4


【映画】ザック・スナイダー「ウォッチメン」

 コスチューム・ヒーローが実在する世界で、1人の男が殺された。ヒーロー達の活動が禁止されたその世界で、その規律を破って1人活動する「ロールシャッハ」は、殺された男が元ヒーローの1人「コメディアン」だったことを知る。超人的な能力を持つ元ヒーローがただの強盗に殺される筈がない……陰謀の匂いを嗅ぎつけたロールシャッハは、身を隠している他の元ヒーロー達を訪ね、警告する。しかし、元の仲間達は次々と狙われ、それに歩調を合わせるかのように、ソビエトとの戦争が秒読み状態に入る……。
 冒頭で元ヒーロー、コメディアンを殺したのは誰か……? 超人的な力を持つ元仲間のいずれかか? 元の仲間達は、正直なところ皆彼の暴力的な性格を嫌っていたし、実際被害を受けた者もいる。それとも、何者かが邪魔になるヒーロー達を抹殺しにかかっているのか……? コメディアンは政府の命令で動いていたという話もあるのだ……。
 アラン・ムーア、デイブ・ギボンズのグラフィック・ノベルの原作を、「300」の監督ザック・スナイダーが映画化した、何と160分もの長さの大作。特に有名俳優が出ている訳ではないし、米国では名作と言われる原作もこちらでは知名度低いし、内容はおよそヒーロー物らしからぬ マニアックなものだし……と、日本では興行的にやや苦戦を強いられそうな作品ではあります。実は先に英語版の原作をざっと読んではいたのですが、向こうのマンガはコマ割は細かいしセリフは長いし英語は大文字ばかりで読みにくいし、10ページから20ページ読んだだけでぐったりきそうな代物で、最後まで目を通 しても今一つ内容が良く分からないのでした。映画を観てあらためて内容が良く分かったというのが正直なところ。
 ヒーロー物のアンチテーゼということで、登場人物達は揃いも揃ってクセのある輩ばかり。ロールシャッハはマスクの染みが感情に合わせて変化する、およそ表情を見せない人物だが、助けようとした少女が犬に食い殺されたのを知ってからは、極端な勧善懲悪に走るようになり、悪人を殺すことに全く躊躇しなくなっている。弾丸をも掴み取るオジマンディアスは、自らの人気を利用して巨万の富を稼ぐ事業家となっており、Dr. マンハッタンは核実験の失敗で超人化したものの、人間的な感情を失いつつある。その恋人シルク・スペクターは同じくヒロインだった母親が仲間のコメディアンにレイプされた過去を持ち、その母親は今介護施設にいたりする。フクロウのようなマントに身を包むナイトオウルは、コスチュームなしではただの引きこもり。マントをひらめかせるナイトオウルはバットマンの印象そのまま、弾丸を素手で掴むオジマンディアスはスーパーマン、光を放ち巨人化する無表情なDr. マンハッタンはウルトラマンあたりを想起させますが、コスチューム・ヒーローといっても命を大切に皆の為にといった感性からは程遠い連中ばかりで、殺されたコメディアンはベトナムで孕ませた少女を平気で撃ち殺すような人物だし、Dr. マンハッタンは乞われるままベトナム戦争で人間達を焼き払い、ナイトオウルは根っからの善人ではあるが、コンビを組んでいたロールシャッハが尋問のために相手の指を折るのを仕方ないなという表情で見ている有様。
 こんなのヒーローじゃないやい! としか言い様がないのでありますが、日本のヒーローといえばウルトラマンにしても仮面 ライダーにしても、まあ最近作は良く知りませんがどちらかというと仮面をかぶったまま、ひたすら正義の為に身をやつし、少なくとも変身後は性的には中性で、祈れば現れて皆を救うどちらかというと仏様みたいな存在。他力本願の仏教国だったからという訳でもないでしょうが、俗世の煩悩の類からは超越した有り難い存在で、バットマンやスパイダーマンみたいに「何でオレがこんなことをしなくちゃならんのだ」みたいな泣き言は決して言わないし、ひたすら日本というえらくローカルなエリアに踏みとどまって怪獣や怪人を倒す一方で、決して国同士の争いには関与したりしないのでありました。考えようによってはアメリカの人達には逆にそんなヒーローなど理解できないかも知れません。「ゴジラ」は受けても「ウルトラマン」は受けそうもないですね。何ではるか彼方の宇宙の超人が頼まれもしないのに日本に現れる巨大生物だけを殺しているのかしら、他の国では人間同士殺し合いをしているというのに……みたいな感じで。その意味では向こうのヒーローは個人主義というか、「何でこんなことをしなくてはいけないんだろう」みたいなことを突き詰めて考えてしまう結果 、本作みたいな独特の物語が誕生したりするのだろうと思うわけです。


◆「漫画・映画・小説・その他もろもろ」のコーナーへ戻る。


◆トップページに戻る。
◆「宇都宮斉作品集紹介」のコーナーへ。
◆「宇都宮斉プロフィール」のコーナーへ。
◆「一杯のお酒でくつろごう」のコーナーへ。
◆「オリジナル・イラスト」のコーナーへ。
◆「短編小説」のコーナーへ。