04年/「SFセミナー」体験記



●開催:2004年5月4日 10:45〜16:30:「昼の部」(星陵会館ホール)、20:00〜9:00:「合宿の部」(ふたき旅館)、
●プログラム:「昼の部」1)山田正紀インタビュー(山田正紀、尾山ノルマ)
            2)ハヤカワ文庫FT25周年!(風間賢二、石堂藍、三村美衣)
            3)SFファンとマンガファン(青柳誠、米沢嘉博)
            4)雑誌文化としてのサイエンスフィクション(水鏡子、山岸真、牧真司)
 「合宿の部」(選択制)1)山田正紀と山田正紀を語る部屋(山田正紀、尾山ノルマ)
            2)2004年版SFアニメ総解説(タカアキラ)
            3)じゃあ、アニメファンってどうよ(米沢嘉博、出渕裕)

「山田正紀インタビュー」
 デビュー作「神狩り」(1974年)から30年、今も新作を発表し続け、今年も押井守「イノセンス」のノベライズを手掛けた山田正紀先生のインタビュー。空想小説ワークショップのメンバーでもある尾山ノルマさんがインタビュアーでしたが、超がつくほど山田先生のファンのノルマさん、出だしは少々つっかえ気味で緊張が隠せなかったご様子。もっともその後の会話は快調に進み、今回のセミナーでは一番楽しい企画となりました。
 「神狩り」は元々は「宇宙塵」に持ち込まれた3作目。本人の知らぬ間にそれがハヤカワに持ち込まれ、「SFマガジン」に掲載されたとのこと。翌年には単行本化され、星雲賞を獲得……とあまりにも順風満帆のすべり出し、と思っていたんですが、ご本人にとっては結構大変なことだったみたい。当時の原稿料は一枚500円。300枚の長編でも10万円。源泉徴収で渡されるのは9万円。執筆に3ヶ月かかったから一ヶ月三万円。これではとても食べていけないと思ったそうです。デビュー後も一年近く声が掛からず、サンドイッチマンをやって稼いでいたとのこと。「弥勒戦争」が本になった頃(1976年)から「頑張れば本にしてもらえる」と思えるようになり、「謀殺のチェス・ゲーム」(1976年)からやっとプロとしてやっていけるようになったとか。
 年に4〜5冊のペース、三十年で150冊、月150〜200枚のペースを守っていて、今も最近作はチェックを欠かさないそうです。「神狩り2」を準備しているけれども、今の時代にインパクトのある「神」を描くことが可能かどうか悩んでいるとのことで、瀬名秀明氏の「ブレイン・ヴァレー」、山本弘氏の「神は沈黙せず」の二作はクリアしなければならないハードルだと考えているとか。先行する翻訳作品がアイデアのもとになっていることが多くて、「神狩り」自体も「超生命バイトン」という、今では絶版になっている作品がきっかけになっているとも。グレッグ・イーガンテッド・チャンは好きだが、読み違えているのでは、と思い少々足踏みする。「ハイペリオン」は面 白いし、そういう作品を書きたいと思ってはいるが、それ自体が先行作品へのオマージュに満ちているので難しいとのこと。「神狩り2」の次には、そういう作品を1000枚くらいで書いてみたいそうです。
 SFでは「宇宙船ビーグル号」が好きで、ミステリは「Yの悲劇」「僧正殺人事件」「ブラウン神父シリーズ」が良い、マンガは「デビルマン」「あしたのジョー」のマガジン系を読んだという山田氏は、ある意味とても基本に忠実な作家だと思います。「神狩り」などにヴィトゲンシュタインの言語論などが引用されるのは、大学生の頃にイスラエルへ季節労働者として行った時に、何回でも読めるものを、と「世界の名著」シリーズを持っていったからだとか。今では息子さんと娘さんに勧められるものを観ていて、ゲームは「メタルギアソリッド」だとか。
 なかなか面白かったのが(ある意味、笑い事ではないのですが……)、2〜3年前に危篤状態に陥り、臨死体験をした時のこと。暴れてお医者さんの鼻を折ってしまったそうで、集中治療室に15日間入院している間、宗教団体に監禁されていると思っていたとのこと。「そう思い込んだまま死んでいたら、自分にとっては監禁された状態が現実のままということになるわけですね。どんな虚構でも現実に戻れると思っているが、しかし現実に戻れないことも実際にはありうる……」なかなか含蓄の深い言葉だと思います。
「普通の小説は、虚構との境界線が曖昧で、『さらけだす自分』が信用できないので書かない」のだそうです。成程確かに、SFの持つ虚構性にこそ、小説の神髄があると言っても良いのでは? 

