「ワインの歴史は英雄達の欲望の系譜」Part-4.今日のワイン
〜ワインの歴史をおもしろおかしく解説する休日講座! Part4はワインの購入や保管からのアプローチ!
ここで一般常識チェック! 下手をすると専門家でさえ見分けられないのに、一瓶数十万円のワインから1000円台のワインが存在してしまうのがワインの恐ろしいところですが、ちなみにレストランで12,000円、やまやのような専門店で4,000円くらいのワイン一本に使われる原料の葡萄はいくらくらいでしょうか。これはテレビで解説されたこともあるので見当のつく方もいらっしゃるかも知れませんが……。
●一本に1.2kgの葡萄が使われたとして、そのコストは293円。さぞやぼろ儲けと思いきや、ワイナリーの純益は下手すると50円そこそこ、出荷価格が1085円として、これに税金が色々かかって1346円、後は流通の原則に則って、卸、小売と価格は上がっていき、レストランは下手すると店頭価格の2-3倍は取ってしまう、という訳です。
●次にワインの保管について。ワインに限らず飲料・食品は冷暗所保存が原則。保管温度は10-15℃がベストで、10℃上がると熟成=劣化の速度は二倍になります。これが賞味期限の考え方。一方分からないのが湿度で、75%が望ましいとして家庭用セラーもそのように設定されていますが、これは実は本来カーブの樽熟成の条件で、文字どおり樽からの蒸発を防ぐため。密閉されたガラス瓶の場合はそれほど気にしなくても良いみたい。また酸化防止剤として亜硫酸が添加されています。これは500年前から使われている酸化防止剤で、他にバクテリアを防ぎ、清澄化を促し、色素の抽出も助けます。これがないとシャトー・マルゴーもロマネ・コンティも三ヶ月と保たない。一方、本来は古いワインの澱を取るために行うデカンテーションを若いワインでも行うのがよいとされるのは、この亜硫酸添加によって生成した硫化水素を揮発させる効果があるからとも言われています。
●ワインと料理の相性についてはなかなか本音と建て前が交錯するところでして、自由に組み合わせて貰って構わないのよ、なんてテレビや本とかで良く言われている割には、アドバイザー試験なんかではしっかりそれが出題されて、ホントに合うんか、なんて思いながらも何十ページにもわたる一覧表を丸暗記したりするわけですが……。まず原則として、その地方の料理にはその地方のワインを合わせ、特に赤ワインを使った料理には赤ワインを合わせます。まあ日本料理にはまず日本酒ですよね。それから酸の組み合わせがポイント。冷やすと旨い酸は果物に多いリンゴ酸やクエン酸。暖めると旨いのが乳酸やコハク酸。例えばアサリにはコハク酸が多いから、ボンゴレなんかは冷えるとまずいんだけど、これにレモン汁をたらすとクエン酸によるマスキングのお陰で食べられるようになる、というわけ。一方、フレッシュな白ワインはリンゴ酸やクエン酸が多いけど、熟成型の白や赤はマロラクティック発酵によってリンゴ酸が乳酸に変わっているので、乳酸の多い赤身の肉とは相性が良くなります。赤の場合渋味のあるタンニンも脂身の多い肉との相性を良くしています。
●ガラス瓶とコルク、この二つが揃って初めて、ワインの熟成と保管が可能になり、かつシャンパーニュという新しいスタイルのワインも誕生したのであります。ローマ後期以降ワインは樽で寝かされ、樽で取引されていたわけですが、17世紀には瓶に詰めコルクで栓をして売られるようになります。これによって瓶の長期熟成が可能になり、軽いワインから濃厚なワインへと嗜好も変化しました。発泡ワインはシャンパーニュの名前にもなっているドン・ペリニヨンの発明と言われますが、実際には彼は盲目ながらアサンブラージュ、すなわちブレンドによって完成度を上げることを目指したのであり、発泡ワインを作ろうとしたわけではないようです。瓶詰め後に残っていた酵母が発酵を続けた結果できてしまったのがシャンパーニュです。一方、瓶詰めが一般化しワインの質が上がっていった中で登場したのがグレート・ビンテージ1811年です。油を張って酸化を防いでいた時代の紀元前121年よりは信憑性がありそう。ドイツでキャビネット(個室=秘蔵酒を意味する?)という言い方が生まれたのもこの頃で、後のボルドーの格付けへの動きの伏線になりました。
