「ビールの歴史は酔っ払い達の談論の歴史」Part-2.ベルギーのビール
まずビールの歴史を語る上で重要な国は、ドイツでもイギリスでもなく、意外かも知れませんがベルギーです。
ブリューゲルの絵には、石の壺に入れられた赤褐色のワインのような酒が登場しますが、これがランビックです。
ブリューゲルは今のブリュッセル近郊、フランダースのオールド・タウンで生まれました。
ベルギーには「ランビック」などかなり古いタイプのビールが今だに作られている点が特徴的です。もちろん、市場の七割は日本でも良く見られるピルスナータイプ。でもその一方で、残りの三割をスペシャリティと呼ばれるユニークなタイプのビールが占めていることも事実なのです。
ランビック→野生酵母で作るビール
グーズ→貯蔵年数の異なるランビックをブレンドし瓶内二次発酵させた物
クリーク→チェリーをランビックに漬け込みさらに発酵させた物
アベイ→修道院ビールのレシピを醸造所が受け継いで製造する
トラピスト→現在6ヵ所の修道院で製造
昔、ビールもワイン同様修道院で作られていました。現在でも僅かに残る修道院で「シメイ」など日本にも輸入されているアルコール度の高いビールが作られていますし、修道院ビールのレシピをそのまま受け継いで今も製造を続けている醸造所もあります。
・現存する最も古い醸造法
・醸造の町レンベークに由来
・ベルギーのバーガンディーは赤ビール
・ビールに合わせたグラス
・製麦しない小麦と3年寝かせたホップ
・二回夏を超えたものが熟成ランビック
・ガスのないストレートランビック
ワインは今でも培養酵母を使わずに、ブドウにそのまま付着した野生酵母だけで発酵させる場合が少なくありませんが、ビールで培養酵母を使わない例は殆どありません。ブリュッセル郊外で今も作られるこの「ランビック」は、今だに培養酵母を使わず、ワインと同じように木樽で発酵・熟成させて作ります。二年近くも樽に寝かせられれば、もちろん炭酸ガスも殆ど残らず、文字通
り麦で作った白ワインといった感じです。ビールに炭酸は当たり前、と思うでしょうが、昔の人達は殆どガスを含まないこのランビックを樽から飲んでいたわけです。
●グーズについて
・ランビックをブレンドし瓶詰めした物
・ギーザ(間欠泉)が由来
・シャンパーニュ製法に近い (メトード・シャンプノワーズ)
〜若いランビックを加えることで瓶内発酵が進み、自然とガス付けされる。
・辛口で酸味強い
さて、ガスのないワインに対して、瓶内二次発酵によってガスをつけたものがシャンパーニュですが、ランビックの熟成した物と新しい物を混ぜ合わせ瓶詰めし、残存していた酵母で二次発酵させた物をグーズといいます。シャンパーニュの製法に近いのでメトード・シャンプノワーズと呼ばれます。今のガス付きのビールの原形のようなものですが、その濃厚な味わいと強い酸味は今のピルスナーとはかなり印象が違います。
・市内で唯一伝統的な手法でランビックを製造
・小麦:大麦=35:65
・古い年代物のホップを使用(殺菌目的)
・開放型冷却槽で野生酵母植え付け
・一ヶ月間樽発酵後三年近く寝かせる
・年間生産量9万L
↑カンティヨン醸造所の開放型冷却層。
Cantillon醸造所は1900年に設立された家族所有の醸造所です。市内で唯一伝統的な手法に乗っ取ってランビックを作っているところだそうです。醸造所は街中の細い道路沿いに建っていました。シャッターの様な扉を開けるとすぐそこに事務所とカフェと販売コーナーが設けられています。家族四人で経営していて、ランビックは秋と冬にしか作らないとか。夏場は温度が高くなってしまって発酵には向いていないのだそうです。じゃあ春と夏は遊んでいるのかというとそうではなくて、チェリーを漬け込んでクリークを仕込んだりしています。
ここでのランビックの作り方ですが、まず最初に小麦麦芽と大麦麦芽(比率は35%:65%)を破砕し、仕込み槽の中で二時間お湯で沸かして45〜72℃まで温度を上げて糖化、しばらく放置後お湯を加え麦汁とします。ここでろ過されカスは飼料となり、麦汁はポンプで二階に運ばれ、二階にある銅製のホップボイラーに入れられます。ここで古い三年物のホップを加えます。通
常のビールの二、三倍の添加量ですが、この主目的はポリフェノールによる殺菌作用にあります。この間三、四時間煮るので、麦汁のうち20%は蒸発します。アルコール度は5%。フィルターでホップ粕を取り除き、三階へ。ここは倉庫と冷却槽があります。この浅い冷却槽で麦汁は18〜20℃まで冷やされ、一晩置かれる間に野生酵母が自然に植え付けられます。従ってこの部屋はたとえクモの巣が張られようと絶対に掃除はしないとのこと。16年前に屋根を立て替えたそうですが、わざわざ古い瓦を入れています。野生酵母は約86種類あり、決め手となる酵母はブリュッセルにしか存在しないので、他の土地では同じランビックを作ることはできないとされています。主体となる酵母はブレタノミセス・ブルクセレンシスとブレタノミセス・ランビックス。これらは非発酵性糖(デキストリン)を吸収する作用があるので、三年ほど寝かせているうちに糖度が下がるのだそうです。
