1月


【映画】ジェイムズ・キャメロン「アバター」

 「アバター(AVATAR)」とはすなわち、「化身」のこと。映画では、人の住めない惑星を調査するために、異星人と人間の遺伝子を組み合わせた疑似生体を造り、それに意識を転送させる「アバター」計画が駆け足で説明されます。人類は自らの住み家であった地球を荒廃させ緑を滅ぼし、エネルギーを求めて平和な惑星パンドラに進出、高エネルギー鉱石を手に入れるためにその鉱脈の上に住む先住民達を駆逐しようと企んでいます。その中で主人公は「アバター」に乗り移って異星人の居住区へと侵入し、やがてその中に溶け込み、最後には伝説的な人物の文字通り「化身」として人類への反乱の指揮を取ることになるのです。
 キャメロン12年ぶりの話題作は、文字通り今までのビジュアリストとしての集大成とでも言うべきもの。画面まるごとCGで、3D上映なので観るときは専用の眼鏡が必要。実際に眼鏡を掛けている私はこれがどうも煩わしい。眼鏡の上に眼鏡を掛けるからどうしてもピントがずれてしまう。眼鏡不要の立体映像が早く実現しないかしら。
 ちまたに噂されている通り、内容的には斬新さというよりは様々な先行作品の引用からが多く目につきます。キャメロン自身の作品からも、自らを投げ出して女性を助けるために全てを敵に回す主人公は「ターミネーター」シリーズ以来「タイタニック」に至るまでの定番の流れだし、自らの肉体を駆使して操るモビルスーツは「エイリアン2」、何しろシガニー・ウィーバーも出てるし。先住民の原始的で純粋な共同体への賛歌は「ダンス・ウィズ・ウルヴス」を思わせます。異形の世界の異形の生命体への、殆ど恋愛にも似た共鳴は宮崎駿作品「ナウシカ」「ラピュタ」「もののけ姫」「千と千尋」「ポニョ」の作品群にも通じます。何しろやたらに空飛ぶし、空に浮かぶ島まで登場するし
 ある意味突っ込みたくなる部分も多かったりして。何しろ主人公は戦争で下半身不随となり、科学者だった兄の身代わりとして車椅子と一緒に冷凍睡眠しながらパンドラに向かうわけですが、自在にモビルスーツが異世界を歩き回り、異星人との融合体まで造りあげてしまうほどの超未来世界なのに、主人公は金がなくて手術も受けられないという設定。これはもう今のアメリカ軍の負傷兵問題をそのまま物語の中心に据えてしまっているわけで、なかなか皮肉と思う反面やっぱり不自然じゃないかしらと思うわけです。主人公は装置を使ってアバターと自分の肉体を行き来するわけですが、その装置は軍に握られている…はずなのに閉じ込めた筈の主人公にあっさり持ち逃げされたりするところも、超未来の軍隊にしては少々ツメが甘いというか。主人公は軍にいたから、いざ反乱を起こしたときにはその時の知識がきっと役に立って挽回できるはず…と思いきや、仕掛けるのはあくまで真っ正面からの肉弾戦。
 ただ一方で、ここまでしっかり「人間に反乱を起こすヒーロー」を描いた大作も今までなかったかもと思わずにはいられません。「ターミネーター」シリーズのロボットにしても、「エイリアン2」のエイリアンにしても共存不可能な絶対悪で、人間の軍隊はそれを駆逐するために戦うわけですが、今回はその立場が全く逆転、主人公は異星人を守るために巨大な人間の軍隊に殆ど素手で立ち向かうのです。卑怯者で意地が悪く、決して相手の言うことを聞かず、他者を平気で踏みにじりながら、自分が正しいと信じて疑わない、そんな思い上がった我々人間共が思い上がり故に叩き潰される様を、思う存分愉しむことができるわけです。永井豪の傑作「デビルマン」「地獄に堕ちろ、人間ども!」というあの叫びに思わず共感してしまった人なら、この作品も何だかんだいっても気に入ってしまうはず。やれやれ! やっちまえ! 「キングコング」のかわいそうな巨猿や、「スターシップ・トルーパーズ」の犠牲になった異星の虫たちの怨念を晴らしてあげましょう、というような気分になれます。
 異世界を舞台にしたこの映画のストーリー自体は非常にシンプルなものなので、逆にそこにアメリカン・インディアンの悲惨な歴史や、中国・インドの搾取された大国の悲劇、はたまた現在進行中の、石油資源があるが故の中東の悲劇を見ることは可能でしょう。主人公は人類を捨ててパンドラの世界の住民となりますが、予期せぬ敗北に見舞われた人間共の軍隊がエネルギーをあきらめる筈もなく、またぞろ倍以上の軍隊を投入して再度攻め込んでくることは必須。三部作となると言われる本作もいくらでも続編を作る余地はあるわけです。果たして次の展開は…インディアンの歴史にあるように、部族同士の内乱をそそのかされるのか、中東のように資源の取引という妥協が模索されるのか、人間を裏切り先住民に近づく別の勢力が現れるのか、はたまた別の世界の第三者が介入してくるのか…色々興味は尽きませんが、「マトリクス」シリーズのように、救世主降臨の筈がなんだか訳の分からない全面戦争&終結てなことにならないといいなあと思ったりして。


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