「ピングス」97年



 WINESCHOLAの試飲会。池袋の「ラボンダンス」にてスペインワインを特集。「L'ABONCANCE」とは「豊富な」の意。池袋というとあまりオシャレな店なんかないような先入観がありますが、ここは本格的なフレンチ、しかも日曜もやっているというのが有り難いですね。昨年出来たばかりの新しいお店。葡萄の樹の緑とワインの紫で彩られた内装は一見とてもカジュアルですが、お料理の方はかなり本格的でした。
 さて、オープニングはシャンパーニュ、アンリ・アベレ。続いていきなり赤に。最近評判の高いスペインワイン、有名どころはスペインのロマネ・コンティこと「ベガ・シシリア・ウニコ」と、スペインのペトリュスと呼ばれる「パスケーラ」が双璧ですが(と、偉そうに言っても実はそれまで飲んだことがなかったなあ。ウニコは自宅のセラーに一本だけあるけれど……)、その三番目に名乗りを上げているのがこのリベラ・デル・デュエロの「ピングス」。91年に立ち上がったばかりの新しいワイナリー。オーナーはスペイン人ではなくデンマーク人だというそのワイナリーは「ハシエンダ」。わずか20haの畑のうち、5haだけを「ピングス」という別銘柄でワンランク上のものとして出しています。ここらへん、結構計画的。名前も短くて可愛くて覚えやすそう。畑の一部をカルトワインとして売り出すというのはカリフォルニアでもよくやる手法でしょう。実際それが効を期して、97年のロンドンのサファビー・オークションではかのウニコよりも高い値段をはじいたとか。
 ピングスはティント・デル・パイス100%、いわゆるテンプラニーリョで作られます。テンプラニーリョには沢山の別名があり、実際アドバイザーの試験でも「次の中からテンプラニーリョの別名でないものを選べ」なんて問題が出されたほど。いっそのこと統一してしまえばいいのに、と思うところだけどそうもいかないらしい。ここで栽培されるものは、リオハの物よりも収穫は遅く、実も小さくて、現地の人々にとってはとても同じ物とは言えないということらしいです。朝と昼の温度差が激しいこともワインの個性に反映されているようで、なにしろ夏なんか朝10℃、昼40℃なんてこともあるそうですから。さてその「ピングス」ですが、色は濃いマゼンダ、香りはボルドー的でスペイン産とは思えないほど。飲んでみてややリオハ的なひっかかりを感じる程度。含み香にカシスやベリー系のニュアンスあり。
 

 「フロー・デ・ピングス」96年は「ピングス」のセカンド。日本未入荷という貴重なもの。セカンドというものの比べてみるとむしろこちらの方が色も濃く、香りもややむせかえるような青香・タバコ香を感じ、甘味も少し多いような印象を受けました。ビンテージの違いもあるのでしょうが、どちらがいいとは一概に言えないなあ。
 
 「ハシエンダ・モナステリオ・レゼルバ」95年。先の「ピングス」が4万円なら、こちらは9千円(といってもスペインワインではかなりの高値)。しかし色も香りもこちらの方が「濃厚」で、先入観なしで飲んだら絶対こっちの方が上に感じると思うなあ。ティント・デル・パイス80%にカベルネ・ソーヴィニョンとメルローがそれぞれ10%ずつブレンドされている、というから、その影響かも知れません。 
 最後に有名な「ヴェガ・シシリア・ウニコ」81年へ。「ヴェガ」は「小さな谷」、「シシリア」は町の名、「ウニコ」は「唯一の」の意。基本的にスペインの銘醸品は数年寝かせてから出荷されますが、「ウニコ」は十年近く寝かせてからでないと出荷されません。しかも一度に全部出荷したりはせず、熟成が進む度に少しずつ出され、それは全て醸造長の判断によってコントロールされます。従ってワインの品質は醸造長の腕一つでがらっと変わるのでした。色は微かにレンガ色、これは当然ビンテージによるもの。ムスク香があり、かなりなめらかな印象。ちょっと上三つとは比べにくいですね。なにしろ20年近く寝かせているし。
 ちなみにお料理の方は、最初にオードブルとして「オマール海老のムース、エスカルゴのゼリー添え」。茹でた春菊をミキサーにかけ若干のフォンを加えただけだという「春菊のスープ」「ホタテとジャガイモのソテー、黒オリーブ・ペルノーソース」はアンズ酒のペルノーを贅沢に使った鮮やかな黄色いソースが印象的。サフランを使っているものと思っていたら、バターを煮詰めて黄色くしたんだそうな。何故油が浮かないのかなあ。グレープフルーツとシャンパーニュのシャーベットで間を置いてから、最後に「和牛ミンチのパイ包み焼き」。牛肉ミンチの内側にはフォアグラが。ソースの上に丸いパイ包み、その上にクレソンが刺してあって一見パイナップルかなにかのような形に仕上げているところがオシャレですね。よし、今度挑戦してみよう! ちなみにこの段階でワインが足りなくなったので、ブルゴーニュの赤、シャンボール・ミュジニー98年が出されました。ピノ・ノワールらしいルビー色とイチゴの香りは確かに牛肉に合います。



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