「バタール・モンラッシェ」95年



 デュマが「帽子を手にし、跪いて飲むべし」とまで讃えたモンラッシェは、辛口白の究極のワインには違いありませんが、マット・クレイマー「ブルゴーニュワイン」によれば、多くのモンラッシェが本来の水準に及ばないとしています。その理由として、モンラッシェの古樹の多くが葉巻病にやられていることを挙げていますが、その一方で、品質の如何に関わらず高値がついてしまうこと、10年以上の熟成を要することも事実で、実際にはなかなかその究極の姿をかいま見ることはできないようです。
 上記のクレイマー氏は、「これをワインの実力だけでみるならば、シュヴァリエ・モンラッシェ、ビアンヴニュ・バタール・モンラッシェ、バタール・モンラッシェなどの秀作とでは勝負にならない」とさえ断定しているほど。「モンラッシェの私生児と臆面もなく名乗るだけあって、バタールはこの仲間のうちでもっとも肉厚・肉感的なワインで、濃厚で丸みのある味わいには、モンラッシェさえ及ばない」……なるほど、だから「ハンニバル」のレクター博士は「モンラッシェ」ではなく「バタール・モンラッシェ」を選んだのね。「肉厚的・肉感的」だなんていかにもレクター博士の好きそうな……。前作の「羊たちの沈黙」のラストでも、レクターはクラリスへの手紙を書きながらこの「バタール」を飲んでいます。ボルドーと違ってブルゴーニュの場合一つの畑に沢山の生産者がいるので、それが明記されていないのは残念なんですが。畑の違いよりも生産者の違いの方が大きい場合もあるそうですから。
 「ハンニバル・パーティー」の最初の一本はこのドメーヌ・ルフレーヴの95年のバタール。栓を抜いて一時間ほど置いておいたのですが、適度に香りが開いて、小さなテイスティンググラスに注いだだけで香りが部屋中に広がったほど。色はシャルドネを使っているのでそれほど濃くはないのですが、香りと風味は重厚そのもの。目をつむって飲めば赤ワインかと思うほど。しっかりした滋味感と、樽香を思わせる燻したような香りはこの銘柄独特のもの。
 実はバタールを飲むのはこれが三度目であります。最初の出会いはDomaine Prieur Brunetの88年物。とにかく「こんな白ワインがあるのか!」と驚いた逸品。このドメーヌは本にも載っていないし、その後88年物のバタールなんてお店でもおめにかかったことがないです。次に飲んだのはカイヨの95年物。赤ワインの様なコクのある滋味感に再び感動しましたが、香りに関しては88年物の方が凄かったような……最初の出会いというのは得てして頭の中で誇張されがちなのは認めますが、やはり10年寝かせた分優っているのかなあと。
 今回の95年物も、決してビンテージチャートでは88年にひけはとらないものの、香りのストレートさと若干の余分な酸味が感じられるところを加味すると、やはりもう五年は待つべきものなのかも。寝かせて熟成させるのは高級な赤というのが常識になっているようですが、私の狭い経験からすると、高級な白こそ10年は置くべきもの、というのが正しいようです。



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