「バルベーラ・ダスティ・ヴェスパに乗った少女」2002


 


「私は、バルバラが世界の中心だと思っていた」パンケーキの匂いのする中庭で、少女と少年達が空を飛ぶ……ファンタジックな夢の世界から始まる導入部から、物語はいきなり惨殺された一家の一人娘が眠り続ける研究所の一室へと舞台を移す。2002年から連載の始まった萩尾望都先生の長編「バルバラ異界」は、月のお姫さまや海の王子様が登場し様々な果 物が満ちあふれた少女の夢と、心臓を切り取られ血が降り注ぐサイコな風景とが同居した本格SFコミックで、謎が謎を呼び、様々なイメージが折り重ねられた一筋縄ではいかない傑作です。
 今回、「ゆきのまちパーティ」で再び萩尾望都先生が出席されると聞き、はてさてどんなワインを持ち込んだものかと悩んでいたところ、Kさんから「イタリアにバルバラというワインがあるとか……」というアドバイスを受けました。一瞬、そんなのあったっけ? と思ったら北イタリアのメジャーな赤ワイン品種「バルベーラ」のこと。なるほど言われてみれば!
「バルバラ」は、物語の中では登場人物の一人が「バーバリアン(蛮人)がいる異国=外国」を意味するものとして島に名付けた名前ですが、イタリア品種のバルベーラは、十字軍の時代に北アフリカのバルベリーアから北イタリア、ピエモンテに運ばれたブドウと言われていて、現在ではお隣のロンバルディア州、遠くカリフォルニアでも栽培されている非常にポピュラーなもの。バルベリーアという地名自体「異国」となんか繋がりがありそうに思われますが、どうなんでしょうか。同じピエモンテの赤ワイン品種ネビオロが、王のワインパローロ、女王のワインバルバレスコの主要高貴品種として崇められたのに対し、バルベーラは庶民的なワインとして親しまれ、19世紀の詩人J.カルドゥッチに「美酒バルベーラ、飲むほどに、嵐に立ち向い、海に独りさまよう思い」と歌われた、ある意味荒々しさのある、野性味のある品種と言えます。
 さて、ピエモンテのバルベーラ種で決まりとはいえ、どんな銘柄を選んだものか……できれば「バルバラ異界」の連載開始年である2002年物がいいなと思ってネット検索をしたところ、「ヴェスパに乗った少女」というワインを発見。違った色の服を着た少女が四人、ヴェスパに乗ってこちらを見ている写 真がそのままラベルになっていて、これはどこか萩尾先生の世界に通じるものがあるなあと思ったのでした。作り手はCASCINA CASTLE'T(カッシーナ・カストレ )という初めて聞く生産者で、ネットの案内では2003年物となっていたのですが、絶対面 白いと思い即座に購入。そうしたらいざ受け取ってみると2002年物でした。これはうれしい間違い。通 常であれば、ビンテージの違うワインが送られてきたら抗議するところでしょうが、今回は大威張りで会場に持っていったのでした。もっとも2002年のイタリアはやや雨が多かったため、青いタンニンが残るとされ、評価はやや低め。
 ただ、何分にも初めて購入する銘柄なので、もう一つ安心できる品質のものをと思い、「ラ・スピネッタ・バルベーラ・ダルバ・ガッリーナ2000年」も購入。これはサイのマークで有名なピエモンテの優良ワインで、まだそれほど人気が出る前に、ラベルが面 白いやと思ってこの作り手の「バルバレスコ」を買ってみたら、意外に美味しかったのでびっくりしたという思い出があります。次に店頭で見かけた時には倍以上の値段になってましたっけ……。「季刊ワイナート2002年13号」でも、「DOCGエリアにおいて、バルベーラに対し最上のパーセルを与えているのがエリオ・アルターレとラ・スピネッタ」と紹介されているほど。

  「ラ・スピネッタ・バルベーラ・ダルバ2000年」

 “ラ・スピネッタ”とは、ピエモンテ州に連なる丘陵の頂上を意味しています。 オーナー兼醸造責任者であるジョルジョ・リヴェッティ氏は、世界各地のワイン造りを学び、なおかつ新しい試みに挑戦、『ガンベロ・ロッソ』2001年度版においては、ワイナリー・オブ・ザ・イヤーに輝いています。先の「季刊ワイナート2002年13号」でもこの作り手が紹介されていますが、そこにもバルベーラ・ダルバのこの銘柄について記されていて、それによれば、ガッリーナの生産は年間6,000本、土壌 は石灰分と粘土で、ブドウはバルバレスコのガッリーナの最上の区画にネビオロと並んで植えられている、とか。イタリアの 2000年ビンテージは、8月の終わりから9月にかけて非常に暖かかく、評価も○。
 「ヴェスパに乗った少女」は「バルベーラ・ダスティ」、サイのマークのガッリーナは「バルベーラ・ダルバ」。どちらも品種は同じですが、それぞれアスティ地区、アルバ地区で造られているのでその名が付きます。アスティ地区は発泡酒で有名なので、何となく薄いんじゃないかという先入観がありますが、実際には必ずしもそんなことはないらしいです。それにしても、少女の写 真がラベルになっていたり、意味なくサイのイラストが入っていたり、やはりイタリアワインっておフランス物にはない楽しさがありますね。
 もう一本、「メリーベル」(正確にはこれもメリーヴェイルMERRYVALE)のリザーヴ・メルロー。確か前回はこれと同じ銘柄のカベルネ・ソーヴィニヨンを用意しましたっけ。
  「メリーベル・リザーヴ・メルロー1999年」
 19ヶ月間フレンチオーク樽にて熟成。葡萄品種はメルロ95%、カベルネソーヴィニヨン5% 。1999年ビンテージのカリフォルニアは秋に雨が降らなかったため、無傷の収穫。酸度が自然のままで高く、10月が暑かったことで強いフレーバーと色を持つワインとなったとされます。
 パーティ当日は夕方からいきなりの豪雨。ボトルを3本えっちらおっちらと持っていき、挨拶が一通 り終わった後ワインを簡単に紹介して抜栓、希望者に集まって自由に飲んでもらいました。

  説明してます。    抜栓してます。

 「バルベーラ・ダスティ・ヴェスパに乗った少女」はやや軽めながら無駄な苦渋味がなく果 実味が素直に楽しめる赤ワイン。渋い赤ワインが苦手な人にも好評でした。「ラ・スピネッタ・バルベーラ・ダルバ」はさらに色調も濃く、ボディがしっかりしていて余韻も長い。赤ワイン好きには一番人気。実際、同じ品種とは思えないほど色も味も違います。「メリーベル」はややレンガ色を帯びていて、色調も味の濃さも上記の二つのバルベーラの中間あたりといったところでしょうか。
 ちなみに「バルバラ異界」は現在3巻まで出ていて、物語はさらに「バルバラ蛋白質」による不老不死の実験にまで話が広がっています。続きが楽しみなんですが、その前にもう一回ゆっくり読み直して頭を整理しておかないと……。せっかく作者本人を目の前にして何も聞くことが思いつかなかったのがちょっと情けなかったりして。



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