05年/「SFセミナー」体験記
●正しいライトノベルの作り方
「推定少女」「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」など、ライトノベルの分野で新作を発表している桜庭一樹さんのインタビュー。「ライトノベル随一の武闘派作家」なのだそうで、「一樹」というくらいだから当然男性化と思ったら小柄で大人しそうな女性でした。残念ながらライトノベル全般
を読まないし、この人の作品も全然知らないのだけど、どうやら従来のライトノベルの範疇には収まらない異色の作品をものにしているらしい。ということは「正しいライトノベルの作り方」というタイトルにはややいつわりありという気もしますが……。「赤×ピンク」は、六本木の地下で泥レスをしている女の子三人の心象風景、「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」は児童虐待モノとのことで、うーんなかなか話を聞いていると面
白そうに思えてきます。「科学捜査のない時代の怖さを書きたかった」「恋愛モノは、『恋愛は謎』をキーワードにミステリー的に書く」等々、印象的なコメントが多々ありました。
●異色作家を語る
空想小説ワークショップで共に講義を受けていた浅暮三文さん、「ダブ(エ)ストン街道」でメフィスト賞を受賞し、「石の中の蜘蛛」で日本推理作家協会賞を受賞し、今やその作品が教科書にも採用され、押しも押されぬ
プロ作家となられたわけで、うーん身内の方(勝手にそう呼んでいる)がセミナーの講演者になられているとは感慨深いものがあります。
テーマは「異色作家」。これは日本独特の言い回しのようで、そう言われてみれば英語に訳しにくい言葉であります。早川で「異色作家短編集」が刊行されてから定着した言い方なのだそうです。そういう意味では従来のジャンルにとらわれない作品、乱歩がいうところの「奇妙な味」のある作品は日本ではそれなりに好まれるようで。
リストが配布されたのですが、読んでない作品が殆どで、あらためて自分の読書量
のなさに反省することしきり。浅暮さんのオススメはサーバーとバーセルミ。中村さんのオススメはマキューアンとマコーマック。いずれも一冊も読んでないし、知らない作家だし……。バラードの「溺れる巨人」は、マルケスの「エレンディラ」と通
じるものがある、と言われても何が何だか。
テリー・ビッスンの「ふたりジャネット」は、奇しくも浅暮さんと中村さんの両方が推薦していて、特に中村さんはこの本の編訳を担当しているのですが、「読んだ人間の誰もビッスンを理解していない、もう訳したくない」としきりに繰り返していて、浅暮さんがそれをなだめて「そんなこと言わず次もお願いしますよ」と締めくくっていたのが印象的でした。
●SFファンの引っ越し
空想小説ワークショップで共に講義を受けていた風野春樹さん、精神科医の傍ら「SFマガジン」「週刊読書人」で書評を担当し、その道ではすっかり有名人。うーん身内の方(勝手にそう呼んでいる)がセミナーの講演者になられているとは感慨深いものが……以下略。
本をムチャクチャため込むSFファンが引っ越しするときは、とても大変だ、がテーマで、SF界の動向とか新人さんの紹介とかとは全く何の関係もない打ち明け話なんだけど、ある意味今回の企画の中では一番面
白かったかも知れない。いやライトノベルも異色作家の作品もまるで読んでない自分にそもそも問題があるのですけれど……。残りの一生で読みきれないほどの大量
の本を抱え、普通の家の四件分近い段ボールを積み上げおおわらわ、といった様子が、しっかりスライドに収められていて披露されるという、ある意味笑える企画でした。
大野さんは住んでいたマンションが取り壊しになるのでやむを得ず昨年5月にお引っ越し。1.5倍のスペースに移ったにも関わらず1人ではどうしようもない、ということで有志を募ってみんなして引っ越しのお手伝い。せっせと本棚に移したものの、230個もの段ボールはまだ完全には片付いてはいない模様。
門倉さんは98年にお引っ越し。奥さんもSF作家なのでどうしても資料がかさばるし、100インチのスクリーンに50キロのプロジェクターという、こだわりのあるAVシステムもしっかり据え付けなくてはならないということで、殆ど一年がかりだったとか。
風野さんは今年の2月に引っ越したばかり。2倍のスペースの一戸建てに一式百万円の可動式本棚を設置。14畳の部屋が丸々書庫なのですが、あと4-5年で一杯になる模様。
結論としては、門倉さんや風野さんのように業者に依頼する場合はともかく、人に手伝ってもらうには良い友達が必要……すなわち「体力があって、SFが好きで、かつ本に興味がない(つまり、盗まないってこと……)」どんな友達だ?
