「シャトー・ラグランジュ」95年



 再び横浜のバー、「STONE free」にてワインの饗宴。Sさんの用意したのはシャンパーニュ「テタンジェ」、そしてロバート・パーカーのプロデュースしているオリジナルワイン「The Beaux Freres Philosophy 1997Pinot Noir」「レ・フォール・ド・ラトゥール88年」という逸品ぞろい。
 「テタンジェ」のすっきりとした中にも白ワイン特有の芳香を感じさせる華やかさと、「レ・フォール・ド・ラトゥール」の88年というボルドーの当たり年ならではの複雑な香りについては言うに及ばず、ですが、「フィロソフィ(哲学者)」と名付けられたアメリカのピノ・ノワールはまさに絶品。97年という比較的新しいビンテージにも関わらず、ピノ・ノワール独特のまろやかさは熟成したワインの持つ舌触りを感じさせます。グラスに注ぐとまず強いアルコール感のある香りが立ち、その後しばらく置いておくとベリー系の果実を感じさせる柔らかな香りが現れて来るという……なんでも売っていた店に二本しかなかったうちの一本だそうで、それもロバート・パーカー・プロデュースともなれば引く手あまたであろうこの銘柄、よくまあ手に入れたものです。
 さて、そんな豪華なラインナップには及ばないものの、ある程度肩を並べさせて頂くにはこんなワインはどうだろうと思って私が持ってきたのがこの「シャトー・ラグランジュ」95年であります。サン・ジュリアンの手堅い銘柄の、しかも近年の当たり年95年なら、ある程度の重みがあって締めくくりには丁度良いのではないかと……。もっとも、私自身これを飲むのは初めてでしたが。
 「ラグランジュ」は中世から知られていた名門のブドウ園。1631年には既に記録に登場し、1855年にメドック第三級に格付けされ絶頂を極めましたが、19世紀の終わりにフランス全土を襲ったフィロキセラの被害をまともに受けて壊滅状態に陥り、畑は切り売りされて荒廃、一世紀に渡って平凡なワインを生産しつづけたそうな。しかし1983年、日本のサントリーがシャトーを買収、「レオヴィル・ラスカーズ」のオーナーと醸造学者ペイノー教授をコンサルタントに迎え、大規模な投資を行って畑の改善を行った結果、たった二度の収穫年度で名声を回復したわけです。現在、作付け面積は倍に広がり、水はけの良い砂礫の土地の下にはさらに水が溜まらぬようパイプが張り巡らされています。
 香りを開くためにデカンテーションをお願いして、いざ味わってみると……確かにボルドーの極上品の持つ独特のカシス系のアロマを強く感じさせる正統派のワインという印象。苦渋味がありながらも、コクがあるので決して舌がぴりぴりしない。まさしく納得の行く仕上がり。20世紀に入ってさまざまな人々がこのワインを改善する為に悪戦苦闘したそうですが、最終的に品質の向上に成功したのが日本のメーカーというのも面白いですね。



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