「クンツ・バ・レゼルヴ・ペルソネール・トカイ・ピノ・グリ」1990年
  久し振りの「カーヴ・ド・タナカ」であります。といっても二ヶ月振りですが。「今晩はリーズナブルに行きましょう」という約束だったのですが、何しろワイン好きの藤原先生同席ともなると、ついついワインリストを熟読せざるを得ないのでした。
   「最初はやはりシャンパーニュで……グラスで行きますか?」
   「四人ならボトルで大丈夫でしょう!」
   「ならば……」
   ポメリーやモエ・エ・シャンドンもいいのですが、どうせならと「ボランジェ」から始めてしまう。ボランジェなら絶対、誰に飲ませても大丈夫。これがダメだと言う人はいないでしょう。とっつきやすく、それでいて個性がはっきりしているから、シャンパーニュの中では断然満足度が高い。
   サーモンやエスカルゴといったオードブルを楽しみながら、既に気持ちは次の一本。メニューの片隅に非常に心魅かれるものが……。
   「この、ロバート・モンダヴィ・シャルドネの77年はありますか?」
   あいにくと品切れとのこと。77年でこの値段……? というちょっとびっくりの価格だったので、非常に惜しい気がしたのですが、店長曰く値段通
  りの味でしたよ、とのこと。本当かどうかは、結局飲めなかったので何とも言えないのですが。
   「白ワインで少し寝かせた物で、何か珍しい物はありますか?」
   例のごとくあいまいな質問をした揚げ句、これは面白いと勧められたのがこのピノ・グリの90年物。
   「KUENTZ-BAS……何て読むんですか?」
   その時二通りの読み方を教わったのだけど、あいにくと思い出せないのでした。後で自宅でロバート・パーカーの「世界のワイン」で調べたところ、「クンツ・バ」と記されてました。アルザスの優れた生産者リストの中の四つ星「秀逸」のところに名前が載っています。ちなみに五つ星「傑出」のところには、いわゆる三大生産者「マルセル・ダイス」「ヴァインバック」「ツィント・ウンブレヒト」の名がありますが、すぐその次くらいに位
  置すると考えれば、これはなかなかのもの。勿論あまりパーカー得点にこだわりすぎるのも危険なのですが、何しろ他の本ではそこまで載っていないからなあ……。当然ながら名酒事典にも載っていないし。「エスコフィエ」もそうでしたが、こういうこだわりの店は自ら現地で探してくるから、後から調べようとしてもなかなか難しいのです。
   さて、気になるお味の方はというと……。
   熟成を感じさせる黄金色。香りは強くて、とても個性的。ある意味貴腐ワインを思わせる樹脂的な香りもあるのですが、ナッツや煎った豆類に見られる植物的な香ばしさがあって、これはなかなか今まで味わったことのないものでした。表現するのが難しい。豆腐? カシューナッツ? 近いようでちょっと違う……。辛口だけど後味は甘く、少し置いたゲヴェルツトラミネールのような印象。ピノ・グリはどこかオイリーで実感軽い印象があったのですが、このワインはどっしりとしていて余韻も長い。十年以上寝かせているというのもかなり影響しているかも。実際、そこまで寝かせたアルザスワインというのは味わったことがないし。
   赤ワインは寝かせる、白ワインはフレッシュなうちに飲む(当然、貴腐ワインは除く)……というのが一般
  的な考えだと思われているようですが、個人的には必ずしもそうは言えないかも。むしろ、アルザスやシャンパーニュ、マコンのプイイ・フュッセやローヌ、ジュラ・サヴォアに至るまで、しばらく寝かせてこそ美味しい白ワインは沢山あるようです。
   寝かせた白の次は、寝かせた赤を……と思ってしまったも無理はない(……ホントか?)。次の肉料理は骨付きラムと煮込んだ豚肉……となるとブルゴーニュよりはボルドーか? セラーから色々出してもらってあれでもない、これでもないと散々迷った揚げ句、選んだのは「CH. 
  LA CABANNE(シャトー・ラ・カバネ)1981年」。ポムロールの初めて飲むワインであります。81年は必ずしも当たり年ではないので、今飲まないとそろそろ……というきわどいビンテージ。
   丁寧にデカンテーションしてもらった後、テイスティング。やや青っぽい香りで、ムスク香というよりはあくまで植物的な印象。ボディはやや大人しいけれど、後味に果
  実味が残る……最初は若干紙っぽい匂いがしたのですが、落ち着くにつれて非常にまろやかになってきました。「シヤトー・トロタノワ」の印象に近いけれど、さらに熟成を経て大人しくなっている感じでした。
 ←CH. LA CABANNE 1981
   その後チリのメルローで一息ついてから、デザートワインへ。南アフリカの「JOOTSENBERG(ジューステンベルグ?)」という天然甘口ワイン。シュナン・ブランを使用していて、甘いバニラ香はリースリングの甘口ワインを思わせる非常に上品な印象を受けました。
   それにしても、また飲過ぎてしまったなあ。調子に乗って他の人のことも考えずに次から次へと注文するのはいい加減にやめなくちゃ……。