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【コミック】大場つぐみ・小畑健「DEATH NOTE」

 「そのノートに名前を書かれた人間は死ぬ」この非常に単純明快な掟を軸に、およそ「友情・努力・勝利」とはかけ離れた「少年ジャンプ」らしくない物語で、既に単行本1000万部を売りさばいているダーク・サスペンスコミックも、ついにこの五月で連載終了。以前は人気作品を無理に引き延ばし顰蹙を買っていた少年誌とは思えないほどの潔さであります。映画公開というから、その間は第3部で引っ張るんじゃないかなあと思っていたけど、当てが外れました。
 デス・ノートを手にした主人公夜神月(ライト)は、全国模試第一位の高校生で、正義感から罪人のみを抹殺すると宣言しながらも、邪魔する者は何のためらいもなく殺していき、「キラ」として祭り上げられていく。対するは全世界の警察機関を動かすことのできる天才児「L」。月(ライト)が見るからに容姿端麗な優等生であるのに対し、「L」は目の下にクマを作り、いつも裸足で行儀が悪く甘いものばかり口にしている引きこもり風の野生児であるという設定が非常にユニークで、この人物配置だけでも作品の成功は約束されたようなもの。
 死のノート、他人に見えない死神という超自然現象を扱っていながら、登場人物二人があくまで頭脳戦で勝負しているというのも意外性があって良かったです。大体において、現実世界を扱った本格推理物は「頭脳」で勝負だけど、ファンタジーやホラーでは何だか良く分からない超能力パワーの応酬ばかりというバターンが多かったので。ただそれだけに、やたら約束事が多くて読むのが疲れたけれど。
 主人公は感情移入できる正義漢にするとか、セリフは極力最低限に抑えることとか、物語の流れは基本的に勧善懲悪であることとか、何かと制約が多いはずの少年誌で、ただでさえ「自主規制」の名目で作品の過激な描写 がボツにされることも多いのに、この作品をしっかりラストまで掲載できたことは快挙であります。雑誌「invitation」によれば、編集部の吉田さんという人が頑張ったそうで、えらいえらい。
 ホームページでの人気投票でも一位だった人気キャラクター「L」が、月(ライト)との駆け引きに破れて殺されてしまってからは(まあ、正直言って相手が死神じゃ分が悪いよなあ)、少々物語も活気を失い、第二部ではニアとメロという「L」の後継者が参戦するものの、キャラクター的には「L」の持つ魅力にはかなわなかったので少々役不足の印象は免れなかったかな。
 もう少しダイナミックなカタストロフィがラストに来ることを期待していたので、ある意味この結末は少々物足りない。「デス・ノート」の物語の本当の怖さは、皆がどこかで「悪人が有無を言わさず成敗される」ことを望んでいることなのだから、ぜひとも「キラ」の消滅によって犯罪と戦争が爆発的に急増し、死人の数が「キラ時代」を軽く上回る、という逆転現象を絵にして見せて欲しかったんだけど。
 創元推理文庫の「ミニ・ミステリ傑作選」(エラリー・クイーン編)というアンソロジーがあって、その中の「ダウンシャーの恐怖」という作品が、この物語と非常に似たテイストを持っています。スピード違反を狂的に敵視し、死の制裁を振るう殺人鬼。その殺人鬼の登場によりダウンシャー州の交通 事故は激減し、彼が捕まると同時に交通事故による死者は爆発的に増え、結果として死亡者数は倍以上に膨れ上がってしまう……。果 たしてどっちが結果として正しいのか、どっちの方がより多くの人間にとって救いとなるか。
 主人公の「月(ライト)」は、物語の始めから、罪人ではない「L」に殺意を抱き、悪人ではないFBI捜査官達を血祭りに上げることによって、残忍で自己中心的なダークヒーローとして動き出すので、「悪 VS 正義」の構図は最初から揺らぎはしないのですが、このノートを狂言回しにして、もっと様々な、簡単に「悪VS正義」ではない物語が作れそうな気がします。目に付くもの全ての人間を殺したいと願う快楽殺人者がノートを手にしたら? 殲滅戦に苦しむ兵士の一人がこのノートを手にしたら? 狂信的な宗教団体の指導者がこのノートを手にしたら? 原作者は当初この物語をオムニバス形式で考えていたとのことですが、そう思うのも当たり前なほど、いくらでもアイデアが使えそう。勿体ないよ、うん。 


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