
くめ。黒いレースの縁飾りが付いた帽子の下からは黒真珠のイヤリングが
覗いている。唯一肌を見せているのは顔の下半分だけで、その中の赤く濡
れたような唇だけがぎらぎらと光っている。
 
「ああ、貴女だったの?」
 私はエレベーターのドアを右手で押さえて中の女に話しかけた。
「降りる必要はないよ、ここですぐに渡すから。ねえ多嶋君、貴方今日は
確かこの前の原稿料を持ってきてくれたんだよね」

「あっ!」
 多嶋君は可哀想なくらいうろたえて慌てて鞄から分厚い封筒を取りだし
た。中身は150万円、聞かなくても私にはわかってる。
 
「その為にお伺いしたのに、すっかり忘れてました。すみません」
 彼はまた律儀に謝ってくれた。
 悪いわね。来るなり、他の話で忘れさせてあげたのは私なのに。
 
「いいのよ。それより、それをこの人に渡してくれない?私、借りたお金
を返さなきゃならないの」

 そう言って私は相手を顎で示した。彼女の赤い唇の端が少しだけ上向き、
グロテスクな笑みを形作る。この大っ嫌いな薄笑いを見るのも今夜が最
後…そう思うとこっちも笑いたくなるのを押さえるのに苦労する。
 
 多嶋君は少し訝しげな表情をしながらも、その封筒を手渡し、一緒にエ
レベーターに乗り込もうとした。
 
「あ、ちょっと待って、多嶋君。この前君、ライターを忘れてったじゃな
い?」
 私は彼の腕を取ると、強引にホールに連れ戻した。女の黒い姿がエレベ
ーターのドアに遮られるのを横目で見ながら…

 
「ライターなんて忘れませんよ。第一僕、煙草吸わないし」
 部屋の前まで行く途中で、彼が困ったように話しかけてきた。当然だ。
あんなの、嘘だもの。
 
「あれ、そうだっけ?やだ、誰かと勘違いしたのかな」
 私達はすぐにホールに戻ったが、既にエレベーターは下降を始めていた。
下向きのボタンを押して待ったけど、なかなか箱は戻ってこない。私は期
待と不安で息が詰まるような閉塞感を覚えた。
 
「遅いねえ。仕方ない、階段で下りようよ」

 そう話しかけると、私は先に立って狭い階段を下り始めた。多嶋君はそ
んな私に多少首を傾げながらもついてくる。
 
 1階へ下りてみると、エレベーターのドアが開いたままになっていて、
帽子が転がって床に女の片腕と長い髪がはみ出しているのが見えた。前に
回って中を覗き込むと、さっきの黒ずくめの女が倒れている。彼女の周り
には先ほど受け取った封筒が封を切られて落ちていて、中の万札がばらま
かれていた。
 
 札束の海の中で死ぬなんて、貴女にぴったりね。
 私はそう嗤ってやりたかったけど、勿論黙っていた。
 
 1階正面入り口にある警備員室では、当直の篠山さんが慌てふためいて
どこかへ通報している最中だった。元警察官だけあって、これがただの行
き倒れじゃないことに気付いたらしい。急がなくては。
 
「どうしたの、大丈夫?」
 私は女に駆け寄って助け起こした。その際彼女のコートのポケットを探
り、予想通り例のモノを見つけると、二つともこっそり抜き取って自分の
上着のポケットに忍ばせた。
 
「いかん!遺体に触っちゃ」
 電話を終えた篠山さんが大急ぎでこちらに駆けつけたので、私は彼女か
ら離れた。
 
「遺体って?この人、死んでるの?」
 私は目を丸くして聞いた。
「ああそうだ。ドアが開くと同時に苦しげに倒れてきたのが見えたからす
ぐに駆けつけたんだが、そのまま息を引き取ったよ」

「ふうん、さっき上で会った時はぴんぴんしていたのに。ねえ?」
 私がドアの向こうで腰を抜かしている多嶋君に声を掛けると、彼はぶん
ぶんと首を縦に振った。
 
「は、はい。それはもう、確かです」
「どうしちゃったのかな?心臓発作でも起こしたのかもしれないね」

 私はそう言いながら後ずさると、エレベーターの壁に肩を寄りかからせ
て、後ろ手で先ほどポケットに入れた物を取り出し、それを使ってもう一
つ始末しなければならない痕跡を消した。
 
 それから、気分が悪くなったと言ってトイレに向かう。
 ここの一階にはテナントが入っているので、客用にトイレが設置されて
いる。女子トイレの窓のすぐ下はどぶ川だ。土手から浅い川の中程まで投
げ捨てられたゴミがわんさと浮かび、こちら側の窓を開けるといつも饐え
たような臭いが微かに立ち上ってくる。
 
 私は鼻を摘みながら窓を少しだけ開け、先ほど抜き取ったモノを捨てた。
もし何か怪しまれたとしても、あんなゴミの山からあれだけを探し出すな
んて事は不可能だ。一つだけ心配なのはあれが無くなった事に多嶋君が気
付くことだけど、あの性格じゃ心配ない。
 
 何食わぬ顔で戻ると、もう救急隊員と一緒に警察官も駆けつけていた。
あっという間に辺りを物々しい雰囲気が覆い尽くす。
 
 私服の、刑事らしい男がこちらを振り向いた。

「君、何処へ行ってたの?」
「え?トイレですけど」
「さっき、遺体に近づいたんだってね」
「だって死んでいるなんて知らなかったんだもん」
 
 私は余裕たっぷりの笑顔で彼に微笑んだ。
 
 それを見て諦めたのか彼はそれ以上深く追求することもなく、私と多嶋
君の連絡先を確かめ、念のためと言いながら私達の所持品を改めてから指
紋を採取すると部屋に帰してくれた。
 
 まもなく彼等にも、死因は青酸カリによるものとわかるだろう。でも、
彼女の身体からも散らばっていた封筒や札からも毒は検出されない。いや、
されたとしても極微量のはず。
 
 封筒と札に女と多嶋君の指紋はあっても私の指紋はない。当たり前だ、
全く触らなかったんだもの。私は彼女に近づいてもいないし、勿論何も渡
してはいない。
 
 エレベーターはまっすぐ5階から1階へ降り、誰も途中で止めたり、乗
り降りはしていない。あんな遅い時間にここの住民がエレベーターを利用
する事はめったにないのは先に調べてあるから。
 
 まずは第一発見者の篠山さん、封筒を渡した多嶋君あたりが疑われると
しても、いずれは私にも疑いが掛けられるのはわかってる。あの女に強請
られていたことも、もしかすると警察には知られてしまうかもしれない。
 
 でも証拠がなければ、誰も私を捕まえることは出来ない。
 そうよ、大丈夫。心配ない。
 
 あの女は移動するエレベーター内――完全な密室の中で一人っきりで死
んだ。
 その謎が解けない限り…
 

読者への挑戦状――

 私が犯人なのは認めるわ。でもその方法が貴方にわかるかしら?
 名探偵さんたちの推理を楽しみにしてるわね。

(以下、
解決編へと続きます)
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    Ellie QuoonさんのHP: Ellie Quoon's Mystery House

      
http://fiction.jp/~ellie/ 

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      叙朱       「花火」「音」

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   メルマガタイトル:テキスト版月刊ノベル
        発行日:平成14年8月4日
      総発行部数:1,100部 
      編集・発行:MiyazakiBookspace mbooks@dream.com
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