「97年私のベスト3」のコーナー



1.今年のベスト3
書籍
@ルポタージュ「もの食う人々」(辺見庸)
Aルポタージュ「子供を喰う世界」(ピーター・リーライト)
B小説「嗤う伊右衛門」(京極夏彦)/小説「封印再度」(森博嗣)
イベント・その他
@展覧会「中村宏・池田龍男展」(練馬美術館)
A展覧会「ヨーロッパ拷問具展」(明治大学刑事博物館)
B映画「新世紀エヴァンゲリオン」(庵野秀明)


 う〜ん、今年は何となく選考が難しかったです。どちらかというと、小説をあまり読まなかった一年でした。資料として結構本は読んだつもりなんですけど……。ウィトゲンシュタインの著作とか、進化論の本とかを「ベスト3」に選ぶのもちょっと違うかなと思ったので。それにしても、資料として本を色々買った割には、創作活動は停滞していたなあ。
 その点、書籍以外ではすんなりと選べました。上記3点について共通しているのは……残虐性、非日常性といったところでしょうか。

 「もの食う人々」は各種メディアでも取り上げられていたので、敢えて選ぶのは少々気がひけるのですが、しかしやっぱり一番インパクトあった本はこの一冊ということになってしまう。シンプルな主題を実にうまく展開している……なんて月並みな言い方しか思いつかないのがもどかしいですけど。
  「子供を喰う世界」は題名からしてはまってしまいました。ゴヤの「わが子を食らうサトゥルヌス」を表紙に使いたい、という長年の夢(?)を先にやられてしまいました。「もの食う…」も「子供を喰う…」も直接的にカニバリズムを扱っている訳ではないけれど、ルポタージュならではの迫力に満ちていて、非常に印象深かったです。評論の次回作「叫びの時代」はこの本をメインに扱おうと思っています。
 「嗤う伊右衛門」は、京極作品の中では私にとっては必ずしもベストではないのですが、「やっぱり巧い」ということで入れました。新作の「塗仏の宴」の発刊が待たれるところですが……。(今年は京極堂物の新作がなかったわけですね……)
 「封印再度」は、久々に読んだトリック物。私はこのトリックは素晴らしいと思うのですが。しっかりだまされてしまったし。「笑わない数学者」よりは数倍良かったです。登場人物たちに今一つ深さがなく、そこが毎回ちょっと物足りないのですが、もっと評価されていい作品です。

 振り返って思い出すのは……「エヴァンゲリオン」と赤ワインと「毛利元就」と……うーん、なんか実にシンプルな一年だったような気がします。

2.おまけ・意外と今年はまっちゃいましたベスト3
@「少女革命ウテナ」(アニメ)
 何だかわかんないけど後半毎回観てしまった……。
 とにかく、「何だか分からない」物語。男勝りの女主人公ウテナが、「世界を革命する力(?)」を手に入れるために、デュエリストと剣で決闘するという設定からしてよく分からないんだけど、合間合間のブラックなギャグ、意味なく挿入される影絵のコント等々、真剣なようなそうでないような……とにかく不可思議なテイストのアニメでした。
 それにしても「世界の果て」って何なんだあ〜。
A「ソムリエ」(漫画)
 やっぱり、ワインっていいなあ……。
 というわけで、もともとワイン好きの私は、この漫画のおかげで再び、味が分かるわけでもないのに安くないワインを買い始めるようになったのだった。なんと、計算してみたら今年ワインに使ったお金は本に使った額を上回っている! 危険だ!
 単なるグルメ物ではなく、作品としても良くできてます。一人淋しく「恋人たち」という名のワインを飲んだ男の物語「十年の澱」や、ワインの赤を作品に再現しようとする画家の物語「生きている赤」などには、思わずうならされました。
 にしても、赤ワインブームのおかげで、お気に入りの銘柄がかなり高くなってしまったのにはまいった……。
B「緒方恵美の銀河に吠えろ」(ラジオ)
 緒方恵美といえば、言わずと知れた「エヴァ」の碇シンジ君である。
 久しぶりにラジオを聴くようになりました。はっはっはっ。あんましラジオは聴かないけれど……那智・チャコのTBS深夜ラジオとか、ビートたけしのオールナイトニッポンとか、コサキンのスーパーギャングとか、昔からだいたいパターンは決まってましたが、それに久方ぶりに新たな定番が加わったという……内容は、まあ司令こと緒方さんがパーソナリティをつとめる他愛もない三十分番組なんですけど。

97年/今年の読書他一覧

  (◎:おすすめ ○:普通 △:今一つ)

