7月


【音楽】吉松隆「交響曲第2番"At terra"」
 
NHK大河ドラマ「平清盛」の視聴率が悪いそうなのであります。正直、これはちょっと意外で、まあ画面が暗いといっても「龍馬伝」に近い映像感覚だし、出演者の演技も悪いとは思わないし、近作の中では悪くない、というよりそれなりの意欲作だと思うのですが…。思うにこれは、ベースとなっている保元・平治の乱、古典の「保元物語」「平治物語」についてあまりに一般人の馴染みがないのが原因かと。実際これを機会にと、岩波文庫を読んでみて、なるほどかなり引用されている…と納得する一方で、逆にこのままいくと人物像が逆に掴みにくい、という印象はあります。そもそも「保元物語」「平治物語」は敗北者側の源義朝、源為朝、源義平側から描かれているので、どうにも主人公である清盛には分が悪いというか、そもそも戦時の際には後ろに控えていたはずの清盛に無理矢理出番を作っているという感じかと。正直なところ、弟である義経や範頼を難癖を付けて抹殺し、寝返った長田忠致らを戦いが終わってからなぶり殺しにするという頼朝の気が滅入るような陰険さに比べると、清盛はそれなりに「洗練された」政治家という印象がありますが。
 さて、今回ドラマのテーマ曲を作曲したのは吉松隆氏。実はそれまでその作品を聴いたことがなく、今回のテーマ曲を耳にしてまさに非常にインパクトを感じたので、あらためて色々聴いてみたいと思った次第です。
 ちなみに今までの大河ドラマテーマ曲は、CDとなったものは大体フォローしています。特に初期はクラシック界の大御所である芥川也寸志、富田勲、武満徹、林光などの作品が並び、その映像はもはや目にすることはないものの、その音楽は意外に色んなところでBGMとして使われています。第一作「花の生涯」から最新作まで全てi-Podに入れていますが、お気に入りは「源義経」(1966年/武満徹)、「風と雲と虹と」(1976年/山本直純)、「花神」(1977年/林光)あたりですか。逆に「琉球の風」(1993年)は唯一谷村新司の歌謡曲という、何故こんな選曲をしたのか理解に苦しむ(多分どこからか圧力がかかったに違いないとか)テーマ曲で、「武蔵MUSASHI」(2003年)エンリオ・モリコーネという唯一海外の名作曲家の作品ですが、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「ニュー・シネマ・パラダイス」の泣かせる名曲群に比べやや一本調子の音楽で、ある意味こちらは少々期待が強すぎたきらいが…。
 今回の吉松隆氏のテーマ曲は、さすがに今までの作品を全てチェックしていたというだけあって、ダイナミックで映画的なオープニング・テーマという基本路線は踏襲しつつ、出たしのゆるやかなピアノの旋律に、たたみかけるようなスピーディなオーケストラが続くという振幅の激しさは結構インパクトがありました。ピアノは左手のみのピアニスト舘野泉氏によるもので、そのシンプルでかつ印象的な旋律が全体を貫く核となるという趣向。
 さて、他の作品も聴きたいと思ってホームページを調べてみると、さすがクラシック畑の人というだけあって、多くの交響曲や協奏曲がリストに挙げられていました。その中に2003年版「アトム」の音楽があるのがある意味ほっとさせられます。自らイラストも描くという多才ぶりですが、その作品のCDの殆どはイギリスの「CHANDOS」から出されていて、日本国内よりは外国で受け入れられている作曲家なのかしらと思ったりして。実際購入してみると、解説は英語しかないし。
 今回紹介するのはそのCHANDOSレーベルから出ている「交響曲第2番"At terra"」。すなわち「地球にて」。かなり大上段に構えたタイトルですが、3楽章からなる、時間にして三十分ほどのやや短めの交響曲です。 
  第1楽章「挽歌...東からの(Dirge from the East)」 アジア風の旋律の堆積による挽歌。
  第2楽章「鎮魂歌...西からの(Requiem ... from the West) 」ヨーロッパ風の死者のためのミサ曲。
  第3楽章「雅歌...南からの(Canticle ... from the South)」 アフリカ風の律動による軽やかな雅歌。
 内容的には趣の異なる東洋・西洋・アフリカの音楽が続けて演奏され、暗いムードで始まった楽曲は、アフリカ調の非常に明るくテンポの良い曲で終わります。
 短い曲で、旋律もかなり絞られていながら、ワールドワイドな曲想を繋げていくことで、非常に広がりのある世界観を感じさせる作品となっています。何よりも交響曲でありながら分かりやすいのが良いかと。こういう曲がもっとあればいいなと正直思います。交響曲という形式は、既に「終わった」とあちこちで書かれているような気もしますが、管弦楽の面白さが1番楽しめるスタイルだと思っているので。


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