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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

        月 刊 ノ ベ ル ・ 9 月 号

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  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)ミヤザキ、が独断と偏見(?)に基づき選抜し
 た小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆくメールマガジ
 ンが「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  なお、本編終了後に簡単なアンケートがあります。今後の編集
 に役立てたいと思いますので、なにとぞご協力ください。

    http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/novel/

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      月刊ノベルは等幅フォントでお読みください。
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  今月の小説:卵         作者:水瀬 流
  ジャンル :現代        長さ:文庫本2頁  

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 詩と小説の間に境目があるとするならば、今回ご紹介する作品は、
まさにその境界付近にふらりと漂うものかもしれません。作者の水瀬
流さんは、詩を書いている人。そして、まるで、詩の延長上のような
読む人の感性に訴える小説も書いてしまいます。

 私が水瀬さんの作品に出くわしたのは、インターネットの個人サイト
で8月に開催されていた「うおのめ文学賞」という創作コンクールでし
た。ホームページ掲載の作品を持ち寄って、読者投票と選考委員の2段
構えで優秀作を選ぶという、これまでの「投票のみ」というネット投稿
サイトのコンクールとはひと味違った賞でしたが、そこで堂々の「掌編
部門第1位」となったのが「卵」でした。

 水瀬さんご自身もメルマガを発行されており、「卵」はそちらではす
でに配信済みとか。ひょっとしたら、もうすでにお読みになった方も
いらっしゃるかもしれませんが、まだのかたは、ぜひ、この何とも言え
ない独特の世界をお楽しみください。 

 なお、作者の希望により、改行位置、句読点は原文のままです。

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■卵      by 水瀬 流

 
  時計は無情に進んでゆく。
 自分の恋慕にも非情になるしかない。
 「じゃ帰るね」
 「ああ・・・気をつけてな」
  そのままの、本当に余韻も体温もそのままの姿で
 横たわり膝を撫でる手を、見下ろす事が出来ずにしゃがみ込む。
 「早く行きなさい、離れがたくなるから」
 「うん。メールしてね」
  その言葉は聞こえているのか、目を閉じて、眠ろうとしている。
 それを妨げない為にゆっくりとドアを閉める。
 
  都会の街は人が絶える事がない。
 ホテルの回転ドアを一歩外に出れば、家路を急ぐ人波の藻屑。
 終電を気にしながら、明日の朝食を思い浮かべる。
 「卵・・・あったかしら」
 
  電車は思ったより人が乗っていた。
 笑っている人は誰もいない。
 座っている人はみな目を閉じ、立っている人はつり革にぶら下がり
 手すりにしがみつき、ドアにもたれる。
 みんな無表情。みんな抜け殻。「停止」のままの、虚脱な風景。
 やがて乗客の疲労と1日の終焉を吐きだすように
 ドアが開いて一緒に降りる。
 
  駅前のコンビニで
 ふと目に留まった「温泉特集」の雑誌。
 「・・・・・・逢ったばかりじゃない」
 手に取ると日常に戻れない気がして、表紙を眺めて諦める。
 手にしたのは、卵とカップスープの素。
  
  いつもの私。
 コンビニで食材を買う事すら、贅沢に思えてしまう私。
 朝になればエプロンの制服を着て、埋もれてゆく私。
  
  「着いたかい」
 
  震える携帯から飛び込む愛情。
 眠ってはいなかったのね。
 黙って背中を押したのね。
 埋もれていく膝を、惜しむように文字で撫でられて
 「巻き戻し」された私は、数時間前からリプレイしている。
 続きが見たくて、現実(いま)に目を瞑ろうとするけれど。
  
  窓に映る私は。
 帰りが遅くなって、朝食に足りないものを物色している
 髪のコシもなくなった、地元の主婦だった。
 レジを済ませて、夜風に向かってメールする。
 
  「着いたよ。卵、買ってたの」
 
  揺り起こされる朝が来るまで、おやすみ、本当の私。
 袋の中で卵のパックが、歩く度にギュッギュッと鳴った。
 
 Fin

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