<1月>
綾辻行人「セッション」◎
 京極夏彦、瀬名秀明、山口雅也、養老孟司、大槻ケンジ、楳図かずお等々、錚々たるメンバーを相手の対談集。しかし、これだけの幅広い人間を相手に渡り合える綾辻センセイも凄いのではないかと思う。
 巻末の西原理恵子の漫画も圧巻。綾辻センセイは知識が幅広いだけでなくて懐も広いんですね。
ダン・シモンズ「ハイペリオンの没落」◎
 前作「ハイペリオン」が基本的には短編集だったのに対し、本作は銀河系を舞台にした連邦対アウスターそしてAIの戦記物。「カッコイイ」の一言に尽きるかも知れない。SFを書こうとする者にとっては、エンサイクロペディアとして使えるかも知れない。
永沢光雄「AV女優」○
  椋野さんに勧められた本なんだけど、確かに一言でAV女優といっても、いろんな人達がいて人間模様としてもとても興味深く読めました。AVやっている人達にもいい人が沢山いるんだよ、というメッセージと受け取りましたが、取材している永沢氏もとてもいい人だな、という印象を受けました。
<2月>
芦辺拓「時の誘拐」○
 現代の大阪を舞台にした誘拐事件に始まり、それが過去に起こった密室殺人と交互に描かれるという、現在私が構想中のミステリーととても良く似た構造なので、気になったので読んでみました。確かにどこかの書評で読んだ通り、前半が良い。PHSや水路を駆使した誘拐劇も、闇に葬られる過去の犯罪の描写も丁寧。でもその分後半がすっきりしないのも確か。う〜ん勿体ない。
笠井潔「群衆の悪魔」○
 オーギュスト・デャパン第四の事件。19世紀を舞台にここまで書けるってことだけで凄いなと思ってしまう。とにかく描写が細かい。私なら現代の日本を舞台にしてもここまで書けないな。当たり前だけど。
 二月革命に始まり、ナポレオン三世の帝政への予感で終わるという構成はなかなかのもの。推理小説という観点では、空中に出現する滴り、という仕掛けの種明かしに少々不満が残るものの、ボードレールを主人公にここまで書いてくれれば充分、という気がします。
二階堂黎人「バラ迷宮」○
 二階堂蘭子の活躍する六編からなる短編集。相変わらずの正統派推理。特に「喰顔鬼」の人間の顔を一瞬にして消失させて絶命させるテクニックは気に入りました。う〜ん残酷。
 六編の中で、オチが読めた、と思ったのは「サーカスの怪人」のバラバラ死体の出現する仕掛け。これは分かった。「火炎の魔」はなるほどと思わせる化学ネタ。でもこれだけ短いと物語を複雑化できないから、タネが読めた、と思ったからと言ってそれほど自慢にならない。
 二階堂蘭子が美人で頭が良くて格好がよい、というのはいいんだけど、もう少し影のある人物だと、もっと魅力的になると思うんだけど。もっとも、ついこの間まで再放送していた「沙粧妙子・最後の事件」の沙粧みたいにしょっちゅう声を上げたり失神したりというのも、探偵ものとでやるとしたら少々やりすぎという気もしないでもないが。(私はどちらもお気に入りではあるが……)
<3月>
川上弘美「蛇を踏む」○
 芥川賞受賞作。とはいうものの、とてもすんなりと読めました。難しいとは思わないな。イメージを淡々と書きつづっているという感じ。小川洋子の作品にも通じるある種の虚無感がとても心地良い。深読みもできるのでしょうけど、あれこれ頭を悩ますよりは、変化自在の非現実風景に身を任せるのが正解なのでは。
 ある意味ではとても親近感の湧いた作品。むしろこういう傾向の作品が芥川賞を貰っているということは、物書きにとっては喜ぶべきことではないでしょうか。
坂東真砂子「蟲」○
<4月>

小森健太郎「バビロン空中庭園殺人事件」○
  小森氏のミステリー作品は「コミケ殺人事件」「ローウェル城」「ネヌウェンラーの密室」から一貫して「言葉」の解釈を巡るトリックが使用されています。本編もまたしかり。これはある意味ではとてもI.Q.の高い手法なので、面白がらない人もいるかも知れない。「不思議の国のアリス」でさかんに、単なるシャレの域を越えた言葉遊びに基づくストーリー展開がなされるけど、それをかなり意識している印象があります。
 それにより登場人物達の人間関係、そして事件の状況説明等が一気にひっくり返されるという快感がもたらされる……これはミステリーの醍醐味でしょう。小森氏にはひとつ徹底してこの手法をつきつめて欲しいものです。さらに凄い作品が生まれそうな予感がします。
千街晶之他「ニューウェーブミステリー読本」○
<5月>

