「ビールの歴史は酔っ払い達の談論の歴史」Part-1.古典ビール時代
〜ビールの歴史をおもしろおかしく解説する休日講座、いよいよ開講! まずは古典時代から!
古代シュメールでは、大麦で焼いたパンを湯に溶いて自然発酵させた「シカル」が飲まれていたといわれます。
また、エジプトでも大麦を発芽させ、半分生のパンを焼き、麦芽に含まれるアミラーゼで糖化させたと考えられ、これが現在のビール造りの基本となっています。
紀元前1800年頃シュメールが滅び、それを受け継いだバビロニアでは大麦と小麦と薬草の組み合わせから20種類のビールが作られていました。「ハンムラビ法典」では「酒場の女主人がビールの代金を穀物ではなく銀貨で受け取った場合には溺死の刑」等、4条に渡ってビールに関する記載があります。
また、タキトゥスの「ゲルマニア」によると、古代ゲルマン人によるビール醸造が紀元前1800年頃には始まっていたとされます。古代ギリシャ・ローマがワイン中心だったのに対し、ビールは蛮族の酒としてドイツ・イギリスの辺境地で作られていました。タキトゥスもヘロドトスも、ビールはワインに似ているが品位
の劣る酒だと記しています。
・「ビベーレ」(ラテン語で「飲む」)
・「ビアー」(英語)
・「ビエール」(フランス語)
・「ビール」(ドイツ語)
・明治24年の国語辞典「言海」に「ビール」の見出しあり
ビールはもともといずれもラテン語の「飲む」を意味する「ビベーレ」に由来します。日本の「ビール」という言葉はオランダ語から来ているようです。明治時代の辞書に既にそれが記されていますが、1724年に幕府とオランダ商館との記録「和蘭問答」に既に「ヒイル」という言葉が出てきます。
中世初期のグルートビール
ホップの苦味はルプリン
フムロン→イソフムロン
ホップの効用……抗菌・催眠・利尿
中世初期、11世紀頃までは香草・薬草を調合したグルートビールが主流でしたが、13世紀以降はホップが使用されるようになります。
ホップの苦味はルプリンと呼ばれる黄金の粒。それに含まれるフムロン類が、麦汁煮沸の際異性化されてイソフムロン類に変化し、これがキレの良い苦味を生み出します。イソフムロンの苦味は消えやすいため、慣れると喉に心地よくなる仕組みです。ホップは特にグラム陽性菌(ブドウ球菌・枯草菌)に対して抗菌効果
があるとされます。もっとも今に至るまで医療効果は認められてはいないので、日本薬局方にも生薬としての記載はありません。
●ビールと酵母〜大きく分けて以下の上面発酵酵母と下面発酵酵母の二種類があります。
酵母(Saccharomyces Cerevisiae)
@上面発酵酵母
・発酵と共に上面に浮上する
・発酵温度15〜25℃
・エール、スタウト、アルト、ケルシュ
A下面発酵酵母
・発酵と共に凝集して沈降する
・発酵温度5℃
・ピルスナー、ミュンヘン、ドゥンケル
はじめの頃、ビールは上面発酵が主流でした。常温で発酵するのが特徴で、エールやアルト、スタウト等が作られます。それに対し、今ビールの主流となっているピルスナーは下面
発酵。低温で発酵するので、冷蔵設備が可能となる近代になってから爆発的に広まりました。ちなみに下面
酵母は、上面酵母セレビシエの変種と見ると大学時代の教科書には書かれていました。元々はカールスバーグ研究所で同定されカルルベルゲンシスと命名されたのですが、近年のDNA鑑定から現在では汚染酵母パストリアヌスに分類されるという報告もあります。
自然発酵(ベルギー)━ランビック━グーズ┏クリーク
┗フランボワーズ
小麦ビール━ウァイツェン(ベルギー・南独)
乳酸発酵━ベルリナーヴァイセ(北独)
スタウト(イギリス)
ポーター(イギリス)
エール (イギリス) スコッチエール、ペールエール
(ベルギー) トラピストエール
(ドイツ) アルト、ケルシュ
ベルギービールやイギリスのエールが有名です。ベルリナーヴァイセが酸っぱいのは、酵母と併用して乳酸菌を接種して酸を生成させているからです。通
常、アルコール発酵にとって乳酸菌による酸の生成は避けたいところが普通なのですが、ここでは敢えて酸を作らせています。ちなみにワインのマロラクティック発酵も乳酸菌によるものですが、pH等の微妙なバランスが必要とされます。
ピルスナー(チェコ)┏アメリカン
┗へレス(ドイツ)
ウィーン(オーストリア)━メルツェン(ドイツ)
ミュンヘン(南独)┏ボック(ドイツ)
┗ドゥンケル(ドイツ)
ドルトムンダー
下面発酵ビールはもともとドイツの一部の冷涼な地域で作られていましたが、チェコのピルゼンの硬度の低い水によって淡い色と軽快な飲み口のビールが生まれ、やがてそれが世界中に広まりました。今ではピルスナーはビールの代表格。日本の代表的なビールもその殆どがこの下面
発酵によるピルスナータイプと言えます。