「シエント・ベインテ」97年



 ラベルの上に「120」と記されたシンプルなボトル、近所のコンビニエンスストアで1000円程度で売っていたチリの白ワインです。品種はソーヴィニヨン・ブランですが、他にカベルネ・ソーヴィニヨンもあるそうです。
 気軽に飲めるフルーティなワイン、というのが売り文句ですが、どうしてどうして、ソーヴィニヨン・ブラン本来の自然で膨らみのある香りと、しっかりした滋味感は決して馬鹿にできないもの。専用のワイン・プラグを填めておけば、4-5日おいても殆ど風味を失わない。シャトー・マルゴーの白に匹敵、とまでは言いませんが(でも……どうかな、今度ブラインドで比べてみようかしら)そこらの2000〜3000円クラスのシャブリよりもお勧めだと思います。
 「サンタ・リタ」はチリ大手のワイナリー。チリのワインの価格が手頃なのは、少数の財閥が大規模なワイナリーを持っているため非常に効率的な生産が可能だから、ということもあげられるようですが、チリのワイン自体が100年以上の歴史を持っているということと、ワイン先進国のフランスやカリフォルニアから積極的に技術を導入していることが、低価格でも味がしっかりしたワインを沢山生み出しているようです。昨今のチリワインブームは、決して発泡酒ブームのような単なる価格競争では割り切れないものなのですね。
 この「シエント・ベインテ」に関しては、マンガ「ソムリエ」第四巻の「ワインの誇り」に詳しく述べられています。1810年から1818年まで続いた対スペインの独立戦争の時、サンタ・リタのワイナリーにたった120名の独立軍兵士がたてこもって戦ったと言われます。彼らの業績を讃えるために、ラベルに刻まれた「120=シエント・ベインテ」の数字。戦争を賛美する訳にはいかないけれど、そこには西欧から独立を勝ち取った気概がこめられていると言うわけです。
 マンガではこのワインが出せれたことにより、食品会社に甘味料の特許を奪われそうになる研究者が自らの誇りを取り戻してそれをはねつける、というストーリーが描かれています。会社員の端くれの狭い経験から言っても、実際の会社同志の交渉はそう簡単にはいかないようですが、こんなにも手軽に買うことができるワインに、こんな逸話がこめられているというのは、何となくあこがれを感じますね。私がワインを好きなのは、一つにはこんな歴史の積み重ねの中をくぐり抜けてきている銘柄が沢山あるからかも知れません。



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