森博司「封印再度」◎
 「すべてがFになる」もなかなか凄かったけど、この新作のトリックも私はなかなかだと思う。壺の中の金属製の鍵を、壺を割らずに取り出して使う……。この不可能トリックがちゃんと解決される。この作品のメイントリックはこれに尽きるのだけれど……いや、充分フェアだと思いますよ。ああいうもんがあるとは私も知らなかったけど。
 犀川助教授と西之園萌絵のペアは、なかなか漫画的ではあるけれど、それだけにかえって楽しみなキャラなので、私はぜひテレビドラマを……なんて思ってしまう。京極夏彦の重量級の作品は映画こそふさわしいが(もっとも今の日本映画界がそれをこなせるかは疑わしいけど……)、森博司の作品群はテレビドラマが合ってるような気がします。
森博嗣「私的詩的ジャック」○
梅原克文「ソリトンの悪魔(上・下)」◎
ジョン・ヴァーリー「ブルー・シャンペン」○
小森健太朗「神の子の密室」○
エドガー・アラン・ポー「ポー小説集。・「」○
<6月>
山口雅也「キッド・ピストルズの冒涜」○
京極夏彦「嗤う伊右衛門」◎
 あの京極先生の久々の新作。しかも違う出版社だ。京極堂シリーズではないので、にぎやかさには欠けるきらいはあるけれど、立派に「怪談」してますよね。もともとの「四谷怪談」をしっかり読んでいないので、理解していない部分もまだ多々あると思う。今度よく調べておこう。でも、本屋を探しても意外と「四谷怪談」扱ってる本ってないんですよね。小泉八雲とか泉鏡花とか、滝沢馬琴とかは結構置いてあるのに。
 今回凄いと思ったのは、敢えて舞台を限定して描いているということ。屋敷と屋敷の間を行き来するだけで決して舞台はそれ以上広がらない。それなのに充分スケールの大きさを感じさせている。「うん、これは舞台にしても面白いかも知れない」と思わずうなってしまった。元々の「四谷怪談」が舞台演劇として定着したことを敢えて踏まえているのかも。
<7月>
摩耶雄高「メルカトルと美袋のための殺人」○
 摩耶氏の作品は「翼ある闇」「夏と冬の間奏曲」以来であります。うーん、「夏と……」のオチがあるようなないような結末がどうにも納得いかなかったんで、ちょっと抵抗は感じていたのだが。今回は短編集ということで、比較的楽に入っていけました。結構面白かったのです、これが。うん。
 探偵役のメルカトル鮎、通称メルの性格がいい。この探偵、「翼ある闇」で殺されてしまうので、この短編集はまだ生きていた頃の事件簿、ということになるのですが、とにかく性悪で傍若無人、無遠慮な捜査をするたびに周囲の人間が迷惑を被るという……。助けられるのに助けなかったり、自分の推理を納得させるために証拠を捏造してみたり……いやはや、どうせ殺されると分かっているから許せるようなものの……という設定。対する小説家の美袋は、人の良いワトソン役で、メルを憎みながらも振り回されるという人物で、こちらの方はもう少し性格などについてひねって欲しいところ。メル本人に言わせると、自分はあっと言う間に事件を解決してしまうので、長編小説には向かないのだそうである。そこまで言えれば……大したものですよね。
稲垣美晴「サンタクロースの秘密」○
 作品集ァに載せる中編マンガが何を隠そうクリスマスネタなので、資料用に買った一冊。もっとも、これ買ったときには殆ど作品の方は仕上がっていたんだけど。
 クリスマスやサンタクロースにまつわる話が満載で、とっても幸せな気分になれました。季節は全然合ってないんだけど……。いや、真夏にサンタの話ってのもおつなもんですぜ。サンタの前身は、頭にろうそくを立てた少女だった、なんて話まで出てくる。サンタの中にはトナカイではなくブタやアヒルにそりをひかせている者もいるらしい、とか。
 ちなみに、今描いてる作品のネタが使われてないかという心配もあって読んだのだが、それはなかった。と、いうことは……可能性ありかな?(何の?) まあ、ともかく、クリスマスの話だけは何を読んでも微笑ましいのであった。
法月倫太朗「雪密室」△
法月倫太朗「法月倫太朗の冒険」○
綾辻行人「殺人鬼」○
ロビン・クック「ブレイン」○