●鈴木いづみリターンズ
新しい作家も知らなければ、古い作家も読んでいない私は、この講演を聞くまで鈴木いづみという作家さんのいたことすら知りませんでしたが、大森氏に言わせると「フィリップ・K・ディック、シオドア・スタージョン
、そして鈴木いづみが自分にとっての三大SF作家」なのだそうで、うーんそんな偉い作家がいたのか〜とあらためて驚いた次第。20年前に自殺した女流作家で、ヌード撮影や足指切断などで過激な話題を振りまいていたそうで……。
かのジェイムズ・ディプトリー・Jr.同様、SFはある種の避難所だったのではないか、という意見も出されました。「契約」は統合失調症の話で、文学だと救いがないが、SFなら救いがある……「夜のピクニック」は地球人オタクとなった宇宙人が家族ごっこをやっている話で、他の男性作家が書くとどこかセンチメンタルになりそうなストーリーが、非常に明るく語られる……似ている、というか共通
する感覚を持っている作家は、村上龍、岡崎京子等々。
面白そうなんだけど、結局一作も読んでいない私は話について行けなかったので、とりあえずセミナー会場で販売されていた「鈴木いづみコレクション4 女と女の世の中」を購入したのでした。しまった……いざ自宅で本を開いてみると、「契約」も「夜のピクニック」も載っていない……!
●SF映画の部屋
「原子怪獣現わる」(1953年)の監督ユージン・ルーリーの足跡を辿る、いわゆる怪獣モノSF映画の黎明期の作品をビデオで紹介。
確かペヨトル工房「夜想34 パペットアニメーション」で、「原子怪獣」の特撮を担当したレイ・ハリーハウゼンが、「ゴジラ」は「原子怪獣現わる」の完全なパクりだと主張していたという記事を読んだのですが、実際「原子怪獣現わる」と「ゴジラ」(1954年)には色々と共通
点があって、最初の目撃者がいくら怪獣の存在を主張しても信用されないところや、海中に潜った怪獣を科学者が潜水艇で追っかけるところなど、なるほどマネしたと思われても仕方のないような気も。実際、「ゴジラ」がストップモーションアニメではなく着ぐるみとなったのは、あまりにも撮影時間がなかったためで、結果
としては火や水の不自然な合成処理なしに迫力のある画面を作ることができたものの、当初はハリーハウゼン物同様のアニメーションを意図していたものらしいです。また「原子怪獣」はブラッドベリの「霧笛」を題材としているので、怪獣が灯台を仲間と思って近寄ってくるシーンがあるのですが、当初の「ゴジラ」の脚本にも同様にゴジラが灯台を襲うシーンがあり、それは後に削除されたそうで、「ゴジラ」の製作者が先行する作品を参考にした可能性は十分にあるわけです。
●春の新作アニメめった斬り
毎年恒例となっている、今年春から放映されるTVアニメの総解説。各作品のオープニングとエンディングを延々一時間半流しているわけですが、今年のイチ押しは「エウレカセブン」なんだそうな。個人的には様々な不気味な「お料理」が、ヤン・シュヴァンクマイエル風のストップモーションアニメで暴れ回る不思議なオープニング、「はちみつクローバー」が印象的。内容と全然関係ないオープニングだけど。
●マッドサイエンティスト・カフェ本郷店
SF大会の企画で、空想小説ワークショップのメンバー、OさんとKさんが中心となって開催している「マッドサイエンティスト・カフェ」。理系出身のメガネ君は誰でもキャストとして参加する権利があるのでした。今回は本郷店プレオープンということで、アルコール担当の私もさっそく白衣を借りて夜の十一時頃から営業活動。ワインを三角フラスコでデカンタージュし、スターラーで攪拌してメスシリンダーできっちり測ってお出しする。
最新科学について語りながらお茶やお酒を楽しむ理系カフェ……というコンセプトなのですが、あいにく最新科学なんて大して知らないし、ワインのウンチクに興味のある人もあまりいないようだし。そんな中、東大で研究を続けるSさんの「お茶会」が突然始まり、うーん意外に盛り上がってしまったなあと思いつつこちらも参加、しっかり抹茶を点てて頂きました。
「SF大会店では開発中の秘密兵器カクテルもお目見え予定です、お楽しみに。」とカフェのサイトには書かれてましたが、実はまだ何にも考えていません。さてどうしたものだろう。