「クロ・ド・タール」1994年

 


 二年前の春に参加したワイナリーツアーで、この「クロ・ド・タール」のワイナリーを訪問したことがあります。ブルゴーニュのコート・ド・ニュイ、モレ・サン・ドニにあるモノポール。モレ・サン・ドニの街の建物の窓には黒い狐二匹のシルエットを描いたマークが垂れ幕の様にかけられていましたが、これがモレ・サン・ドニのシンボルマークなのだそうです。元はオスピス・ド・ボーヌにいて、このクロ・ド・タールに参加したのは95年からという醸造責任者のシルヴァー・ピショーさんが案内をしてくれました。
 ここは建物の上の階から発酵、貯酒、充填と下の階へワインを下ろしていく、いわゆるグラヴィティ・フロー・システムを採用しています。畑はモメサン・ファミリーのモノポールですが、セカンドワイン「ラフォルジュ」もあり、こちらもプルミエ・クリュ扱い。となりの「クロ・ド・ランブレ」にもセカンドワインはあるのですが、こちらはモノポールではないこともあってプルミエ・クリュにはならないそうです。  
「クロ・ド・タール」の起源は12世紀まで遡ります。タール修道院の尼僧達が始めたワイナリーで、1789年の革命までは修道院の所有でしたが、それをマレ・モンジュ家が買い取り、世界恐慌で破産する1932年まで所有、モメサン・ファミリーがオークションで買い取って現在に至ります。畑の面 積は7.5ha(19エーカー)。正面から畑を見ると、右がクロ・ド・ランブレ、左がボンヌ・マール、真ん前はリュードベルジュのプルミエ・クリュと、錚々たる銘柄が並びます。有機栽培で、堆肥のみで育てており、平均樹齢は50年、一部には70年のものも。いずれも100年以上は持たせたいとのことですが、その樹齢100年の樹も建物のすぐ近くに植えられていました。台樹なし、フィロキセラなし。「フィロキセラは本当に大丈夫なのですか」との質問に、ピショー氏は銃を撃つ真似をしながら、「毎朝見張ってますから」と陽気に答えてくれました。

  ←クロ・ド・タールの畑
 倉庫に入るとなんと1570年から1924年まで使用していたという古い木製のプレス機が。パロット(オウム)式と呼ばれるもので、巨大な車輪を回すと、麦わらの間に敷かれた果 実がプレスされて果汁が得られる仕組み。プレス機の下には大きな空洞が設けられていましたが、心棒が壊れやすかったので下からビスを外すための修理用スペースが必要だったから、とのことでした。
 発酵室を見てみると、こちらの設備は対照的に非常に近代的。発酵はステンレスタンク。発酵を木樽でやるかステンレスタンクでやるかは醸造家のポリシーの問題ですが、ここはステンレスを採用していました。発酵温度が微妙に調節できるのが良いとのこと。発酵からかもしまで3週間、発酵前に15℃で一週間保ち、発酵が始まってからは35℃まで温度が上がり、40℃に達して2日間置いたところで発酵終了。  
 次に、2001年物を寝かせた新樽の並ぶ部屋へ移動。ここにある90樽が年間全生産量 だとのこと。新樽100%で、4つの樽屋から買っています。焦がしは中程度。オークの産地までは問わないので多くの物が混じっているそうです。ここで9ヶ月間熟成。MLFをゆっくり行いたいので温度は下げているとのこと。瓶詰めに至るまで、合計の樽熟期間は18ヶ月にも及ぶのですが、その割には樽香は強くなりません。
 地下12m下には石を掘って作ったセラーがあり、湿度は75%に抑えられていました。瓶詰めもここで手作業で行うそうです。上の階からパイプで降りてきたワインを受け止めて手分けしてボトリング。必要な人数は七人。一樽ごとに瓶詰めするので、出来たワインをアサンブラージュすることはないそうです。フィルター濾過もなし。全てナチュラル志向でした。
 2000年ビンテージをここで2月にボトリングしたばかりだというので、その詰めたばかりの2000年ビンテージを試飲。Alc.14.5%と高く、赤紫色。酸は控えめで厚みのあるまろやかなタンニン。酸が低い場合は、あまり長熟しないというのが定説ですが、ピショー氏に言わせるとそれは間違いであり、85年、47年といった過去のビューティフルビンテージは皆酸が低かったそうです。同行したI先生からは、「今回シャンベルタンやヴォーヌ・ロマネで2000年物を数多く試飲したがこれほどまろやかではなかった」との質問が出されましたが、それに対しては、「シャンベルタンやヴォーヌ・ロマネを若いうちに判断するのは難しいだろう、クロ・ド・タールはどちらかというとボンヌ・マールに近く割と若いうちから柔らかい」とのことでした。シャプタリも当然ながらしていません。「ブドウさえうまくできれば、後は自分はそれを見ているだけだ」とのこと。
 ブルゴーニュのモノポールは試験でも覚えなければならないものなので、「クロ・ド・タール」の名もそれで知っていたのですが、実際評価の高いワイナリーで、フランスのワイン評価誌クラスマンでの「コート・ド・ニュイ」でのドメーヌ評価で三つ星となるものは「ロマネ・コンティ」「クロ・ド・タール 」「デュガピ」「ルロワ」「ドニ・モルテ」の五つしかないのですが、その中にしっかりと名を連ねています。  
 クロ・ド・タールは日本では大体価格にして18,000円位するのですが、ネット販売で一万円以下で売っていたので思わず買ってしまいました。94年という年はビンテージ的にはあまり良い年ではないのですが、それでも10年置かれて丁度良い感じに熟成していました。まろやかで雑味がなく、それでいてブルゴーニュの銘醸品ならではのムスク香を含んだ上品な風味と、ピノ・ノワールにしては濃い色調、余韻のある後味は非常に気持ちを落ち着かせてくれます。



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