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【映画】ピーター・ジャクソン「キング・コング」

 「大きな山をひとまたぎ、キング・コングがやってくる! 怖くなんかないんだよ、キング・コングは友達さ!」
 巨大な猿の怪物「キング・コング」を知ったのは、子供のころテレビ東京で放映されていた輸入アニメだったと思うので、どちらかというと最初から悪いやつらをやっつける正義の味方で、「鉄人28号」や「ジャイアント・ロボ」的な無口ヒーローのイメージを最初から持っていました。その後は多分テレビ放映された「キングコング対ゴジラ」とかのイメージが強いかも。
 1976年の映画「キング・コング」は当時話題になり、どこまでが機械仕掛けでどこまでが着ぐるみか、なんて学校でも話したりしていたような記憶がありますが(今観ると殆ど着ぐるみですが、当時は機械仕掛けだと言い切っていた批評も多かったような……) 多分それをテレビで観たのが中学生くらいの頃。この映画の元になった戦前のモノクロ映画があることを知り、観たいなあと思いつつ実際に見ることができたのは確か大学生になってから。深夜テレビでやっていた1933年版を録画したVHSテープがまだ手元に残っています。
 さて、ピータージャクソンによる新作であります。公開当日の朝有楽町マリオンに出掛けたら、「ハリー・ポッター」の方は長蛇の列ができているのに、「キング・コング」の方は空席あり、の状態。うーん、さすがの「ロード・オブ・ザ・リング」の成功も、必ずしも監督の知名度にはまだつながっていないんだろうなあと思いつつ着席。上映前に年取った爺さんが「コング、どんなのかなア、CGじゃないだろうなア」とぶつぶつ言いながら前を横切る。いやあ、おじいさん、やっぱりCGだと思いますが……。
 お約束通りというかなんというか、なんと最初の一時間はコングは登場せず。キャラクター達が集まってスカル島へ行き、ヒロインがさらわれて生け贄に捧げられるところでどうにも我慢ができなくなり、トイレへ駆け込む。くそ〜こんなに混まないならもっとゆっくり来れば……と思いつつ席に戻ると既にヒロインはコングにさらわれた後でした。一番肝心な登場シーンを見逃すとは……!
 ヒロインを探して一行が島の奥深く進むと、そこには恐竜の群れが……ここから一転して恐竜達や巨大昆虫達に人間達が襲われまくるパニック映画へ突入。76年版では巨大ヘビ一匹しか登場しないけれど、33年版は次から次へと恐竜達が登場し、コングと戦うところが見せ場だったので、この盛り沢山の恐竜達の登場はうれしい限り。アパトサウルス(?)の群は肉食竜に追われてパニックを起こし人間達を踏みつぶすし、コングはヒロインを守るため3匹の肉食恐竜(パンフによれば、バスタトサウルスと名付けられたティラノサウルス型の恐竜)と戦うし、恐竜から逃れた一行は巨大昆虫の群に襲われ、コングは洞窟に住む翼を持ったトカゲ(いわゆる翼竜とは異る、独自の進化を遂げた爬虫類、という設定)の群に襲われる、といった具合。
 これはもう「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで、オークや巨像ムマキル、翼竜ナズグルを自在に動かしたピーター・ジャクソンの独壇場。クリーチャーを撮らせたら今やスピルバーグもルーカスも及ばない、ここが観られればもう満足、という気にさせます。33年度版を相当意識しているようで、登場する恐竜もかなりかぶっているし、ティラノサウルスなんか倒し方も倒した後のコングのしぐさも同じ。余程旧作が好きだったみたい。最初の3分の1までコングが登場しないというのも旧作通 りですが、3時間の長尺にするよりは2時間半に抑えて出だしをもう少し省略した方が良かったような……なにしろ出だし3分の1のエピソードが後半の物語に殆ど影響を与えていないので、33年当時の細かいニューヨークの風景と島の超現実的な風景が今一つ繋がっていないような印象を与えます。この辺は、「ロード・オブ・ザ・リング」の統一された異世界風景に比べて少々ちぐはぐな気がしたのですが。
 54年の日本の「ゴジラ」を作るとき、円谷英二は33年版「キング・コング」を繰り返し見直したと言われますが、今回の「キング・コング」はある意味ハリウッドリメイク版「ゴジラ」を思い出させます。ヘリから逃げ回りミサイルであっけなく昇天するハリウッド版ゴジラは、文明の利器に倒されるキング・コングと重なります。「インディペンデンス・デイ」で核爆弾でもびくともしない異星人を描いたエミリッヒ監督も、「ゴジラ」は単なる巨大化したトカゲとしか描けなかったことに非常に不満を覚えたものです。自然の驚異も人間の科学の前では赤児同然、これでは自然の怒りとやらも人間中心主義の前では怖れるに足らずということか? もっと思い上がった人間に鉄槌を下すアプローチがあっても良いのでは? そういう意味では、今回の新作も33年版と同じ形で物語を終わらせているので、今一つラストには思い入れできなかったような……というか、単なる動物虐待にしか見えないところが少々弱かったような気がします。 


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