「ル・パン」99年



 いよいよというか、ついにポムロールワインの新星「ル・パン」の登場であります。何って言ったって名前が良いですよね。短くて覚えやすいし、どうしても「アルセーヌ・ルパン」とかに連想が働いてしまうし。あの、「どこよりも高い価格でないと取引しない」と言わしめた「シャトー・ペトリュス」を上回る価格で取り扱われるワインという点でも話題性抜群。ワインスカラ主催のプレステージ・ランチ。場所は五反田のフレンチ「Ohara's」。入り口は殆ど目立たないけれど、地下にある店内は外の明かりが中に入る作りの天井になっていて、白でコーディネートしたシックなお店でした。

 テイスティングリストは以下の通り。


  1.Champagne Henri Abele Brut
 2.Ch. Le Pin 1999
 3.Vieux Chateau Certan 1999
 4.Ch. Le Pin 1993
 5.Vieux Chateau Certan 1992


 

 まずは石井先生の解説。「ヴュー・シャトー・セルタン」も「ル・パン」も、共にベルギー系のティエンポン家の所有。同じボルドーでも、左岸のメドック周辺はイギリス系だが、右岸にはベルギー・オランダ系の所有者が多いのだとか。ティエンポン家が革命以前から続く由緒ある「ヴュー・シャトー・セルタン」を所有したのが1924年。当初ジョルジュ・ティエンポンはワイン販売業を取り仕切りながらこの畑を管理していたが、その末っ子レオンは自ら畑に出向き、ブドウ園の名声を高めました。一方、「ル・パン」はルビ夫人という女性が所有していた土地を1979年にティエンポン家のマルセルとジェラールの兄弟が購入したもの。現在ではレオンの子アレクサンドルが「ヴュー・シャトー・セルタン」を継ぎ、そのいとこのジャックが「ル・パン」を所有しています。ちなみに畑を見たかぎりでは、セルタンの方は立派だが、ル・パンの方は掘っ立て小屋があるだけで、名前の由来となった松の木がひょろっと一本生えている程度だったそうな。両方とも土地は砂利質、特にル・パンは砂はやや少なめ。「ヴュー・シャトー・セルタン」の畑は13.5ha、生産量 55,000本、メルロー60%。新樽比率50-70%、オリ引きを三ヶ月に一回行う伝統的なメドックスタイルであるのに対し、「ル・パン」の畑は2ha、生産量 8,000本、メルロー92%。新樽比率100%、オリ引きを殆ど行わないどちらかというと早飲みスタイル。前者がフランス国内で評価が高いのに対し、後者は米国で評価が高い。いずれにせよ、価格には10倍近い開きがあるけれど、その差はあくまで畑と生産量 の規模の違いによるあくまで希少価値に基づくもの。

 前菜はホワイトアスパラにオレンジと卵黄のソース、そういえばヨーロッパではホワイトアスパラは季節物で今の時期は非常に喜ばれるとのこと。固めの食感でオレンジソースもまろやかでした。
 まずは2.のル・パン99年。深い赤紫に柔らかなグラデーション。熟成感を示すレンガ色はまだ現れていない。どこか濁った不透明さがある。厚みのある香り。既にムスクのニュアンスも。チェリー系の香り。苦渋味、タンニンはしっかり感じるけれど、それ以上にコクを感じる、とにかく「豊潤」という言葉が一番当てはまるワイン。3.のヴュー・シャトー・セルタン99年は、深い赤紫だがル・パンに比べてやや清澄度のある赤。ル・パンはいかにもろ過されていない色だけど、こちらの方はフィルトレーションされているような印象。もっともメルロー自体清澄度は他の品種よりも低いそうだけど。香りは控えめで、青っぽい香りがまだ残る。味も少し刺々しさが感じられたけれど、スワリングするとなじんできました。

ここでメインディッシュの「ラパン」。「おおっ、ル・パンにラパンか!」とどよめきが起こる。ラパンは文字通 り兎の肉。鳥肉に近い印象。シンプルにグリルしたものにクレソンソースを添えて。以前に自宅で魚介のグリルにクレソンソースを作ったけれど、少々青臭くてエビ料理にはちょっとなあ、という印象でした。しかしむしろこうしてみると肉料理に合うのだな。今度鳥肉で作って見よう。

 4.のル・パン93年は、やや熟成のニュアンスがありエッジがピンク色。香りは厚みはあるものの、少し枯れ草っぽいハーブのような香りがでていて少々意外。結構熟成のスピードが速いような気がしました。アタックは柔らかく、苦味は残らず、こってりした感じ。一方5.のヴュー・シャトー・セルタン92年は、レンガ色で香りはまだ大人しい印象。むしろ青っぽさはなく、まだ閉じているような印象。アタックはしっかりしていて、ミネラルが多いような気がしました。4.のル・パンの方にのみグラスに少量 のオリが残りました。90年代初頭の物で比較すると、ル・パンの方はより早く熟成が進み、一方ヴュー・シャトー・セルタンの方はまだ開ききっていないという感じでした。

 単純に好みで選ぶなら、「ル・パン」99年でしょうか。しかし人によってはよりフレンチスタイルのセルタンを選ぶ場合もあるかも。香りがフルーティで味は苦味が低くコクがある、という点では「ル・パン」はどこかカリフォルニアワインの特級品を思わせます。アメリカで評価が高いのもうなずけますね。自分でも一本欲しいけれど……何しろ高い。手元のカタログで93年物が155,000円。ううっ……。



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