「サロン」88年



 「アクエリアス・パーティ」と称して自宅で宴会。殆ど何でも名目が付けばいいって感じなんですが……。今回は自分でバースディケーキを作ってみようと思い立ち、さっそく卵と砂糖を泡立てて、薄力粉とココアパウダーを加えて挑戦。結果は……オーブンで焼いた結果みごとにぺしゃんこのまま。なんでだ〜! どうやら泡立て方が足りなかった見たい。三十分くらいしゃかりきになってかき混ぜたんだけど。
 結局うまくいったのは魚介のミルフィーユ。パイ生地をカットしてオーブンで焼き(最初は生地から作ろうとしたんだけど、途中で何回も冷蔵庫で冷やさなくてはならないと知って諦めたのでした。冷蔵庫にそんなスペースない状態だし……)、その間にアスパラガスを塩ゆでし、ホウレンソウとエビとホタテとサーモンを炒め、エシャロットを炒めて生クリームとレモン汁を加えたソースを用意し、パイの間に魚介とアスパラを挟んで上からソースをたらして出来上がり。出来たてが勝負だぜ、ということで本番一発勝負だったのですが、なんとかそれらしいものができました。
 さて、用意したのはシャンパーニュ。いつかは飲みたいと思っていた「サロン」であります。1900年初頭にマキシムに通うグルメだったユジェンヌ・エメ・サロン氏が、シャンパン好きが高じて自分で作ってしまったいわくつきの逸品。「良いビンテージしか作らない」「銘柄はシャルドネのみ使用のブラン・ド・ブラン一品のみ」「出荷までの熟成期間は10年以上」「一番搾りのキュヴェのみ使用」「動瓶まで全て人の手」と様々なこだわりを持つ究極のシャンパーニュ。1911年から現在に至るまで29ヴィンテージしか作られていない、というのも、ブレンドが基本のシャンパーニュでは特異な存在。年産4〜5万本という生産量の少なさもマニアが喜ぶポイントかも。
 完璧主義のシャンパーニュ、とは聞いていたものの、正直なところどこまでホントやら……と思っていた節もなきにしもあらずなのですが、飲んでみて驚きました。ムルソーかバタール・モンラッシェに炭酸を付けたような感じ、といえばイメージしてもらえるかしら。とにかく自然なナッツ香が心地よいだけでなく、熟成した白ワインの持つほのかな樽香のようなニュアンスがあってまさに正統派、かつ酸味は穏やかで濃さを感じさせるにもかかわらず引っかかりがない。うーんこれは……ドン・ペリニョンもクリュグも普通に思えてしまうような存在感のある力強さ。まあ、ドンペリより高いんでそれも当然かも知れないけれど。
 今まではシャンパーニュから一つを選べと言われたら「ボランジェ」かなと思っていましたが、これからは「サロン」でしょう。これ一本あれば他はいらない……とまで言いたくなるような。まだ味わってないものも沢山あるからまだ断言はできないけど。「サロン」は本来単一畑のみのブドウ使用を目指したようですが、実際には需要に追いつかずそれをあきらめ、現在シャンパーニュ地方でそれを実現しているのは「クリュグ」「クロ・ド・メニル」次の目標はこれかあ?(もう、やめとけよ、預金ないよ……)。それはともかく、自分の趣味のために作ったシャンパーニュが、並みいるメーカーを押しのけて最高の製品を作っているというのは、趣味にこだわっている人間にとっては心強いことではないでしょうか。この世にマニアほど……というより、情熱ほどコワイものはなし、ってところですね。



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