 今描こうとしている長編マンガの参考に、と思っていたら、しっかりイメージしていたようなシーンがのっていてびっくりしました。
江川卓「夢ワイン」○
 わりと普通のワイン紹介の本でした。ワインネタのミステリーを書きたいなと思って色々調べているんだけど……
速水栄「エヴァンゲリオン限界心理分析」△
 「エヴァ論」を書くに当たって、やはり色々と出回っている本は当たって置くべきだろうと思って買いました。あまり大したことはなかった……。
<8月>
鈴木光司「楽園」○        
 二人の男女の運命的な転生の物語……いいんだけど、素直に入っていけなかったのは、やはり今の自分がかなり自分自身に対して懐疑的だからでしょうか。
辺見庸「もの食う人々」◎
 久しぶりにドキュメンタリーを読んだけど、これは良かったです。淡々とした平易な文章がとてもすんなりと受け入れられました。
 「もの食う人々」というタイトルを聞いて私が真っ先に思いついたのがカルバニズムでした。何て狭い発想……。でもそんな話も一編入っていました。「食」というテーマに限定したにも関わらず、この本の扱う世界は広い。著者が世界各国を回ってあれこれ食べる、という話がここまで面白いとは。マニラのジュゴンを食べる話、クロアチアの涙入りのレザンツェ、観覧車で食べるザッハトルテ、ウガンダのエイズ患者の歩くバナナ畑、ウクライナの放射能入りポテトスープ……。なんとも「豪華」な「世界の美味しんぼ」であります。簡易な文章の中に、月並みな言い方だけど、ドラマがつまっている、そんな感想を抱きました。著者自身が実際に自分で体験して回っている、という点が、このシンプルなコンセプトの本を重厚な作品にまで仕上げています。
横山泰子「四谷怪談は面白い」○
小谷真理「聖母エヴァンゲリオン」○
庵野秀明「詩編エヴァンゲリオン」△
永井均「ヴィトゲンシュタイン入門」○
小俣利一郎「精神医学とナチズム」○
木田元「ハイデガーの思想」△
<9月>
鈴木真哉「鉄砲と日本人」○
ヴィトゲンシュタイン「反哲学的断章」◎
 ウィトゲンシュタインの映画を観たのは大分前だけど、最近「殺意の時代」を書くために「論理哲学論考」と「反哲学的断章」を読んでみました。詳しくは「殺意の時代」を読んで頂くとして、やはりまだ未だにすっきりしないものを感じてはいます。うまく表現できないけれど。レインやラカン、ハイデガーやユング、フーコーやバタイユなんかの本を少々買いあさってはいますが、なかなか自分のテーマに活用できないでいます。色々と自分の作品に引用したくなる言葉も出てきて読むのは結構楽しいですが。
ヴィトゲンシュタイン「論理哲学論考」○
Grossfeld「LOST FUTURE」◎
 洋書で、全編モノクロ写真。思わず衝動買い。内容は、世界中の可哀想な子供達の姿をフィルムにおさめたもの。決して仰々しい仕上がりではないのに、結構ショッキング。義眼を片手に持つ片目の女の子、チェルノブイリの顔中包帯なのに綺麗な目だけがこちらを向いている人形を抱いた少女、CTスキャンを通される赤ん坊、双頭の乳児の標本、黒板に足でいたずら描きしている両腕がない男の子……。写真ならではの、言葉にならない悲しさとでもいうものがあります。
西澤保彦「彼女が死んだ夜」○
ナンシー・コリンズ「ミッドナイト・ブルー」○