「ハヤカワ文庫FT25周年記念!」
 ハヤカワ文庫FTの25年にわたる変遷を中心に、ファンタジーノベルの展開をスライドで紹介していくというもの。そもそもファンタジーというジャンルが一般 化したのは最近のことで、それまでは英国児童文学ヒロイック・ファンタジー、幻想文学といったジャンルに分かれていました。「ドラゴン・クエスト」と「ハリー・ポッター」が登場するまでは、ファンタジー作品が出版界の表舞台に立つことはなく、この分野の古典的名作「指輪物語」の映画ヒットも、「ハリー・ポッター」の成功抜きには不可能だったとも。 
 実際のところ、ファンタジー物は今は書店に溢れています。アニメ風のイラストの表紙が殆どですが、これは女性をターゲットにしていたのに全く売れないので、萩尾望都などの女流漫画家を起用したら大当たりだった、というのが最初のきっかけらしい。それまでは使用料がタダだったので、版権の切れたイラストをそのまま使っていたといいますから、ある意味これは当然のことなのかも。
 大変だったのだなあと思ったのが「最後のユニコーン」と「ボアズ・ヤキンのライオン」の翻訳に関するエピソード「最後のユニコーン」は読んだことがあるのですが、手塚プロが関わったアニメーション映画があるそうで、しかも日本未紹介。版権の交渉に時間がかかり、しかも当時電通 勤めだったかがみあきら氏の翻訳作業は進まない。「ボアズ・ヤキンのライオン」は荒俣宏氏に翻訳させるために、一週間(風間氏だったか石堂氏だったかの)自宅にカンヅメ。出勤時には奥さんと荒俣さんの両方から「いってらっしゃい」と手を振られたんだそうな。

「SFファンとマンガファン」
 コミック・マーケットもSF大会も今や常連ですが、その昔「漫画大会」というものがあったとは知りませんでした。「SF大会」の盛況に刺激されて、漫画家とファンとの交流会も開こう、ということで30年前に開催されたものの、10年間しか続かず、同人誌即売会のコーナーだけが独立して「コミック・マーケット」へと繋がっていったとのこと。SFファンとマンガファンはこんなに違う、というのがテーマのようなのですが、どちらにも片足ずつ突っ込んでいる私としては、そんなに違わないと思っているのだがなあ。
 石森章太郎氏の所にいた青柳氏によれば、最初こそ手塚治虫をはじめとして大御所が参加してくれたけれど、作家さんの方にあまりメリットがなかったのと、スタッフが殆どコレクターばかりでマンガを描く人がいなかったことが長続きしなかった理由のようですが、SF大会にしたってそれほどSF作家にメリットがあるとも思えません。むしろ人気漫画家は忙しすぎて、イベントが企画されても足を運ぶヒマもない、というのが実態のような気もしますが。時間のありそうな漫画家はしっかりSF大会にも足を運んでいるようだし。

●「山田正紀と山田正紀を語る部屋」
 昼の部の続きで、山田先生を囲みつつ、尾山ノルマ氏や浅暮三文氏も参加しての座談会。スティーブン・キングの中では「キャリー」「呪われた町」「IT」の三作が良い。ホラーは今一つ苦手。時代劇を書きたいが、自分が書くとどうしても伝奇時代劇になりそう。もっと真っ当な時代物を書きたいとも。自作では「謀殺のチェスゲーム」と「火神(アグニ)を盗め」の二作がまあ満足できる出来、他はどうしてもどこか悔いが残る、とか。
 浅暮氏によると、「山田先生の作品は常に一歩先を行っている。何か特殊なアンテナでも持っているのではないかと思う」のだそうだ。もっともご本人に言わせると、「後から来た人が同じテーマを掘り下げて、もっとうまく仕上げてしまうので、先駆者にあんまりメリットはない」ということになるのだけれど。

●「2004年版SFアニメ総解説」
 例によって今年春から放映されるTVアニメの総解説。昨年は「鉄腕アトム」が話題の中心でしたが、今年は「鉄人28号」が登場。横山光輝氏も亡くなられたし、レトロブームも続いているなあ。現代風にアレンジされた「アトム」に対し、深夜番組の「鉄人」は徹底してレトロ趣味。戦後の混乱期の日本を舞台にしていて、「鉄人」もおそらくは原作通 りに第二次大戦の軍による兵器開発の産物として描かれています。アトムほどには原作になじみがないので、比較してみたい気もするのですが……。

●「じゃあ、アニメファンってどうよ」
 昨年昼の部で登場した「ラーゼフォン」の出渕裕氏と、今年の昼の部に登場した米沢氏が、「アニメージュ」や「OUT」の創刊時のエピソードを披露。「宇宙戦艦ヤマト」や「海のトリトン」の人気がいかに雑誌の展開に影響を与えたかを紹介。

 総じてどちらかというと昔の話が多かったですね。山田正紀さんのSF代表作は皆70年代後半だし、マンガ大会の話もファンタジー文庫の話もある意味では同じ時期。アニメーションの話もレトロな内容に傾きがち。前回までは「グラン・ヴアカンス」の飛浩隆氏など新人作家のインタビューが必ず入っていたので、その意味では少々淋しい気がしました。新しい息吹が感じられないぞ〜!



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