「クロ・ド・ラ・ブス・ドール」99年
再び「WINESCHOLA」TEAM2000のワイン会。テーマは「ブルゴーニュ、コート・ド・ニュイVSコート・ド・ボーヌ」。言わずと知れたブルゴーニュのコート・ド・ドールの北と南の名産地。数〜数十ヘクタールの畑を生産者達が分け合いつつ数々のワインを生産しています。
私はとりあえず「ブース・ドール」99年を持ち込みました。このワイン、ブルゴーニュ一級のモノポールとしてワインアドバイザー試験のために覚えた銘柄の一つです。何よりも特徴的なのが、ワインの銘柄すなわち畑と生産者名が酷似していること。畑名は「クロ・ド・ラ・ブス(BOUSSE)・ドール」ですが、生産者名は「ラ・プス(POUSSE)・ドール」……どうです、いかにも間違えそうな名前でしょう。「ええっと、銘柄はブス・ドール、生産者名はプス・ドール、畑はプス・ドール……あれっ、逆だったっけ?」アルファベットならPとBはいかにも違うものですが、カタカナだと点だったか丸だったか分からなくなります。実際、こうしてワープロで打ってモニターで見ているとカタカナでは殆ど区別
がつかないし。
1937年までこの畑の名は今とは違って「クロ・ド・ラ・プス(POUSSE)・ドール」という名前でした。「POUSSE」は「新芽」の意味で、いい名前だからこそ所有者はこの畑名をそのままドメーヌ名(ドメーヌ・ラ・プス・ドール)
にしていたのですが、1967年にフランス政府は「ドメーヌが一つの畑のワインしか作っていない場合を除き、ブドウ畑の名前をドメーヌ固有の名前としてはならない」と決定します。そこでドメーヌ・ラ・プス・ドールは自らの名前はそのままに、畑の方をブス(BOUSSE)・ドールと改称してしまったというわけ。
はて、そんな決まりなんかあったっけ? そもそも、かの有名な「ロマネ・コンティ」の畑を所有しているのは「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ」で、他にも「ラターシュ」やらなんやら一杯畑を持っているでしょうに……。しかしロマネ・コンティは唯一の例外なのです。クレイマーの「ブルゴーニュワインがわかる」(白水社)によれば、その理由は「フランス人が王権に縁のあるものにからきし弱いためである」とのこと。なるほどね。
ちなみに今回集まったワインは以下の九本でした。
1)Vougeot Blanc PREMIER CRU DOMAINE BERTAGNA 98(Nuits)
2)Meursault - Charmes premier cru Remoissent Pere & Fis 92 (Beaune)
3)VOLNAY CLOS DES CHENES J.M.Gaunoux 94(Beaune)
4)Volnay 1er Cru Clos de La Bousse d'Or 99(Beaune)
5)Corton-Charlemagne DRUID WINES 85(Beaune)
6)Beaune Bastion Chanson 85(Beaune)
7)Gevry-Chambertin 1er Cru Combe Aux Moines Domaine Fourrier 95(Nuits)
8)Bonnes Mares HERVE ROUMIER 88(Nuits)
9)Clos des Lambrays Domaine des Lambrays 89(Nuits)
ヴージョの白は淡い黄色で香りは控えめ、酸味が抑えられているのに対しどこかバニラの香りがするのは何となく新世界ワインを思わせます。
ムルソー・シャルムは一見香りが控えめに感じたものの、次第にトースト香がただよってきます。口当たりは柔らかいけれどボディは意外としっかりしていて、ふっくらとした印象。
ヴォルネイのクロ・デ・シェヌは透明感のある明るいルビー色と、ベリーとプラムの混じった香りが特徴的。それなりにこなれていますが、あまりムスクのニュアンスはありませんでした。
プス・ドールのブス・ドールは(ええいまぎらわしい!)、輝きのある赤紫で、強くて甘いベリーの香りながら味はしっかり。濃厚だけれど渋くはない。いい意味でおいしいブルゴーニュだと思います。99年ってちょっと新しいかなとは思ったんだけど、飲んで正解だったかも。
コルトン・シャルルマーニュには驚かされました。ここまで熟成したものはさすがに飲んだことはなかったけれど、それにしてもパワフル。正直言って目を閉じて香りをかいだら熟成したピノ・ノワールと言っちゃうかも。ピノ独特の少しムスクのニュアンスを帯びた熟成香が感じられるのです。こういう香りの白は初めてでした。シェリーのような含み香もあり、なんとも不思議な味わいでした。
シャンソンのボーヌは85年にしてはあまりレンガ色をしておらず、明るい赤紫でした。いい意味での熟成香も感じられます。今はあまり表舞台に出てはこないようですが、当時のシャンソン社はなかなかの作り手だったのだそうです。
ジヴレイ・シャンベルタンはグラスの底が見えなくなるほど濃い色。香りはムスクというよりスパイシー。
ボンヌ・マールはきれいな赤紫をしていて、非常に香りが広がるのが印象的。味もなめらか。まるで舌の上を液体が文字通
り滑っていくような感じ。「ビロードのような舌ざわり」とはこのようなことを言うのでしょうか。ビロードなんか舐めたことはないのですが。
クロ・デ・ランブレイは、モレ・サン・ドニの特級畑。1981年に一級から特級へと昇格した返り咲きのブルゴーニュ。物の本には「肉付きがいいがタンニンが強すぎる」とも書かれていますが、ムスク香ながら柔らかい味でした。上のボンヌ・マールの方が人気はありましたが、これはこれで意外とソフトでいいと思うのです。
一級・特級クラスのコート・ドールのブルゴーニュ、しかも85年から99年までさまざまなビンテージを一度に味わうというのは、人数が集まってこそできる贅沢であります。もっとも一人一本持込みで飲むとなると、後半せっかく「とっておき」が登場しても翌日味を殆ど思い出せなかったりするので、少々勿体ない気もしたりして。