 現代を舞台に、吸血鬼の少女ソーニャが魔物達を追うホラー・アクション。作者は女性なんだけど、その残虐描写はなかなか凄くて素敵。テーマにあった生々しさがいい。でも何で主人公が魔物を追って殺すのかが今一つ不明確。彼女には人間側に立つ充分な動機がないような気がします。自分をその世界に引きずり込んだモーガンだけを追うというのならまだ分かるけど。
 血を巡る恐怖、というわけで、どうしてもAIDSに連想が働くだけに、解決法がバンパイヤを捜して殺すだけという点に少々、「それでいいのか」的な突っ込みをしたくなるという……。
クイーン「十日間の不思議」○
クイーン「第八の日」△
<10月>
横山三四郎「ロスチャイルド家」○
小田中聡樹「冤罪はこうして作られる」○
S. コンウェイ・モリス「カンブリア紀の怪物達」○
法月倫太郎「一の悲劇」○
ベッソン「レオン/リュック・ベッソンの世界」◎
 シナリオ第一稿掲載についついそそられて買ってしまいました。でもこの第一稿はなかなか凄い。子供が撃ち殺される場面はあるわ、レオンとマチルダは一夜を共にしてしまうわで(レオンがベッドで寝ないってこれの伏線だったのね)、しかも最後に手榴弾で自爆するのはマチルダの方だったんですね〜。もし第一稿がそのまま映画化されたらより傑作になったと思うぞ。(というか、私好みというか……)
モンテーギュ「ネオテニー/新しい進化論」◎
 最近思うところあって進化論関係の本を何冊か買いました。知人から色々と指摘されたということもありますが、自分でも興味あるテーマなので。人類は幼形成熟、子供であり続けるのが進化につながるという話で、本当かどうか以前に今の私には魅力的なテーマです。そうです、人間は成長したり努力したりしてはいけないのです。(オイオイ)
 人間の持つ身体的特徴、すなわち頭が大きく体毛が薄いことなど、そして精神的特徴、すなわち成長が遅く成人化するのに時間がかかり、その分好奇心や冒険心に富んでいること、などがうまく一つに繋がるよう論旨展開されていて、とても興味深かったです。難を言えば、あまりに人間の「善」を強調しすぎるところかな。「原罪説」に反対する非常に前向きな姿勢は好ましいけど、純粋であることと純真素朴であることとは違うのではないでしょうか。
P. リーライト「子供を喰う世界」◎
 世界各国の幼児虐待・児童労働の実態を描いたドキュメント「子供を食う世界」の本の表紙はショックだった。ゴヤの有名な「わが子を食らうサテュルヌス」の絵を表紙に使うという試みは、密かに自分の今書こうとしている漫画でやろうと思っていたことだったから。「子供達にどんな希望があるのかと質問しても、彼らには何のことだか理解できない。なぜなら、ここでは希望という言葉は全く意味を持たないからだ」こんなセリフが「エヴァ」のどこかに置かれていようとも、何甘ったれたことを、と誰も相手にしないだろうが、三十人の男達にレイプされて死んだ十二歳のブラジルの子供、自分達の体をあけたらごみがつまっているんじゃないかと言うフィリピンの子供、秤に載せられ重さで値段の決められるタイの赤ん坊等の話を読めば、命の意味や希望を見出すことがいかに困難であるかを認めざるを得ないではないか。「他人の痛みが分かるはずがない」という言葉は、自分の心が相手に正確に伝わることを断念した者には慰めにも聞こえようが、「もし子供を殺しちゃったら、遺体の始末については考えなくちゃなりませんね」と答えるような人間が開き直って同じ言葉を吐いたなら、不快に思うくらいの権利はあるのでは……。
鶴見済「人格改造マニュアル」○
アシャー「世界一優雅なワイン選び」○
<11月>

