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【映画】ジェイソン・ライトマン「サンキュー・スモーキング」

 昨年観た映画「サイドウェイ」は、カリフォルニアのワイナリー巡りを描いた名作でしたが、ちょっと気になったのが煙草の描写 。主人公の小説家志望のワイン愛好家はともかく、ヒロインがヘビー・スモーカーなのだ。いくらなんでもそんなに煙草をふかしながらワイン飲んでも味分からんでしょう、と思ったのですが。いずれにしても、ワインをじっくり味わい時に、隣で煙草を吸われるとさすがに不愉快になります。酒は隣で飲まれてもアルコールは飛んで来ないけれど、煙草は隣で吸われると嫌でも煙はこちらに来てしまうわけで、その意味では迷惑度は煙草の方が遥かに上、と勝手に思っていたわけです。
 従ってこの映画「サンキュー・スモーキング」で、MOD(Merchant of Death:死の商人)トリオとして登場するのが煙草業界の主人公と、銃製造業界の人間、そしてアルコール業界の人間である、というくだりを観て「ワインはタバコと同じ扱いかい!」と思わずうなってしまったわけです。実際、これは純粋に統計上の問題であり、この3業界の中では銃による死亡率が最も低く、三人の中で一番肩身の狭い思いをしている、という設定になっていたりします。さすが禁酒法を実施したアメリカだけに、酒に対する規制もかなり厳しいものがありますが、日本でもそのうちアルコールのコマーシャルなんか一切できなくなるんだろうなあ。
 ちなみに映画の方は、タバコ業界の広報部長を務める主人公が、口先だけでタバコ撲滅キャンペーンを展開する上院議員を相手に奮闘し、ついには嫌煙団体に拉致され殺されかけるわ、女性の新聞記者にだまされるわで破滅一歩手前まで追いつめられるが、最後に一発逆転を狙って……というシンプルな物語。シンプルだけどあえてアメリカの嫌煙活動に対抗するアンチヒーローを設定したところが新鮮味のあるところ。タイトルは文字通 り「サンキュー・ノー・スモーキング」をもじって付けたもので、監督自身もタバコは吸わず、行き過ぎた嫌煙活動を皮肉ってはいるものの別 にタバコ業界を養護しているわけではないところがミソ。実際、タバコがネタの映画なのに喫煙シーンは一ヵ所もないのでした。これは実際、なかなかできない芸当かなと。
 私自身はタバコは吸わないのでいくら喫煙が規制されても別に構わないし、使用自体が禁止されても何も困らないわけですが、ワインは飲むのでアルコールが規制されてしまうと非常に困ります。今のご時世、飲酒運転防止のためにアルコールの試飲が禁止される傾向にありますが、酒を飲もうが飲むまいが事故を起こしたら罰せられるのは当然で、それでも規制するというのなら車の販売を規制すべきだと、免許を持たない私は思うわけでありますが、免許は持っているが酒は飲まない人はそう考えないかも知れませんな。いずれにせよ、アメリカの禁酒法がアル・カポネをのさばらせたことを考えれば、何でもかんでも規制すればいいってもんではないということだと思うのですが。監督自身も「全体的に伝えようとしたのは、個人の選択の自由の大切さである」と語っています。


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