「ボンヌ・マール」86年



 E氏宅で二回目のワインパーティ。今回は香りを楽しむことができて、かつ四本で25000円くらいでというオーダーにお応えして選んだのが次のラインナップ。
「ボンヌ・マール86年」8000円
 熟成したブルゴーニュを飲んでいただこう、というわけで用意した逸品。実際、ボルドーはともかく、80年代のブルゴーニュなんてそうそう手に入るもんじゃない。キャップシールを開けてみると、コルクの上にカビが積もっていて、「これはやばいかも……」と思ったほど。しかしコルク自体の状態は極めて良好で、なんのトラブルもなく楽に抜栓。ちょっとテイスティングしてみて、あえてデカンテーションしないことに。かなりデリケートな香りで、下手に動かすと壊れてしまいそうだったからですが、ずっと立てて置いたにも関わらずかなり澱が側面についていて、かなりグラスに紛れ込ませてしまいました。
 熟成したピノ・ノワールならではのあのムスク香が心地よく、なかなかの評判。しかししばらく置いていたらその華やかさはかなり落ち着いてしまい、やはり開けたらあまり放置してはいけなかったのだな、と実感したのでした。
「メリーヴェル・プロフィール94年」9000円
 カリフォルニアのプレミアムワイン。こちらは力強さのあるカベルネ主体のタイプなので、まよわずデカンテーション。やはりこのクラスのカリフォルニア物にははずれがないなあ。色も濃く、飲みごたえがありながら苦すぎることはない。万人に薦められる赤ワインです。
「ギガル・エルミタージュ96年」4000円
 前回のオーストラリアのシラーズが少々フルーティで「馬の鞍」らしくなかったというので、今回はもっとくせの強い本家フランスのローヌのシラーを。ローヌのシラー種の、どこか酸味を感じさせる香りは、実はあんまし私の好みではないのですが、これも個性的な歴史のある逸品の一つに違いないですね。もっとも私がもっとも「うわお」と思った「馬小屋臭」の極めつけは、ワインスカラのテイスティングで飲ませていただいた「サン・ジョセフ」。さすがにあそこまでくると「漬け物臭」とでもいうべき酸っぱい匂い、でしたけど、「これこそ馬小屋臭と言われる物」なんだそうで。飲みたいという意見も出ましたが……うーん、いや、ものはためしだ!
「ブラウブルガー・アウスレーゼ94年」4000円
 渋谷東急で店員さんに勧められて買った珍しいオーストリアの赤の甘口ワイン。色は明るいピンク色で、香りはハチミツ香、文字どおり貴腐ワインの香りがするのにびっくり。「香りと味が合ってない〜」とは言い得て妙ですが、もう少し寝かせて見たかったような気も。
 これでしめて丁度25000円。実際、安くで買ったのでこれが相場とは言いがたいですけど。
 今回デカンテーションをしたりしなかったりしたわけですが、ちょっと質問を受けたのでここでデカンテーションに関するお話を一つ。
 一般的に、ピノ・ノワールは淡色で香りは華やかだけど失われやすいのであまりデカンテーションしない、カベルネ・ソーヴィニョンは濃色で香りは重たくその分長持ち、前の日開けてもいいくらいだけど若いものはデカンテーションした方がよい、ということになっているようです。また、長い熟成を得た年代物は瓶内で酸化が進んでおり、そこから先は急激に劣化するため、極力酸化を防ぐ必要があるので、飲む直前に開栓すべきとのこと。
 デカンテーションは本来「澱が発生しているワインの上澄みだけを移し替えること」が目的であり、その一方で「空気接触面を増やし、遊離亜硫酸を気化させ、適度に酸化させ、出るべき芳香成分を引き出すこと」とされています。実際、長期保存に亜硫酸は不可欠なので(15世紀頃から法律で使用を認めてます)、そのため若いワインはイオウを感じさせるインクっぽい金属臭が若干あって、これはデカンテーションで消すことができるとされています。ところが逆に「必要ない、グラスをちょっと回すだけで充分」と言い切る学者さんもいるようなので、必ずしも酸化を促進するためにデカンテーションするとも言い切れないようですね。
 今回、「ボンヌ・マール」は、かなりきわどいと思ったのであえてデカンテーションしなかったんですが、本来ならばちゃんと立てておいて、注意しながらデカンテーションして澱を除いたあと、すぐに飲み干す、というのが良かったのかな。うーん、難しいところです。



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