我孫子武丸「殺戮に至る病」◎
 うーん、これは見事にだまされた。実際、見事な逆転劇としか言いようがない。最後の一頁で逆転し、犯人が判明するというのは、ミステリーの理想とするところですが、ちゃんとその理想を貫いている。異常性犯罪者を描いている関係上、そういう描写が多いのはやむを得ないでしょうが、そこら辺の描写がストレートでなければもっとメジャーになった作品かも。
ホーガン「創世記機械」○
ビーグル「最後のユニコーン」○
<12月>
岡嶋二人「焦茶色のパステル」○

映画
<f画館>
「冬の猿」○
「ユメノ銀河」◎
 夢野久作というと、実は読んだのは大学卒業した後。「ドグラ・マグラ」と「瓶詰地獄」を読んで、とても「新しい」と思ったのでした。「ドグラ・マグラ」に乱歩の「孤島の鬼」と小栗の「黒死館殺人事件」をあわせて日本の戦前推理小説の三大傑作と言われるけれど、その中では「ドグラ・マグラ」に一番新しさを感じます。(「孤島の鬼」も奇形を全面的に扱っている点でモロ好み。「黒死館」はマーラーが言及されているのはそそられたけど話は良くわかんなかった。)最も、大学時代から作家の名前は知っていました。丸尾末広の「ユメノQ作」を読んでいたから。(オイオイ……)
 「ユメノ銀河」の原作となった「少女地獄」は読んでいないのですが、書簡小説の形をとっているというので、大体内容が想像できます。パンフレットにもありましたが、「実存感の曖昧さ」が夢野作品の魅力であり、新しく感じられる所以であると思います。主人公のトミ子は、殺人者かもしれない運転手の新高に対して、最初抱いていた恐怖と緊張感が、次第に情愛と混乱へとなだれ込んでいく……その経緯が淡々と、しかしじっくりと描かれていて、沈黙の間が長いのに冗長さを感じさせず一気に見てしまいました。
 モノクロームの映像も、台詞や表情を抑えた演出も、バックの音楽もとても好感が持てました。難を言えば、ラストシーンがやや余韻が足りないことと(それがまたいいのだ、という意見も当然ありましょうが)、久作役の嶋田久作の出番がとても少なかったことです。(予告編に出ていたシーンが全てだったんじゃないかしら……。)
「エヴァンゲリオン・シト新生」○
 マーケティング的な点から言うと、確かに視聴率が10%そこそこの、平日六時半から半年放映されたアニメ作品が、テレビ版は完結せず、映画版も完結せず、なのに数百万部単位でビデオやブックが販売され億単位のマーケットを築き上げたというのは非常に興味深いところ。消費者をどこかで裏切ることによって儲けるというのは、必ずしもマーケティングの王道からははずれていはいない。養護する人も批判する人も等しく経常利益に貢献している訳で……。
 逆に言えば、今後映像世界を目指す者は、テレビ・ビデオ・出版物・映画を一連の流れとして押さえたマーケティング戦略を考える必要があるでしょう。それぞれの完成度……というよりは自己完結性は問わずに……むしろいかにうまく相互依存させるかという……。
 「エヴァ」のヒットを説明するには、受け手の作品に対する過剰なほどの感情移入を前提としないと難しい。前半がテレビ版のタイジェスト、しかも各シーンのランダムな繋ぎ合わせで、後半は完結しないドラマ。そういう展開が前もって分かっていながら、そういう映画をわざわざ観に行くためには、作品に対する相当な感情移入がないと我ながら説明できないように思います。
 登場人物に対して覚めた感情で読んだ方が楽しめる作品がある一方で、徹底的にシンクロしてのめり込んだ方が面白い作品があるわけです。自分にそれだけの作品を作る技量がまだないのが悔しいのですが……。
「スタートレック・ファーストコンタクト」△
「マーズ・アタック」○
「ファンタスティック・プラネット」◎
「スリーパーズ」○
 ブラッド・ピット主演、ロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマン共演という、なかなか贅沢な映画なんだけど……。中身はそれほど仰々しくない。むしろ問題提起型の真面目な地味な映画、という気がしました。
 あやまって無関係の人間に重傷を負わせた四人の少年が、少年院で看守達に性的虐待を受け、成長した後その復讐を果たす、という話なんですが……少年院での虐待が話の中心にあって、なかなかこれが凄い。しかし原作本ではもっと凄いらしい。
 ハッピーエンドと言えないこともないんだけど、印象はやっぱり暗いですね。現在製作中の長編漫画にも、児童虐待のシーンがあるので、ちょっと参考にしようかと思っています。
「ロスト・ハイウェイ」○
 久しぶりのリンチの新作映画です。うーん、ワケのわからなさは相変わらずか。決して過激な内容ではないです。一番の残酷シーンは良く見えないように撮ってありますし。
 主人公が妻を殺した罪で捕らえられ、刑務所で全く別の青年に変貌し、別の事件に巻き込まれ、そして再び元の主人公に戻る。そして物語は輪の様に繋がる、というワケなんだけど、時間的にはどうもずれているんで、そのあたりはどうもワザとやっているんだろうけど、今一つすっきりしない。でも映像美は凄いです。「ワイルド・アット・ハート」の持つ残虐描写は控えめだけど、不条理さはより進んでいるかも知れない。僕は「ワイルド……」の方が好きかな。悪役の魅力という点では……。
「もののけ姫」○
 いろいろ特集番組も観てしまったので、宮崎氏の動きに対するこだわりは並々ならぬことも分かったし、実際堪能させていただいたので、基本的には「おすすめ!」と言ってしまおう。自然の側につく「もののけ」や「タタリ」を、単に大きな動物達というだけでなく、粘性のある「気持ち悪い物」として描いている辺りはとっても共感が持てます。