・樽で熟成中のランビックにチェリーを加えたもの
・夏に収穫したチェリーを加え秋まで漬け置き、さらに5〜6ヶ月瓶内熟成
・果物の糖分によりさらに発酵
・木苺を加えたものはフランボワーズ
ベルギーは北半分がオランダ系、南半分がフランス系で、言語もオランダ語とフランス語の両方が公用語となっています。食事はフレンチに近くて、なかなかグルメなお国柄なのですが、残念ながらブドウはうまく育たない。従ってここではワイン代わりにビールを食事に合わせます。昔からの製法を大事にし、数多くの種類のビールが作られているのもそれが理由かも。
ここで白ワインの代わりを務めるのがランビックやグーズだとすれば、赤ワインの代わりを務めるのが果
実を漬け込んで作ったクリークやフランボワーズ。それぞれチェリーと木苺を漬け込みます。果
実の糖分によってさらに発酵は進み、酸味が強くアルコール度の高い独特の風味のフルーツビールが出来上がります。
●リーフマンス醸造所
・ 大麦使用、上面発酵、培養酵母も一部使用し再利用
・チェリーはベルギーとデンマーク産を使用
・販売量増に対しタンク増設
日本のブラッセルズなどでも飲むことができますが、ローデンバッハと並んで非常に飲みやすいクリークを作っています。1679年からリーフマンス家が所有。1972年にリーフマンス家の二人の息子は醸造所をイギリスのビール工場へ売ったが、1990年、修理が必要となった段階でビール会社はここを売り払い、RIVA社がこれを買い取りました。発酵はオープンタンクで行うとのこと。ガラス越しに見えるオープンの冷却槽は100℃の麦汁を60℃まで冷やすもの。天井はすき間が空いていて、ここで野生酵母が付き、ホップ粕は沈むという仕組み。
ここリーフマンスで製造しているビールは、まずベースとなるビールが三種類。これを元にクリーク等が作られるので、最終的な銘柄数は七種類。チェリーはベルキーとデンマーク産を使用しています。収穫は夏だけ。生の果
実だけを使用。実際に添加する時は、横置きのタンクの中に一人入ってチェリーの実を入れていくのだという。ビール100Lに対してチェリーが13kg加えられます。
●ベル・ビュ醸造所
・大麦64%と小麦36%に2年物ホップを加えランビックに
・チェリーを4ヶ月物ランビックに加え2年間熟成
・600L樽に80kgのチェリー。6000Lの樽もある。
↑クリークを熟成させる木樽
1930年にヴァンテンシュトックとして始まった醸造所は、1941年にはB&V(Belle -Vue&Vantenschtok)となり、今に至っています。Lambicの作り方は、まず大麦64%+小麦36%に古いホップを加えるところから始まります。最高六年間も熟成させる場合も。若いランビックは甘いのですが、そのうち寝かせていると辛口になり、酸味も出てきます。クリークはチェリーを四ヶ月物のランビックに加え二年近く熟成。樽は樫の木、発酵から熟成まで樽で行い、かつ80〜90年物の古い樽を使用します。
年間生産量は21,000kl。うち61%がクリーク。クリークLA(Law Alc.=1.2%)も作っているがあまり人気がないとのこと。通
常のクリークはアルコール5.2%ですが、こちらのLAはアルコールを除くのではなく、途中で発酵を止めることで低アルコールにしているのだそうです。樽の素材は樫の木かマロニエの木。ワインやポートで使用された後の樽を使います。新樽はタンニンが多く味を変えてしまうため、フランスやポルトガルから古樽を買っているそうで、また閉鎖されてしまう小規模の醸造所からも買い取るとのこと。若いランビックの一時保管ならステンレス樽でもいいが、酸が多くかつ熟成期間も長いので、ステンレス樽でそのまま熟成させるわけにはいかないのだそうです。
●ホワイトビール
・小麦で作る白く濁ったビール
・オレンジの皮やコリアンダーを使用
・乳酸臭から2〜3ヶ月でハチミツ香へ
・ヒューガルテン 1700年代に30以上の醸造所
1954年に全て廃止
1966年に復活
●ヒューガルテン醸造所
・原料は55%のペールモルトと45%の小麦
・上面発酵、酵母は二回再利用
・ホップはオーストリア、オレンジピールはスペイン、コリアンダーは東欧、小麦はフランス・ベルギー産
白ビールはベルギーのスペシャリティのうちの15%程度のシェアがありますが、Hoegaardenはその中で68%を占めています。輸出も14%増で伸びており、常に二桁の成長を続けているとのこと。現在、Hoegaardenは世界50カ国で販売されています。
工場の設立は1751年だが、一時期ビール醸造を行っていなかった時期もあり、再開したのは1986年のこと。原料は55%のペールモルトと45%の小麦(unmalt)。仕込釜はまず麦汁を一時間で75℃まで上げた後、さらに100℃まで上げてホップ・コリアンダー・オレンジピールを入れます。これを18℃まで下げ、発酵へ。発酵は上面
発酵。瓶内二次発酵を行うため、瓶詰め後も10日間から2週間常温で熟成させます。