ワールドコン/グラスゴー滞在記

第三日(
8.6.Sat.)「ワールド・コン二日目」

 


 目覚まし時計を持ってこなかったのは敗因でした。七時に起きるつもりが目覚めたら十時過ぎ。おまけに風呂に入ろうとして左の足先を思い切りバスタブの端にぶつけてしまう。
 午前十一時半、悩んだ末、当初の予定通 りモダン・アート・ギャラリーに行くことに。本来は十時開館なので、朝早めに出かけて昼の企画には戻る予定だったのですが…。

 タクシーでモダン・アート・ギャラリーへ。降ろされてから後、目の前の古めかしい建物がそれと気づかず、周囲をうろうろ歩いてしまいました。

  ←モダン・アート・ギャラリー

 展示されているのは、殆ど知らないアーティストの作品ばかり。Tristram Hiller(1905-83)”Hulks”は、打ち捨てられた船の手前に生い茂るハリネズミのように尖った草むらが印象的。Edward Baird(1904-49)”Unidentified Aircraft”は、見えない飛行機をおそるおそる見上げる家族の顔が画面 下で断ち切られているという変わった構図。他にも、Graham Fager(1966~)の、ゴムを使ったクロスボウや、ボールペンの軸で作った吹き矢など、日常自宅で作れるような身近な物でできた武器を写 真に収めた”Weaqpon”や、部屋一杯に新聞記事やロゴを拡大したBarbara Krugerの作品など、決して難解ではないけれど一風変わった趣向の作品が展示されていました。「スタジオ」と称して、子供達が自主制作できるような部屋が最上階にあるのも面 白かったです。もっとも、ガイドブックに載っていたような、「新聞紙で作った車の巨大なオブジェ」などは見当たらなかったので、展示作品はしょっちゅう変更されるみたい。

 ここまで来たらマッキントッシュの作品も見なくてはなるまいと、ハンタリアン・アートギャラリーまで足を運ぶことに。しかしここに来て、朝ぶつけた左の足先が痛み始めました。一度治まってまた痛みだしたとなると……骨折までいかなくとも軽くヒビでも入ったのかも。歩けないほどではないので、そのままタクシーを拾いハンタリアン・アートギャラリーへ。

 運転手に言うと「ハンタリアン・ミュージアム?と言われたので、イエスと答えたのですが、実際に着いてみると、展示しているのはロゼッタ・ストーンの複製や恐竜の模型みたいな物ばかりで、マッキントッシュらしきものは影も形も見当たらない。ショップの店員に聞いてみると、マッキントッシュ・ハウスがあるアート・ギャラリーは道を隔てて向かい側だと言う。要は同じくグラスゴー大学構内に、ミュージアムとアート・ギャラリーの二つがあったのだ。

  ←ハンタリアン・アート・ギャラリー

 アート・ギャラリーは無料だけど、マッキントッシュ・ハウスは有料で、入場料は£2.5。直線とモノクロを基調にワンポイント赤や青のカラフルなオブジェが入る、というパターンが何となくそれっぽいです。
 一階が居間、二階が書斎、三階が寝室となっていて、最上階にはいくつかの絵画作品が展示されていました。表示を見ると
Jessie M. Kingの作品だと説明されている……。今ひとつマッキントッシュとの関係は分からなかったのですが、おそらくはキングの作品の一部をマッキントッシュがポスターなどにデザインし直したのかも。”The Sleeping Beauty”,”And Gave the Naked Shield”などといったタイトルの作品が並んでいました。人物や建物は極端に細い線で描かれ、影などは一切なく、服の模様などが赤や青、黄といった明るい色調で部分的に塗られていました。マッキントッシュの家具の色彩 と通じるものがあります。髪の毛が一本一本細かく描き込まれているところは印象的。主に商業的な分野で活躍した人のようですが、ミュシャとはまた異なるスタイルのこだわりがあったみたい。

 午後三時半。本来ならワールド・コンのお目当ての企画が始まる時間なのですが、足が痛いのと疲れたのとで、入り口近くの休憩所で一本1ポンドのスプライトを飲みながら一休みしてしまいました。

 タクシーを拾い、SECC会場へ。この時点で午後四時を過ぎていました。企画「マンガ紹介」の部屋へ。井上弘樹氏(ガイナックスの関係者らしい)による日本マンガの紹介。日本の週刊誌は30誌以上、月刊誌は40誌以上、単行本は月に300冊以上、SFはそのうち二割、英訳は数パーセント、少年誌のジャンプが400万部、青年誌のモーニングが200万部…といった市場状況が語られていました。何しろ講演者が日本語で喋ってくれるのでとっても分かりやすい。もっとも司会者の冗談が受けている場面 は例によって全然分かりませんでしたが…。最後に井上氏が、手塚治虫と二年ほど仕事をしてその間結構大変だったという話をしていました。日本の漫画史は手塚治虫の1000冊以上の業績を辿れば把握できるけれど、殆ど英訳されていないのが残念であると締めくくっていましたが、どこまで会場の人たちに伝わったかは少々心もとないような……。

 午後六時に部屋に引き上げ、しばらく足を水に浸けて冷やす。これではとても遠くへ食事に行くことはできそうもない……。テレビのインフォメーションで、七時からホテル一階中央のマリナー・レストランが開店することを確認、七時丁度に店の入り口に行くと、店員から断られてしまいました。相手もかなりなまりがあるらしく、どうも言っていることが解らない。日常会話レベルでここまで通 じないとさすがに焦ります。しょうがないのでメモ帳を差し出し書いてくれと頼むと、”We can't care you till 8:30pm.”と書かれました。要は予約が一杯ということかしら。見たところ殆ど人はいなかったのですが…。
 結局部屋に戻り、あらためて電話をかけてみると、出たのはどうやらさっきと同じ店員らしくやっぱり言っていることがよく分からない。どうやら来るなら九時からだ、ということらしい(さりげなく三十分延びてるし……)。一応了解したと引き下がり、八時四十五分に店に向かうと、とりあえずは入れてくれました。もう少し愛想良くしてくれても良さそうだと思ったのですが、見ていると他の客に対しても似たような対応みたい。実際に注文を取りにきた若い店員は愛想が良かったのですが、やっぱりなまってて言ってることは分かりませんでした。

 スコットランド産スモークサーモンと、その場で焼いてくれるステーキ、そして赤ワインのハーフを注文。最初はシャトーヌフ・デュ・パプを選んだのですが、売り切れとのことで代わりにコート・デュ・ローヌを注文。やや味が薄かったような気が……。どうせなら隣のパブのオーストラリアの赤ワインでも注文すれば良かったなあ。スモークサーモンは、ポテトサラダを肉厚のサーモンで花びらのようにくるんだもの。周りにオレンジとグレープフルーツが飾ってあり、軽くオリーブオイルが散らしてありました。お好みでコショウをふりかけます。なかなか食べでがありました。ステーキは実際にその場で調理してくれます。豪快に二枚の肉をフランベ。アーティチョークとポテトのミルフィーユ(茹でたポテトのスライスの間にホワイトソース。どうやって作るんだろう。スライスにしてからオーブンで焼くのかしら…)、マッシュルーム添え。味はややあっさりめで、最初持て余すかなと思いきや、結局食べきってしまいました。写 真を撮らなかったのが悔やまれる……。

 となりのパブでウィスキーでも、と思っていたのですが、ハーフボトルで酔っぱらってしまう……。この日はそのまま部屋に戻って午後十一時半に就寝。


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