  やはり不満の残るのはラスト。首を切られたシシ神ことダイダラボッチが暴走して敵味方構わず暴走する、という着想はいいのに、人間側に殆ど損害がないのは納得いかん。また、一からやり直そうなんて、それじゃなんにもならん〜。なんでアシタカはたたらと共に生きるなんて言うんだ、あの状況で。サンが人間は嫌いだと言い切るのは当然納得なのだが、でもまだ怒り方が足りないような気がするのであった。あまりにたたら集団が明るすぎるのも考えもの。労働の苦しさを嫌がる者達だってもっといてもいいはず。虫達に体の一部を奪われ、復讐心にとらわれる一方で、味方からも寝首をかかれかねない状況にいた「ナウシカ」のクシャナの方が、より厚みがあったように思うぞ。
「エヴァンゲリオン完結編・Air・まごころを君に」◎
 ついに「新世紀エヴァンゲリオン」も完結。謎は依然として残るが……。胎児のアダムはどうなったの? セカンドインパクトって結局何? 人類の補完はなされたの失敗したの? アダムがリリスならイヴは何? 光る巨人って結局何? 死海文書って何だったの?
 まあ、賛否両論あるでしょうが、ゲンドウも初号機にかじられたことですし、よしとするかな。テレビ版の「父に、ありがとう」には激怒しましたんでね。「エヴァンゲリオン」については「不安の時代」と「殺意の時代」に評論をまとめたのでそちらを参照、ということで……。
「ロスト・ワールド」○
「スターウォーズ・特別編」○
「枕草子」○
 うーん、今までと路線が違う……というか映像の性格が少々異なる。今までのグリーナウェイの諸作品は全てを室内劇として撮っていたように思う。屋外を撮っていても、それがセットに感じるような、その独特の閉塞感が味でもあったんで……。今回は体中に字をかかれたおじさんが半裸で街を走っていくなんてシーンもあって、ちょっと戸惑った。うーん、コメント難し……。いやこれはね、出版社と作家との関係を寓話化したのではとかね、とか言っていたら、横から知人に「そこまでこじつけなくても……まるでエヴァ解釈みたいに……」とたしなめられてしまった。最近我ながらちょっとこじつけ傾向アリと気付き、少々反省。
「ウォレスとグルミット危機一髪」◎
  うーん、文句無しの傑作。全ての人におすすめする! 何て素敵なんだろう! 30分の短いクレイアニメなのに、その充実ぶりは筆舌に尽くしがたし。昨年9月に公開された前作「ペンギンに気を付けろ!」が結構完璧だったんで、なかなかあれを凌ぐ物は難しいだろうと思っていたのですが、なんのなんの、沢山のヒツジ達が思い思いに騒ぎ回るのを見るだけで、幸せな気分になれるのでした!
 コメディに対して無限のあこがれを抱いている私にとっては特にそうなんですけどね。今回マンガで「ハッピーマシーン」というコメディを描いたけど、何故なんだろう、「わくわくするたのしさ」が伝わらない。何が欠けているの? ニック・パークには備わっていて私に決定的にないものって何? 人間性?(それが分かれば苦労しないって!)
「バットマン&ロビン」○
 映像的に「使いたい」シーンがいくつかありました。私は基本的には「バットマン」というダークなキャラクターは好きなんですよ。ひとりぼっちでだだっぴろい暗い書斎にじっと座っているブルース・ウェインが何とも……。しかしどんどん家族が増えちゃってるんで、どうもなあ。
 シュワルツネッガーは意外と悪くはないんですよ。実際。欲を言えばもう少し感情移入できるキャラクターにして欲しかった。あの時間内では難しいとは思うが。2時間の枠の中で、フリーズの妻との過去、ポイズン・アイビーの変貌、バット・ガールの登場、アルフレッドの病気、ロビンとの反目等々の要素を全部入れるとなるとねえ。
 明るく派手なバットマンファミリーもいいけど、ここは一つダークなキャラに戻って、暗い展開で一本撮って頂きたいです。
「バウンド」◎
 実は殆ど期待していなかったのに、意外と良かった。口をいつもとがらせているジーナ・ガーションがカッコイイです。レズ物とたかをくくっていた私は愚かでした。舞台は建物の中から殆ど出ないというのに、アクティブな印象が強くて、やはり脚本の完成度が高い。敵役となるシーザーというキャラクターもいい。どーものっけから頼りない男が、見事にはらはらさせてくれます。血だらけの札束を洗ってアイロンかけたり、トチ狂って銃をぶっぱなす時思わず自分で目つぶっちゃったりと、とってもキュート。
 監督のウォシャウスキー兄弟って、私(兄)と弟と同じ年なんだ……。う〜ん。
「ティコ・ムーン」○
 監督のエンキ・ビラルは漫画家で、フルカラーで一コマ一コマがイラストの様な作品を描く人。向こうでは3年に一冊(50ページ程度)描けば充分とのことです。アルバムを出すって感覚に近い。日本のマンガ家にはかなわぬ夢ですね。私も一冊持ってるけど、売ってないなあ。映像化すると有名な俳優達が本人のマンガそっくりになるのでおどろき。今一つ盛り上がりには欠けるけど、くすんだ映像感覚は肌が合う。フランスの漫画家と言えば色彩鮮やかなメビウスですが、私は個人的にはメビウスよりもビラルが好きです。
「フィフス・エレメント」◎
 CMとか予告番組とかでイメージしてた限りでは、「レオン」をそのまま未来に移して、ブルース・ウィルスは犠牲に死んじゃって、ルーリーは世界は救えても伴侶は救えなくて泣くとか、そーゆーパターンと勝手に思ってたけど……ベッソンの映画とは思えないくらい派手で楽しい映画であった。明るい明るい。でも「レオン」と人物の組み合わせが似てて、監督の好みが分かろうというもの。同じくゲーリー・オールドマンが出てるし。「メトロポリス」を思わせるレトロっぽい未来描写は結構変っぽくて素敵。

