【コミック/アニメ】諫山創「進撃の巨人」
突如現れた、人間を食らう「巨人」達を避けて、残された人類は数十メートルの高い壁に囲まれて生活している。ある日突然その壁をも上回る「超大型巨人」が出現し、壁の扉は破壊される。巨人は人間の姿をしているものの、知能は低く人間とのコミュニケーションは不可能、人間以外の動物は襲わず、そもそも食べなくても死なない体にも関わらず人間を見つけると本能的にそれを喰らい、体内で溶かした後はそれを吐き出してしまう。性器はなく生殖能力もなく、頭を吹き飛ばされてもすぐに再生する不死身の体を持ち、急所であるうなじの部分を切り取ることでしか倒せない。そもそも異生物なのか人工生物なのかもはっきりせず、最大の天敵にも関わらずその正体は謎のままである。主人公のエレンは、眼の前で母親を巨人に喰われ、復讐を誓い兵士となるが、単行本第一巻の終わりで、仲間をかばって巨人に喰われてしまう…。
残虐な戦闘シーンの続く怒濤の展開、異質な存在との対峙を描くSFでありながら、謎が謎を呼ぶミステリーでもあり、同人誌的な荒削りなタッチでありながら、人間対巨人という視覚的にも非常にインパクトのある、まさに漫画ならではの異色作です。人間達が巨大生物と戦い、追い詰められた時に味方の巨人がいきなり登場するあたりは「ウルトラシリーズ」のお決まりの展開だし、巨人に取り込まれた人間が意識を失い、コントロールが効かず暴走するあたりは「エヴァンゲリオン」のパターンだし、その意味では特撮やアニメの持つ、ヒトの原初的な恐怖、自分よりも大きな生物に襲われるという恐怖感をそのまま物語化した王道の漫画作品だと言えます。一方でそのテイストはメジャー系というよりはどこかアンダーグラウンド。諸星大二郎や松本大洋の個性派作家の系列に近い雰囲気があり、漫画を読み慣れた人ほど、処女作にして2,300万部という驚異的な販売部数に違和感を感じるのでは?
実際私もSF漫画で、子供が大人を支配する世界とかを描いていたので、知人からは「私がいかにも描きそうな」漫画だと言われましたが、確かにこの作品は、私が前から描いてみたいとイメージしていた、王道路線でありながらシュールさやグロテスクへの志向をも強く合わせ持つ物語なのであります。当然ながら戦闘シーンの連続であるこの作品、一見好戦的な、まかり間違うと戦意高揚みたいな雰囲気を持ってはいるものの、その物語の根底には、生物たちの不条理な運命を見つめる冷めたSF的な視点があります。主人公があらん限りの憎しみをぶつける巨人という存在は、実際のところその正体は人間そのものであるように思われるのです。
決して読みにくい漫画ではないのではと思っていた矢先に、TOKYO-MXでアニメ化され、動きが加わることであらためてこの作品の映画的な魅力に気付かされた次第。立体起動装置を駆使する兵士達の動きは「スパイダーマン」そのものだし、平原や森林を動き回る巨人達に馬に乗った兵士達が蹂躙されるシーンは「ロード・オブ・ザ・リング」の終盤の展開のイメージに重なります。Linked Horizonの音楽も、盛り上がった上にさらに盛り上がる展開で、その高揚感はかなりのもの。その意味では実写映画化もありですが、監督は中島哲也氏よりはピーター・ジャクソンの方が合っている気が…。
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