「ロマネ・コンティ」2005年


 

 1人店に向かうまで、電車の中で読んでいたのが「ワイナート2009年3月号/特集・ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ」。とにかくワインに対する田中克幸氏のほめ言葉が凄いです。「ロマネ・コンティ」については「澄み切った非現実性を濃密な気配が埋める…典雅を究める香りの宴とその彼岸にある無への道…」、「ラ・ターシュ」については「清濁両立する現実性の美…展開を目指す気迫と地にとどまる人間的寛容の確信に満ちた存在感」とあります。田中氏によれば、「ロマネ・コンティ」は「無」、「モンラッシェ」は「有」、「ラ・ターシュ」は「現実」ということになるようなのですが…分かるような分からないような…。果たして実際に飲んでみて、どこまでイメージが浮かぶものだろうかと思わずにはいられませんでした。

 年末恒例、キャンセル待ちでしか参加できない「シノワ」さんのプレステージワイン会、昨年は「ラ・ターシュ1961年」をはじめとして、シャンパーニュから白・赤・デザートワインまで「別格」と言えるワインのテイスティングでしたが、今回は「DRC2005年物」テイスティング。2005年は確かに良年とされていますが、今味わうには少々早すぎ…分かってはいるものの、一方でそうそう飲める機会があるものではなし…。というわけで、エントリーしたところ、まさかの繰り上げ当選、参加することができました。
 試飲したワインは以下の通り。

 Champagne Eric Rodez Grand Cru
 Echezeaux 2005
 Grands Echezeaux 2005
 Romanee St. Vivant 2005
 Richebourg 2005
 La Tache 2005
 Romanee Conti 2005
 Frederic Esmonin Gevrey Chambertin 1er Cru Estournelles Saint Jacque 1999

