「シャトー・オー・ブリオン」1929年



<左上から>「ヴォギュエ・ボンヌ・マール1970年」「ヴォギュエ・ミュジニー1970年」「ヴォギュエ・ミュジニー1963年」
「シャトー・ラフィット1950年」「シャトー・ラトゥール1950年」「シャトー・オー・ブリオン1929年」「シャトー・シュヴァル・ブラン1928年」

 一昨年の古酒、昨年のDRCと続いたシノワの年末ワイン会、昨年の反省(?)も踏まえて、やはり今回は古酒を……というわけで、気合いを入れて参加。例によって一杯30分近く粘ってとことん味わったのでした。
「ヴォギュエ・ボンヌ・マール1970年」
 ヴォギュエといえばミュジニーの畑の7割を所有するブルゴーニュ、コート・ド・ニュイ、シャンボール・ミュジニー筆頭の造り手。そのボンヌ・マールは、とにかく香りが特徴的。どこか紅茶を思わせる柔らかいブーケ。ブルゴーニュ古酒に見られる動物的なムスク香は意外とそれほど感じられず、どちらかというと植物的な香りでした。味は……一口目からぐっと来る、意外に強い味わい。酸もしっかりしていて、別な意味でジューシーな印象。サクランボを囓ったような口当たりが感じられ、これくらい熟成させると逆に酸が際立つのかとあらためて感心した次第。その意味では確かにパワフル。暫く味わっていると、次第にブランデーのようなニュアンスが……。一発目から「やられた……!」という印象。昔飲んだリオハの古酒もこんな植物的で複雑な香りを感じたように思います。刺激自体は控えめなのに、味わいはむしろ強い……。確かに、他のワインにはなかなか見られない雰囲気があります。
「ヴォギュエ・ミュジニー1970年」
 同じ造り手、同じビンテージの畑違い。シャンボール・ミュジニーのグラン・クリュにおいては、北の粘土質土壌のボンヌ・マールは男性的、南の砂質土壌のミュジニーは女性的、というのが定説ですが、このミュジニーはとにかく最初からムスク香全開、より力強く、まさに正統派の熟成ブルゴーニュというのが第一印象。しばらくするとやはりあの独特の紅茶の香りが現れてくるので、やはりそこは共通する部分なのだなと納得するものの、この力強さは確かにボンヌ・マールを上回っていました。すくなくともこの2つにおいては、ボンヌ・マールは植物的で、ミュジニーは動物的。複雑さという点ではミュジニーの方に軍配が上がるかな。
「ヴォギュエ・ミュジニー1963年」
 さらに7年前のビンテージ。しかし1970年より1963年の方が香り、味共に「強い」印象。ちなみに手元の「ブルゴーニュワイン100年のビンテージ」(白水社)によれば、1970年は「平凡な年、白の方が良い出来」、1963年は夏に雨が多く低温で「悪いあるいは平凡な年」とあり、その意味では残念な年のはずなのですが、最良の造り手による物は今でも美味しいとの但し書きもあって、特にこの時期はヴォギュエという生産者がまさに脂の乗っていた頃ということもあるらしく、まさに熟成ブルゴーニュの醍醐味が味わえる逸品でした。1970年の方がより紅茶的で、むしろ熟成の進んだ印象がありましたが、1963年はさらに正統派、逆に若々しさが感じられました。どこか暖かみを感じさせる香りでありながら、味の方はむしろ酸が強くキリッとした印象。ある意味じっくりと噛みしめて味わうべきワインなのかも。
「シャトー・ラフィット1950年」
 さて、40年以上の熟成ブルゴーニュから、60年熟成のボルドーへと進みます。一級筆頭のラフィットですが、こちらまでくると先ほどのパワフルさは影をひそめ、どこか優しい味わいの文字通り古酒らしい古酒となります。しかしボルドー独特の、あの厚い皮から来る独特の甘苦い風味と、エスニックで動物的な香りが感じられるところはさすが。タンニンはかなり落ち着いていますが、レーズンやダークチェリーの風味はしっかりと残っています。
「シャトー・ラトゥール1950年」
 同じビンテージの一級で、筆頭のラフィットに対し第3位に位置するラトゥールとの比較。エレガンスなラフィットに力強さのラトゥールと良く言われますが、色の濃さも香りの強さもその意味ではラフィットよりもラトゥールかも知れません。よりボルドーらしいのはやはりラトゥールでしょうか。
「シャトー・オー・ブリオン1929年」
 1929年といえば、第2次世界大戦よりも前、世界大恐慌の年。80年以上の熟成! このクラスの古酒となると、ヴァン・ドゥー・ナチュレルの「リヴザルト」ぐらいしか飲んだことがありません。そもそもコルクだってそんなに保たないでしょうに……と聞いたところ、コルクも当時打栓した物のままらしいとのこと。「リコルクしなくても良いのですか?」「1899年物でリコルクしていなかった物を開けたことがあります。最近ではむしろリコルクしすぎの方が問題かと」 コルクは保たない、という先入観がありますが、これもなかなか一概には言えないものらしいです。
 さて、その驚くべきオー・ブリオン1929年ですが、とにかく色が濃い。店内は暗く、色のニュアンスは少々わかりにくいのですが、後述の「シュヴァル・ブラン」と比べるとかなり暗い色をしていました。そして香りは……非常に甘い! 独特の風味で、果たして何の香りだろうか、どこか馴染みのある、それでいてワインとは連想が結びつきにくい香り……。悩んだ末ひねり出したのが「ミルクコーヒー」の風味。正直なところ、酸味とあるワインとミルクコーヒーは違和感があるのですが、そして実際酸味はこのビンテージにおいても意外にしっかりとあるのですが、想像するに乳酸由来の物なのかと。乳酸の味わいと、こなれたタンニンとの組み合わせが、ミルクコーヒーのような印象をもたらすのだろうかと思った次第であります。チョコレートやクッキー、パウンドケーキのような複雑で甘い香りと、酸味があってまろやかな味わいは、確かに他に例のないものでした!
「シャトー・シュヴァル・ブラン1928年」
 前述の一年前のビンテージですが、色合いは極端に異なり、非常に明るい色調。まるでピノ・ノワールのような印象ですが、味わいは逆に近いというか、こちらもそれなりにパワフル。普通に熟成ワインでした。ムスク香にバターのようなアロマとドライフルーツの香りが重なり、それでいてまろやかな味わい。60年代でももっとシャバシャバなものが普通だと思うのに、後味が強い……濃いというのは異なる、別な意味での味の深さがあります。酸はどちらもしっかりしていて、それ故の長命なのかなと思うのですが、オー・ブリオンもシュヴァル・ブランもどこか乳酸の味わいが前面に出てきているような気がします。手元のブロードベント著「ヴィンテージ・ワイン必携」(柴田書店)によると、1928年、1929年は1920年代の有名な2年続きの当たり年とされ、しかもその内容とスタイルは対照的だったのだとか。1928年は夏の暑さが皮を厚くし、最長命のビンテージとなったものの、時は大恐慌の時代、巨大な在庫は1930年代を通じて売れないままで、戦後までイギリスの酒商の貯蔵庫に保管されていたそうです。その意味では色んな意味で今このボトルが飲めることは幸運なのかも。もっともこの本では、「オー・ブリオン1929年」も「シュヴァル・ブラン1928年」も決して褒めてはいないのですが……。

  ←お店のワインなのでラベルは持ち帰ることが出来ず、ボトルの写真(しかもピンぼけ)のみ。まさに年代物!



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