●最後にソムリエについて。日本はおそらく世界で一番ソムリエの多い国です。本家フランスの倍以上います。85年にソムリエ呼称認定資格試験が始まってからおべんきょ好きの人達がわんさか受けるもんだから……。ちなみにソムリエ試験にはサービス業の経験が5年以上必要で、私が受けたアドバイザーは酒類業界で3年働いていることが条件。何もないのがエキスパートです。世界に眼を向けると、国際ソムリエ連盟というのがあって、日本が加盟したのが1986年、これにより世界最優秀ソムリエコンクールへ出場できるようになりました。1995年に優勝したのが田崎真也さん。それまではフランス人とイタリア人しか優勝していないから凄い快挙なんだけど、東京で行われたというのがミソ。この辺の下りは「ソムリエ世界一の秘密」という本に詳しくて、なかなかにスリリングなんですが、テイスティングにしても実技にしても、やはり地元の方が実力が発揮できそう。98年のオーストリアでも優勝者はドイツ人だし。
と、いうわけで、古代から現代に至るワインの歴史を駆け足で説明させていただきました。他にも醸造や品種といった生物学的アプローチや、投機や国際競争力といった経済学的アプローチ、テイスティングやサービスといった官能的アプローチ、そして文学や映画からの芸術的アプローチなどさまざまな切り口がありますので、興味のある人の為に参考文献リストをお配りしましょう。それでは、ご静聴ありがとうございました。
「参考文献」
●「2000ソムリエ・ワインアドバイザー・ワインエキスパート教本」日本ソムリエ協会
全860ページが全て出題対象という恐ろしい教本。年々厚くなっている。
●古賀守「ワインの世界史」中公新書
主として古代ギリシャ・ローマのワインが中心。後は駆け足。
●麻井宇介「比較ワイン文化考」中公新書
少々内容的には今の日本の現状とずれてますが……。
●堀賢一「ワインの自由」集英社
漫画「ソムリエ」の監修者。切り口が斬新で面白い。
●管間誠之助「ワイン用語辞典」
ABC順なのが使いやすいような使いにくいような……。
●アンドレ・シモン「世界のワイン」柴田書店
古い本なのでビンテージの紹介とかあまり役に立たないけど、Q&A方式は分かりやすい。
●ジェラルド・アシャー「世界一優雅なワイン選び」集英社文庫
うーん、確かに優雅だ。
●「世界の歴史5〜中世ヨーロッパ」教養文庫
百年戦争の概要が詳しく記されてます。
●竹下節子「ジャンヌ・ダルク〜超異端の聖女」講談社現代新書
もう少しジャンヌを取り上げたかったけど……。
●横山三四郎「ロスチャイルド家」講談社現代新書
ロスチャイルドの興亡は確かに読み物として面白いです。
●渡辺正澄+藤原正雄「ワイン常識がガラリと変わる本」講談社+α文庫
ガラリと変わるほどではないけど酸の話は分かりやすい。妙な駄洒落がなければ……。
●大谷浩己「フランスワインの12ヶ月」講談社現代新書
足踏みならぬ「いい湯だな」状態の写真にびっくり。
●マット・クレイマー「ワインが分かる」「ブルゴーニュワインが分かる」白水社
あまりカタログにも詳しく書かれていないネゴシアンまで詳細に紹介。
●ジェームス・ターンブル「ボルドーワインベストセレクション」小学館
原寸大のボトル写真が圧巻。
●「世界の名酒事典2000年版」講談社
洋酒12000点を網羅する620ページのカタログ。
●山本博「ワインの常識と非常識」人間の科学社
岩波新書「ワインの常識」を徹底的にこき下ろした本。
●マルク・ド・ヴィリエ「ロマネ・コンティに挑む〜カレラ・ワイナリーの物語」TBSブリタニカ
ジョシュ・ジェンセンの苦労話。
●重金敦之「ソムリエ世界一の秘密」朝日新聞社
田崎真也の生い立ちから世界コンクール優勝まで。
●季刊ワイナートVOL.1〜 7
チリやカリフォルニアの特集は有り難い。
●城アラキ+甲斐谷忍「ソムリエ」@〜H
何故か最終巻だけ殆ど店頭に並ばなかった。
●TV(NHK教育)「ワイン歴史紀行」全5回(98年10月録画)
ヒュー・ジョンソン司会進行のドキュメント番組。
●TV(フジテレビ)「ワインのばか」全10回(97年10月〜98年3月録画)
堀賢一監修の各週深夜番組。ワイン男爵がセラーの中で講義するという設定が意外と面白かった。
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