 まずはシャンパーニュ。「エリック・ロデズ」はアンボネイ村のレコルタン・マニピュラン。正統派シャンパーニュらしいグレープフルーツを思わせるしっかりとした酸。ボディがあり、まろやかな印象があるものの、意外に余韻が長く、ジューシーな酸味がずっと舌に残ります。
 そしてさっそく、DRC最初の一杯「エシェゾー」。輝きのあるルビー色、ラズベリーなどのフルーツ香に、やや動物的な香りや、スミレやバラを思わせる花の香りも重なり、ある意味典型的なピノ・ノワールでした。ベリー系の強い香りにムスクが混じり、若干酸を思わせる香りも感じられました。酸はシャープで、意外と刺激があります。
 二杯目は「グラン・エシェゾー」。外観は殆ど変わらず、やはり輝きのあるルビー色…といっても、店内はやや照明が暗いので、正確なところはよく分からないのですが…。香りの傾向も非常に似ていますが、やや固い? 閉じている? という印象。華やかな印象のある「エシェゾー」に対し、「グラン・エシェゾー」はやや重厚で、ほのかな甘みも。甘みと言っても、いわゆる新世界ワインに良く見られるジャムのニュアンスは全くなく、とても澄み切った雰囲気のワインでした。「エシェゾー」との違いはそうなるとアルコール感でしょうか。
 「ロマネ・サン・ヴィヴァン」は、いざ香りをかいでみると、先の二品と比べるとより動物的な香りが強いように感じました。バニラやクッキーの甘い風味も僅かに感じられ、まさに鼻の奥がくすぐられるような印象。ただし飲んでみると、やや大人しめ。タンニンも刺激があるというよりは柔らかく舌にまとわりつくような感じ。含み香は強いのですが、味自体は果実味の印象が強く、余韻は長いものの、比較するとやや淡泊なスタイル。
 そして「リシュブール」。これは逆に重い! 非常に動物的な、ムスクのようなニュアンスが強く、ベリー香というより香水そのもの。タバコのような特徴的な香りもあります。酸をあまり感じさせない香りで、今回試飲した中では一番力強かったです。これを嗅いだ後に「エシェゾー」の香りを確認すると、うまく表現できませんがやや焦げたような風味に感じるほどでした。タンニンの苦味はそれほど感じないのに、収斂味は強く残ります。わずかに舌を締め付けられるような、不思議な感覚に襲われます。それほど濃いわけでもないのに、とにかく余韻だけがひたすら残っていくような不思議な感じがしました。
 次に飲んだ「ラ・ターシュ」も、苦くないのにひたすら舌に残っていくタイプのピノ・ノワール。こちらも面白いことに強いワインで、何というかパワフルで、中に秘めた爆発力のようなものを感じます。「リシュブール」との違いはといえば、こちらがやや甘い香りがする点。バターのような風味は、樽の香りも入っているのでしょうか。これと比較すると、逆に「エシェゾー」がよりフルーティに感じます。果実香はあまりないようです。
 そして問題の「ロマネ・コンティ」。このクラスのワインは熟成させるほど真価を発揮するものなので、今判定するのは難しいのでしょうが、香りの第一印象は前述の「リシュブール」が弱まったような、どこか優しいフローラルな印象。おとなしく、挑みかかってくるような雰囲気は全くありません。なめらかでスムーズ、味わって見ると、刺激は少ないのに余韻が長い。何というか、非常に「素直な」ワインで、果実味などはむしろ最初の「エシェゾー」の方が勝るほど。
 全体としての印象は、いずれもベタつかず、意外にさっぱりしているのに、余韻がとてつもなく長いというところ。ちょっと飲み足りないと感じるくらいが逆に丁度良い? 「ロマネ・サン・ヴィヴァン」と「ロマネ・コンティ」は、比較的素直でおとなしく感じましたが、「サン・ヴィヴァン」がひたすら普通に上質なピノ・ノワールの香りがするのに対し、「コンティ」は何かちょっと違う、という印象。香水のような、洋梨のような、どこか違う隠れた香りがあるように思います。まあ先入観もあるとは思いますが。「リシュブール」は非常に特徴的。一番動物的でパワフルに感じます。「エシェゾー」は華やか。ある意味一番「開いている」のかも。しばらく置いていると、上質な紅茶のような風味が出てきます。「ラ・ターシュ」 はまだまだ固い…良い意味で力を秘めているという印象です。
 まずはじっくりと味わうために、あえて食事は頼まずに通して試飲したのですが、この段階でお勧めのジビエと合わせてみることに。「山鳩のロースト」と。やはり合うのは、香りが強く華やかな「エシェゾー」と、動物的な香りが支配的な「リシュブール」でした。
 さて、一通り試飲した後で、「このクラスを飲んだ後でも楽しめるものがあれば…」とお店の方に尋ねたところ、出されたのが「ジュヴレイ・シャンベルタン・プルミエ・クリュ・エストネール・サン・ジャック1999年」でした。10年熟成ですが、力強さがあり、しっかりしています。良い意味でインパクトのあるピノ・ノワールでした。後で調べたところ、元詰めを始めてからまだ20年程度の新しい造り手ながら、非常に注目株とのこと。確かにこれはこれで十分、という気がします。余韻の長さも若干のムスク香も理想的なピノ・ノワールならではのもの。どんなに安くても数万以上するDRCクラスに比べ、ネットで1本5,000円程度(売り切れでしたが…)というのもリーズナブルかも。こちらの方が苦味があってタンニンをストレートに感じるので、ブラインドでは逆に高級と思ってしまう人もいるのでは?
 それにしても、あらためてワインを表現するのって難しい…。出てくる言葉はやれ果実だのムスクだの、いかにもという単語ばかりで、後で読み返してもなんか違うなと思いつつその時はそれしか思い浮かばないのだから仕方ありません。前回の「ラ・ターシュ1961年」の時は、古酒ならではのインパクトにかなり魅せられて色々書けたので、それに比べると今回はやや自分でもあっさりとした印象だったことは否めませんが。
 詩や絵画、音楽に喩えられたら格好良いかなと思ったりもするのですが、実はワインをじっくり飲んでいても、そうそうアートが頭の中に思い浮かぶものでもないなあと、最近思ったりもするのです。甘い旋律、という言葉がぴったりするメロディーは確かにありますが、いくら美味しいリンゴをかじっても甘いメロディーが頭に浮かぶわけでもなく、舌からの官能が耳からの官能にそのまま置き換わるというものではないような気がします。ワインの愉しみや奥深さは、音楽や絵画とイメージが重なることは確かですか、この味にはこの色、この音符というように、一対一対応するものではなく、どちらかというと記憶に伴う感情が、複合的にさまざまな感覚をよみがえらせていくというのが正確なような気がするのですが…。



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