12月


【映画】ニキ・カーロ「約束の葡萄畑」

 ワイン関係の映画は、なるべく観るようにしています。「サイドウェイ」しかり、「モンドヴィーノ」しかり……今回もどうやら19世紀のブルゴーニュでワインを造る話らしいということで、公開終了間際に仕事と通院の合間を見つけてなんとか……。せっかく頂いたチケットだし、というわけで。
 主人公は物語の出だしから、葡萄畑で父親を手伝う合間に気に入った女性を押し倒しちゃったりして、なかなか猪突猛進型の青年なのですが、葡萄を買い上げるシャトーの連中よりももっと美味い物を造ってやると自ら葡萄を植えて醸造に取り組もうとします。それを何故かサポートしてくれるのが、唐突に彼の元に舞い降りた「天使」。痩せた土地ほど葡萄は素晴らしい実を結ぶことを教えてくれます。しかしこの天使、別に卓越した神通力を持っている訳ではないらしく、羽が生えていて飛ぶことができることと、いつまでも歳を取らないこと以外は、いたって普通の人間と変わらないので、主人公が金を稼ぐためにナポレオン軍に身を投じて凍死しそうになっても、娘が病気にかかってついに命を落としても、何にもしてくれません。その度に主人公は逆上し当たり散らすのですが、天使の方は至って平静なままで、最高のワインを造るためには、歓びも悲しみも苦しみも、つまりは人生のすべてが必要になるのだと諭したりします。なるほどさすが天使、人間の感情など超越しているのだなと思いきや、物語の後半では天使の方が主人公の方に迫ってきたりなんかして。
 葡萄栽培のリアルな描写と、羽をつけたというかしょっている天使の存在とのバランスが今ひとつ取れていないような印象が最後までぬぐい切れませんでしたが、監督はCGとか使わずに、羽を広げて主人公を抱きかかえる天使のイメージを映像化したかったらしい。映像の雰囲気から、さぞかし古い小説なのではと思っていたら、原作者のエリザベス・ノックスはニュージーランドの人で、この本の原作を出版したのが1998年というから意外に最近の作品だったのですね。撮影もフランスのブルゴーニュとニュージーランドのオークランドとの両方で行われたそうで、ブルゴーニュワインの元となるピノ・ノワールが、ニュージーランドでも栽培されていて多くの美酒を造り出していることを思うと、なるほどこの映画のリアルさとファンタジックさの同居した味わいは、クラシックさとカジュアルさを合わせ持つニュージーランドのワインに通じるものがあるのだなとなんだか納得してしまったのでした。


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