「ラ・ロマネ」1972年



 有名でありながら極端に畑が小さく非常にレア物となるブルゴーニュワイン…代表格は、誰もが知る「ロマネ・コンティ」でしょうが、面積で競えば、フランス最小のAOCは「ラ・ロマネ」ということになります。

  第1位「ラ・ロマネ」0.85ha
  第2位「クリオ・バタール・モンラッシェ」1.4ha
  第3位「マゾワイエール・シャンベルタン」1.5ha
  第4位「ラ・グランド・リュ」1.65ha
  第5位「ロマネ・コンティ」1.8ha


 当然ながら、生産量も少なく(年間4,000本程度)、おいそれと手に入る物ではない……と思っていたところ、例によって超レア物試飲会のご案内、今回のテーマは「モノポール」。1つの畑に1人の所有者しかいない、という意味ですが、1つの畑が多くの生産者に分割されているブルゴーニュでは、むしろ珍しい存在。試飲リストは…。

  1)J.F.Mugnier Clos de la Marechale 2005
  2)Faivley Clos de Corton Faivley 1999
  3)Mommessin Clos de Tart 1997
  4)M. d'Angerville Clos de Ducs 1993
  5)J.Gros Vosne Romanee Clos de Reas 1989
  6)La Romanee 1972

 いわゆる教科書に出てくる「クロ・ド・タール」「クロ・デ・レア」といった、決して安くはありませんがおなじみの銘柄が並びます。
 まずは、ミュニエのニュイ・サン・ジョルジュのモノポール、「クロ・ド・ラ・マレシャル2005年」 。2005年という当たり年、まだ当然のことながら若々しく、シャープな香りで、鉄分や樽香に混じって、野性味のあるベリー系の風味が感じられます。グラスに注がれてから2時間近く置いておくと、さすがに落ち着いて来ました。元帥(マレシャル)の名を持つこの畑は、2003年まではフェヴレイにフェルマージュ(耕作契約)されていて、ミュニエ自身がワインを作り出したのは2004年になってから。
 そのフェブレイのモノポールが「クロ・ド・コルトン・フェヴレイ1999年」。1999年もブルゴーニュの当たり年。いかにもボーヌらしい、ドライフルーツのような落ち着いた香り。荒々しいムスク香はなく、非常に柔らかい印象。しばらく置いておくと、こちらはなんとターメリックの香りが…。ボーヌの赤はニュイに比べてどこか植物的な印象があるのですが、その典型といった感じ。先の「クロ・ド・ラ・マレシャル」と比較すると、熟成年数の差はありますがやはり香りは大人しめ。
 三本目はモメサンのモノポール「クロ・ド・タール1997年」。この畑を実際に訪れたことがあるので、感慨もひとしお。明るい色合いながら、香りは非常にふくらみのあるもので、ベリーの香りにどこか醤油や出汁を思わせるような旨味を感じさせる風味が重なります。一方で味わいはしっかりとタンニンが感じられ、苦味がありながらも濃厚な舌触り。長い余韻が続きます。
 四本目はマルキ・ダンジェルヴィユのヴォルネイのモノポール、「クロ・ド・デュック1993年」。予定していた88年物が残念ながらブショネだったということで、急遽93年に差し替えとなり、順番も入れ替わりました。こちらは、ココアやヨーグルトのような乳製品の持つ独特の香ばしさが感じられた一品。甘い香りはある意味熟成したヴォルネイらしい気がします。ソフトでなめらかな印象。
 五本目はジャン・グロのヴォーヌ・ロマネのモノポール、「クロ・ド・レア1989年」。私にとってミッシェル・グロのクロ・ド・レアは、ある意味ヴォーヌ・ロマネの物差し的存在。ある意味全くぶれずに中道を行くブルゴーニュワインというイメージがあります。妹にリシャブールの畑を譲ってしまったというエピソードもある意味非常に好ましく感じられます。先代のジャン・グロの時代に名声を確立しますが、「ワイナートNo.2」の記事によると、1970年代から実際にワインを造っていたのはミッシェルだったという話もあるほどで、その意味ではなんとも「損するタイプ」なのかも…。店のソムリエさんも「ミッシェル・グロは今ひとつ面白味に欠ける…」と言っていましたが、私としては逆にお気に入り銘柄なので、あまり高価格にならない方が助かります。そのソムリエさんの話では、「クロ・ド・レア2009年」は150周年記念ラベルでもあり別格に美味しい、ということだったので後日さっそく購入したのでした。ちなみにこの1989年物、あらためて素晴らしい味わい。まっすぐ中道を行く、理想的なヴォーヌ・ロマネでした。奇をてらう風味は全くないものの、一見して控えめな味わいなのに、後味が長く残ります。

  ←今とは異なるラベルデザインの「ジャン・グロ・クロ・ド・レア1989年」

 さて、最後は注目の「ラ・ロマネ1972年」であります。最小AOCということで、名前だけは昔から知っていたワインですが、一度は飲んでみたいと思いつつなかなか機会もお金もありませんでした。かのロマネ・コンティの隣に位置する、リジェ・ベレールのモノポール。もっとも私がワインを勉強し始めた頃は、ブシャール社のモノポールとして習いました。実際には1972年当時もリジェ・ベレールの所有だったものの、実際に耕作・醸造したのはドメーヌ・フォレで、熟成はブシャール社が請け負っていたということらしい。従ってどうしても評価も辛口になります。2002年に耕作契約が終わり、父親の反対を押し切ってワイン造りをめざしたルイ・ミッシェル・リジェ・ベレールの手に畑が戻ってからは、評価はうなぎ上り。最新ヴィンテージで1本15万円という価格は、ロマネ・コンティと比べればまだ妥当なところなのでしょうが、おいそれと手は出せず…。
 醸造・熟成が他者に委ねられていたということで、頭の中に疑問符が浮かばなかったわけではありませんが、実際に香りを嗅いでみると、その広がりにあらためて驚いた次第。醤油やみりん、コンソメなどスープ系の香ばしさが連想され、コーンやバターなどの風味も混じり、実に不思議な風味。味の面では、どちらかというと中庸で、パワフルとは言えないものの、この甘い香りは、さすが40年の熟成を経たワインならではのものでしょう。



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