11月


【小説】深堀 骨「アマチャ・ズルチャ」

 深堀さんとは都筑道夫先生の小説講座や創元推理倶楽部分科会空想小説ワークショップなど(ろくに小説作品を書いていない割には、色んな所に顔出してるなあ……)で以前から知り合いだったので、SFマガジンやミステリマガジンに変わった短編をいくつか載せているのを知ってはいたのですが、なんと「ハヤカワSFシリーズ・J コレクション」から本を出すとは……。
 「Jコレクション」と言えば、先に紹介した野尻抱介「太陽の簒奪者」飛浩隆「グラン・ヴァカンス」などの力作を輩出している期待のシリーズ。少々ノベルズにしては値段が高いのが難点ですが(320Pのノベルズが1,700円もするし……)、上記二作のレベルの高さを思うとなかなかあなどれないものがあるのです。
 さて、深堀さんの作品ですが、正直な話これをSFと言っていいのか……。ミステリともコメディともつかない、ナンセンス物ということになるのかしら。でも最近ではナンセンスという言葉自体あまり使われていないしなあ。例えば、森下先生のホームページでも紹介されていた「トップレス獅子舞考」。その書き出しはこんな感じ。
 「二つ或いはそれ以上の全く異なる概念が不図したきっかけで結合し、そこに全く新しい概念が誕生する。これが文化と呼ばれるものの製造過程の一つの形であると筆者は確信する。無論、トップレス獅子舞のことである。今でこそ『トップ』という呼称で親しまれ、良家の子女のたしなみの一つにも数えられており、また夏のレジャーとして……(中略)しかし、筆者の真情を有体に申せばそうした現今の風潮には異を唱えざるを得ない。……」
 でもって締めくくりはこんな感じ。
 「……そして、それでこそ、筆者の右の腋の下に生えた小さな首も思わずブルゴーニュ訛りの広東語で『上海帰りのリル」を唄い出し、それに連れて左の耳の下に生えた蛇口からも轟々と音を立てて赤錆混じりの湯が流れて来ようというものではないか!」
 どうです。なかなかぶっ飛んでいるでしょう。何なんだブルゴーニュ訛りの広東語って……!
 どこか無理矢理な誇張表現は往年の筒井康隆あたりを思わせるのですが、筒井氏がかなり意図的にブラックな笑いを作ろうとしていたのに対して、深堀氏の場合は徹底して言葉遊びに徹しているところが違うようです。深堀氏の場合、言葉的に面 白い組み合わせがまずあって、そこから世界が構築され話が進んでいくのです。舌が変色し「バフ」としか言えなくなる死に至る奇病を描いた「バフ熱」、溜め息をつくコインロッカーの謎に迫る「蚯蚓、赤ん坊、あるいは砂糖水の沼」、奇声を発する謎の飛行物体「飛び小母さん」、鍋の都江戸を騒がせた「闇鍋奉行」等々、「なんだこれは?」というタイトルやキーワードが呈示され、そこからいかに話が飛躍していくかが作者の腕の見せ所であったりします。
 この間創元推理倶楽部主催でささやかな出版記念パーティーが行われたので、さっそく本を持っていってサインしてもらったのでした。

 ←中表紙に書いてもらったサイン。

 ……なんで、「ねぎ」?


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