06年/「SFセミナー」体験記



●開催:2006年5月3日 10:45〜16:30:「昼の部」(全電通労働会館ホール)、20:00〜9:00:「合宿の部」(ふたき旅館)、
●プログラム:「昼の部」1)超SF翻訳家対談(浅倉久志、大森望、高橋良平)
            2)異色作家を語る〜国内作家編(牧眞司、長山靖生、日下三蔵、代島正樹)
            3)ウブカタ・スクランブル(冲方丁、柴田維、三村美衣)
            4)ワン・ヒット・ワンダー・オブ・SF(ジーン・ヴァン・トロイヤー、中村融、東茅子、小川隆)
 「合宿の部」(選択制)1)2006年春のアニメ新番組総解説断念(タカアキラ)
            2)SF映画の部屋〜地球の静止する日その他の物語(添野知生)
            3)SFではないと言う部屋(風野春樹)

超SF翻訳家対談
 「アンドロメダ病原菌」「タイタンの妖女」「ノーストリリア」など数々の名作の翻訳で知られる浅倉久志さんを迎えてのトークショー。土日も休まず、毎日きっちりとしたペースで締め切りを守って翻訳を上げていくということで、非常に真面 目な方なんだなあとただひたすら感心致しました。宮沢賢治風に「雨にも出掛けず、風にも出掛けず、……いつも絶版を怖れている」というくだりが良かったです。初のエッセイ「ぼくがカンガルーに出会ったころ」が近く国書刊行会から出版されるそうで、うーんこれはぜひとも買わねば。

異色作家を語る〜国内作家編
 異色とは、いわゆる「定義」から外れたもの、「らしくない」小説が良い……昨年に引き続き、今回は国内の「異色作家を語る」企画。前回同様出演者の選ぶ20冊の異色作家短編集リストが配布され、前回同様殆ど読んだことも聞いたこともない作品が並んでいるのを茫然と眺めて終わったのでした。新作もろくに読んでないけど、古典もちっとも読んでいないんだなあ。

ウブカタ・スクランブル
 10代でデビューし、既に10年のキャリアを持つ作家「冲方丁(うぶかた・とう)」氏による、「文芸アシスタント制」の提唱と新作「シュヴァリエ」の紹介。
 マンガでは既におなじみのアシスタント制度を、小説にも導入し、コミックや映画まで作品を拡張させていくという提唱それ自体は、とても興味深いもの。ただ一つの作品のために、多くの人間が調査を重ね議論を繰り返すということ……それ自体は非常に意義ある物だし、作家を育てていくという点でもある意味納得できるものです。でもどう考えても小説の場合、「人に手伝ってもらう」のって難しい、というかできそうもないんだけど……。しかも作家である冲方氏とアシスタント達は直接やり取りせず、間に必ず編集者が入るというのですから、理屈はともかく実作業は一体どうなっているのやら。本人自身、「まだ自分で書いた方が早いしラク」と認めているほど。一つの作品が、小説・コミック・アニメーション・ドラマと同時進行していく、いわゆるメディア・ミックスという手法は、もう既におなじみになっているせいか割と理解しやすいんだけど。

ワン・ヒット・ワンダー・オブ・SF
 僅か一つの作品だけでその名を知られる作家というものが存在します。特にSFでは、長編だけでなく短編だけでも……というお話。すぐ思い浮かぶのがトム・ゴドウィン「冷たい方程式」。古典中の古典、名作中の名作なので、私自身も未だに何度も読み返してしまう作品ですが、作者ゴドウィンは他に長編が4作あり、邦訳も出ているのに殆ど知られていません。同じようなタイプの作家・作品は他にもあるとのことで、中村融氏が早口で述べたところでは、「火星のオデッセイ」「努力」「壁の中」「旅人の憩い」「みにくいアヒル」「わが友なる敵」「宇宙の弟子」「タンポポ娘」など(一応メモしたんですが、もしかしたら一部間違っているかも。)
 なぜSFで短編の分野でもそうなのか、という話には今一つ説得力がなかったのですが(司会進行の人の「ええと……」が多過ぎ)、トロイヤー氏の「より小さな入れ物に、より大きなウソがはいっていれば、より驚いてもらえる」という一言が全てを説明してくれていたように思われます。

●2006年春のアニメ新番組総解説断念
 夜の部の合宿は 3つから4つの企画が別の部屋で同時に進められるので、行きたい企画が重なってしまうと結局どれかをあきらめざるを得ないのであります。浅倉久志さんの部屋も、昨年マッドサイエンティストの部屋で一緒だった八代氏・野田氏の部屋も満席だったので、いつもは深夜枠のアニメの部屋に入り浸り。例年ながら相変わらずでした。これだけの数のアニメが放映されていて、しかもその七割近くがSF・ファンタジーなのに、何でSFマンガは売れないということになっているのだろう?

●SF映画の部屋〜地球の静止する日その他の物語
 中村融氏編「SF映画原作傑作選」が創元SF文庫から出ているとのことで、この本を出した背景は、「殺人ブルドーザー(原題:KILL-DOZER)」という変わった映画あるので、それを紹介するためにアンソロジーを組んだのだとか。何しろこの「殺人ブルドーザー」、あのセオドア・スタージョンが原作だという。スタージョンというと、50年代に「人間以上」「夢見る宝石」「一角獣・多角獣」等の作品を残した正統派のSF作家。それがこんな一台のブルドーザーが人間を襲うB級映画をやっていたなんて、というのは驚きですが、まあスティーブン・キングを先取りしたと思えば……。この「殺人ブルドーザー」のハイライトシーンの他に、「月世界征服」「それは宇宙からやってきた」「性本能と原爆戦」などのDVD化されていないSF映画の一部を上映。うーん、実際に前に観たわけでもないのに、何か懐かしい雰囲気が……。

●SFではないと言う部屋

 2001年のSFセミナーで、瀬名秀明氏が「今後5年間、これはSFじゃない、というのはやめよう」と宣言してから、もう五年経ったので、これからはまた言うことにしましょう。という企画。
 瀬名さんがこう宣言したのは、「これはSFじゃない」と言い切られてしまうことで、SF的作品の質的な内容があまりに無視されがちであることに対する批判の意味もあったと思うのですが、今回の企画はそういうこととは何の関係もなく、「なんじゃこりゃ」的なSF作品を糾弾しようというもの。
 やり玉に上げられた作品の第一号は、ビックコミックスピリッツ連載の漫画版「日本沈没」。小松左京原作・今回公開の映画版とは全く関係なく描かれているこの作品、結構あちこちの説明や物語の進行が無理矢理なので。まあもともと小松左京の原作自体も説明そのものは結構SFらしくないという話もありますが。



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