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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

        月 刊 ノ ベ ル ・ 8 月 号 2

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  今月は2部構成です。こちらは解決編ですので、問題編がまだの
 方は、そちらを先にお読みください。

    
http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/novel/

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      月刊ノベルは等幅フォントでお読みください。
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  今月の小説:私が殺した女    作者:EllieQuoon
  ジャンル :ミステリー     長さ:文庫本13頁  

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■私が殺した女      by Ellie Quoon(ellie)

 *** 解決編 ***


 私がまだ駆け出しの新人だった頃、ちょっとしたことであの女に弱みを
握られてしまったのが二人の関係の始まりだ。私にとって魔が差したとし
か思えない出来事だった。
 
 初めのうちは軌道に乗りかけた仕事を失いたくなかったから、その後は
過去の小さな過ちにようやく手に入れた名声を汚されたくなくて、私は彼
女に金を渡し続けた。馬鹿よね。私が売れれば売れるほど、まるで当然の
ように要求額は跳ね上がっていった。
 
 そして、ある日突然私は気付いた。
 もう充分な代価は支払ったって事に。他人の生き血を吸うことしか能の
ない、あの女の命に値するほどの金額はね。
 
 だから後悔なんてしてない。
 あの女を殺したことなんか。
 今更後ろを振り返ったってどうにもならないんだから。
 

 しばらく経ったある日、私は前に見た刑事から任意同行を求められた。
もしかすると彼女との関係を嗅ぎつけられたのかも知れない。そう思うと
不安だけど、ここが最後の頑張り所だ。私は最後まで逃げ延びたいんだも
の。
 
 
 小さな部屋で私は刑事ら数人の男に囲まれて座った。
 
「被害者とはお知り合いでしたね?」
「被害者?じゃ、あの人は殺されたって言うの?」
「ええ。自殺ではあり得ません。死因はシアン化カリウム…一般には青酸
カリと呼ばれているものですが、それを嚥下したものでした」
「あらなぜ?毒を飲んだのなら自殺じゃないの?だってあそこには彼女し
かいなかったんでしょ?」
「でもあの人には青酸を持ち込む術がなかった。胃の中からはカプセルも
出てないし、持ち物の中からは青酸を運んだはずの容器は見つかりません
でした」
「小さな食べ物の中に忍ばせておいたんじゃない?」

「なるほど。それは考えなかったな」
 そう言いながら刑事は意地悪な笑みを浮かべた。
「じゃあ、本人はそうと知らずに口にしたと言うことも考えられますね」
「それは知らないわ。でも私と多嶋君はあの夜そんなものをあの人に渡し
ていないってことだけはわかってるわよ」
「でしょうね。実はある場所で毒物がみつかったんですよ。犯人は食べ物
でなく、別の方法で被害者に毒を飲ませたらしい」
「別の方法?」

 わずかに鼓動が早くなる。
 何がわかったというのだろう?

「エレベーターのある場所にわずかな青酸反応が残っていました。どこだ
かわかりますか?」
「さあ…」
「貴女ならご存じだと思ったんですがね」

 そう言いながら、私の目の前に彼が差し出したのは透明の袋に詰められ
た二つの黒い物だった。
「実はね、これが見つかったんです」
 
 息をのみ、暫く呼吸を整えてから私は答えた。
「それは…何?」
「見た通りの物ですよ、見覚えがあるでしょう?」
「さ、さあ、知らない。見たことないわ」
「え?おかしいな。これはあの女があの夜つけていた手袋ですよ。彼女が
黒い革手袋をしていた事は多嶋さんにも確認を取りました。この右手の人
差し指と中指の先に膵液が、右の人差し指と左の手の甲にはシアン化カリ
ウムが付着していました」

「へえ、そうなの。でもそれが?」
「またまた、とぼけちゃって。君ならこの意味を知っているはずだろ?」

 彼はニヤニヤ笑いながら、その袋を後ろに立っていた別の男に渡した。
それと同時に彼の言葉遣いが変わり、妙な馴れ馴れしさと哀れみを含んだ
目で私を見始めたのがわかった。
 
「じゃあ、こちらから言ってやろう。君は事件の直前、エレベーター内に
毒を塗りつけた。そして狙う相手が来るのを待ちかまえ、その人物に封筒
に入った札束が渡るようにし向けた。彼女は中の金がいくらか早く知りた
くなり、エレベーターの中で封を切り札を数えようとした。だが、手袋を
していると紙幣は数えにくいものだ。だから脱ごうとしたが、知っての通
り、革の手袋はぴっちり指に張り付いているものなので、脱ぐのに手間取
る。彼女は――たぶんいつもそうするのを君は知っていたんだろう――右
手二本の指先を噛んで、手袋を取った。だがそこには既に毒が付着してい
た、というわけだ。後は彼女が唾液と伴にそれを飲み込めばいいだけなん
だから。
 ではその行為の前に、あのエレベーター内で彼女が必ず人差し指で触る
はずの場所とはどこか?調べてすぐにわかったよ、1階に向かうボタンの
上だとね」

「で、でもそこに毒を塗ったのは誰だかわからないでしょう?」

「確かにこれが無差別殺人が目的なら割り出しは難しい。だけど特定の人
間だけを狙ったのなら話は別だ。時間を限定し、直前にエレベーターに乗
る事が必要だからね。君には動機があり、そしてその機会があった。あら
かじめ一階の警備員に姿を見られないように別の階からエレベーターに
乗って仕掛けを施し、時間通り多嶋さんを呼び寄せ、被害者の女性に来訪
時間を指定することが可能だったのは君だけだろう?」

「偶然って事もあるはずよ。第一その手袋と私が、何の関係があるって言
うの?」

「ああ、それか…」
 刑事は含み笑いを隠しながら私の顔を一層同情するように眺めた。

「君が被害者に近づいた後でトイレに行ったと聞いて、念の為にすぐその
周辺を調べてみたら、下の土手にこの手袋が落ちていたのを見つけたんだ」
「で、でもあそこはゴミだらけで…」

「確かにこの前まではそうだったらしいね。だが君は知らなかったのかい?
あの場所は事件当日の午後に、このマンションの自治会の呼びかけで一斉
清掃をしたおかげで、すっかり奇麗になっていたんだよ。俺達にとっちゃ
幸運だった。これだけがまるで忘れられたようにぽつんと落ちていたんだ
から」

「一斉…清掃?」

 私はゆっくりと言葉を吐き出すと、事件の後、中身も見ないで隣室のド
アポケットに放り込んだ回覧板の事を思い出した。
 
 そう言えば年末が近づくといつもそんな行事があったっけ。きっとあれ
には『年末大掃除』の自治会便りが挟まっていたに違いない。

 そうか、それを忘れていたなんて…
 それにしてもなんだって、あの日なの?
 あんまり間が悪すぎるよ。
 
「それから、この革の表面に被害者以外の新しい指紋が残っていた事も話
しておこう。君がさっき『見たことない』といったこの手袋の上に、あの
場にいた人間の中じゃ君の分しか見つからなかったのはなぜかな。さあ、
答えてくれ。これはあの夜、君が現場から持ち去ったんだね?」

 私はゆっくりと頷いた。
 だって…
 だってそうするしかないじゃない?
 
 たった今わかったわ。どんなにあがいても、私はあの女に生き血の最後
の一滴まで奪われる運命だったとね。
 
 こうしてあっけなく、そう――悲しいほどあっけなく殺人劇は幕を下ろ
し、私はそっと目を閉じた。もう何も考えなくていい。必要もない。そう
思うとなぜか初めてあの女の呪縛が解け、自由になるのを感じていた。
 
  終

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