   結構こうして並べてみると観に行っているもんだなあと……。
 でも観たかったのに逃してしまった作品もある。シュヴァンクマイエル「悦楽共犯者」とか、「トレインスポッティング」とか……。
<ビデオ>
「イレイザー」○
「ガメラ2」○
「トップをねらえ!@AB」○

 借りて観た直後にテレビ放映されてしまった。
「ゴジラ」○
「ザ・ロック」◎
「友子の場合」○

イベント

「池田龍雄・中村宏展」(練馬美術館)
 絵は好きだが、美術館を回るのは実は結構疲れる。ずっと意識を集中させていなくてはならないし、画集を読むときのように自在に作品を選んでいけるものでもない。回りに人も多くて気が散るし、混雑している会場などは満員電車の中で吊り広告を見ているような気分になってしまう。だからなかなかリラックスして作品を鑑賞できないことも多い。
 その点では、練馬美術館で開催されていた「池田龍雄・中村宏展」はある意味で僕にとって理想的な展覧会だった。日曜美術館で紹介されていたのを偶然目にして、久しぶりに美術館に足を運んだのだが、あまり知られていないのか客も少なく、僕好みのシュールな絵画をじっくり時間をかけて鑑賞する事ができた。
 池田龍雄の「化物の系譜」「禽獣記」等のシリーズ画は、線画のタッチがとても魅力的で、 「BRAHMAN」のシリーズ画の、粘質の不定形の生命体らしきオブジェ群には非常にそそられるものがあった。
 中村宏の「遠足」「円環列車A・望遠鏡列車」「円環列車B・飛行する蒸気機関車」などの作品群は、蒸気機関車とセーラー服の女子高生という非常に俗っぽい題材を扱いながら、幻想的でかつ過激な風景を描き出すことに成功している。
 この二人の画集が本屋に売っていないかと思ってあちこち探し回ったが、どうも見つからなかった。日本の画家というと「梅原龍三郎」とかの画集なら一杯置いてあるんだけど。もっと普通に面白い絵が取り上げられてもいいと思うんですが。
「SFセミナー」水道橋
「SFX展」」新宿三越南館
「CHINA NOW」渋谷
「ヨーロッパ拷問具展」明治大学刑事博物館
 中世の魔女裁判の時代を中心とする拷問具の数々。とにかくひたすら苦痛を引き伸ばすためにありとあらゆる工夫を凝らし、しかもその殆どが「魔女」と判定された罪のない普通の人々を対象にしていたと思うと、やっぱりぞっとする。人間ってこわい。
「シンポジウム〜フェミニンな世紀末」日本ジャーナリスト専門学校

…あれっ、これくらいしか行っていなかったっけ…。

98年の目標
・小説〜週一冊、53冊。
・映画〜映画館に月1回、12回。ビデオは月2回、24回。
・イベント〜展覧会か演劇に月1回。
以上は去年と同じ。
・創作〜今年の実績
    ・長編推理小説「アートマン(仮)」、出だし150枚でストップ。あのなあ……。
    ・長編SFホラー小説「ネクロポリス・ノート」、0枚。うっうっ……。
    ・長編SF漫画「冬の日の幻想」、シナリオ52ページ。本編14ページ。うっうっ……。
    ・短編コメディー漫画「ハッピー・マシーン」、53ページ完成。作品集ァとして出版。
・創作〜来年の目標(結局、去年と殆ど変わらないではないか……)
    ・長編推理小説「アートマン(仮)」、目標1000枚。
    ・長編SFホラー小説「ネクロポリス・ノート」、目標500枚。
    ・長編SF漫画「冬の日の幻想」、目標100ページ。
    ・CD-ROM作品「列車TRAIN」


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