「クラッハー・トロッケンベーレンアウスレーゼ・シャルドネ」1998


 


 世界各国で栽培される国際品種として、あまりにも有名になってしまった「シャルドネ」。すっきりした酸とミネラル感が特徴のシャブリ、バターのような芳香とまろやかさが身上のムルソー、トースト香と濃厚な味わいのモンラッシェ……カリフォルニアの樽熟シャルドネは甘い口当たりが印象的で、オーストラリアやニュージーランド、南アメリカでも続々と本家ブルゴーニュに迫る早飲み型や熟成型のシャルドネ・ワインが造られています。
 そういうわけで、テイスティングの会となると、今更シャルドネでもなかろうと、避けられがちなのがこの品種。ニュートラルで、それなりの環境が揃えば比較的栽培しやすいと言われており、広まりすぎてしまったのが運の尽きというか、近年ではむしろ樽を使わず品種本来の香りをアピールするタイプの、アロマティックなソーヴィニヨン・ブランリースリングに関心が移りつつあります。
 だからというわけでもないのですが、この月のテイスティング勉強会では、あえてこのシャルドネを選択。でも普通 の樽のあるなしでは面白くないだろうと、本でしか読んだことのないシャルドネを使った甘口の貴腐ワインをネットで探し出して購入してみました。
 産地はオーストリア。この地ではシャルドネはモリヨン(Morillon)と呼ばれるそうで、そもそもこれがシャルドネと同じものだと判明したのは1980年代になってからなのだとか。「田崎真也物語〜ソムリエ世界一の秘密」(朝日新聞社)によると、95年の世界最優秀ソムリエコンクールの筆記試験には、「オーストリアでMorillonのセパージュがあるのは何処か」という問題が出されたとあり、当時この本を読んだ時には「そんな品種聞いたこともないわい」と驚いたものですが、手元にあるジャンシス・ロビンソン著「ワイン用葡萄ガイド」の「シャルドネ」の項には、「シュタイアーマルク地域でモリヨン、ウィーンとブルゲンラントではFEINBURGUNDERファインブルグンダーと呼ばれる」としっかり書かれています。オーク樽で熟成された比較的濃厚なタイプ、良好なリースリングを想わせる芳香の締まったタイプ、そして甘口のアウスブルッヒ・ワインがあります。
 アロマティックなリースリングとソーヴィニヨン・ブラン、ニュートラルなシャルドネ……というのは自分の中で半ば常識化していただけに、甘口の、しかもトロッケンベーレンアウスレーゼ、すなわち最高級の貴腐ワインがシャルドネで作られるなんて……と思いながらも、実際飲んでみて驚き。まさに正統派の濃厚な熟成した貴腐ワインではないですか。濃い琥珀色をしていて、キャラメル、シェリー、ハチミツ、レーズン、シナモン、オレンジマーマレード……といった複雑な香りが絡み合い、適度な酸味があってキャラメルやマンゴー、プラムのような後味がありました。フランスのソーテルヌというよりはドイツのTBAに近いイメージでしたが、テイスティングの参加者からは「オーストラリアのセミヨン」という声も上がりました。甘口向けの品種で作られたワイン、という印象が強く、シャルドネでこんな香りの華やかな甘口ワインが作られるとは少々意外。
 シャルドネで作られたワインの中では、甘口ワイン、貴腐ワインはやはり例外的な存在ということで、テイスティング勉強用としては少々反則だ! という声も当然上がりましたが(そりゃそうだわな……試験に出るとはとても思えない!)、シャルドネはあくまで辛口ワインのもの、と決めつけてしまうのも勿体ないのでは? 先入観を捨ててまずは飲んでみる、というのがワインをより楽しむコツなのでは……と一人納得していたりするのでした。



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