「クロ・ド・ラ・クーレ・ド・セラン」1980年


 


 六本木の「バール・デル・ソレ」は、「バール」とあるように、かしこまったレストランというよりは、むしろイタリア風のオープン・カフェといったおもむき。屋外にもテーブルが並んでいましたが、この日は天気も良く暑いくらいだったので、その意味では丁度よい選択だったかも。
 毎回テーマを決めてワインを持寄るTEAM2000の会。今回はなかなか取り上げられることのなかったロワール地方を、ということでさっそく何を持っていこうかと知恵を絞ったのでした。ある意味、ミュスカデやサンセールといった軽やかな白が主流で、有名なお城は沢山並んでいるけれど、ワイン生産地としては超級の銘柄がひしめくボルドーやブルゴーニュ、ローヌと違って地味な存在。シャルル七世がジャンヌと初めて会見したシノンの赤にするか、ビオデナミで有名になったニコラ・ジョリイのモノポール、「クロ・デ・ラ・クーレ・ド・セラン」にするか……結局、同じ会のSさんが「シノン」を持参するというので、私は「セラン」を持っていくことにしたのでした。
 集まったワインとメニューの内容は以下の通り。
 〈ワイン〉
 ・カナール・デュシェーヌ・シャルル七世
 ・ ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ・クロ・コルメレイ2001
 ・サンセール・メガリテ2001
 ・サンセール・フランソワ・コタ2000
 ・ソミュール・ギベルトー・エゲルトン2000
 ・シノン・クロ・デ・ロッシェ1993
 ・サンセール・ヴァンサン・ピナール2000
 ・ニコラ・ジョリイ・クロ・デ・ラ・クーレ・ド・セラン1980
 ・コトー・デュ・レイヨン1975

  
 〈メニュー〉
 ・ホタテ貝を添えた季節野菜のエチュベ
 ・ジャンボンペルシー、ビーツのヴィネグレットソース
 ・カジキマグロのグリエ、アサリとケッパーの香草ソース
 ・山羊のチーズとルッコラのピッツァ
 ・フレッシュトマトとバジルのパスタ
 ・ジェラート、エスプレッソ、グラッパ

  ←季節野菜のエチュベ。エチュベは蒸し煮のこと。  ←カジキマグロのグリエ

 「ミュスカデ」はキリッとしていてドライ。酸味もしっかりしていて、この銘柄の特徴なのか若干花の香りがしました。ミュスカデというとアドバイザー試験のテイスティングでよく出される物ですが、香りも味も控えめなものが多く大抵は物足りない場合が多く、逆にそれが決め手になったりします。でもこのクロ・コルメレイのものはその中ではかなり味わいがある方だと思ったのでした。
 「サンセール」「メガリテ」「フランソワ・コタ」という二つの銘柄を比較試飲。メガリテはやや黄色がかっていて、一見甘く感じますが、全体的にはさわやかな印象。ある意味ソーヴィニヨン・ブランのスタンダードといった面 持ち。一方の「フランソワ・コタ」は、一見色が薄いのですが、口に含んでみるとミネラル感が強く、「メガリテ」よりも濃い味に感じます。酸は控えめで、土っぽい含み香が飲んだ後に残るのが印象的。
 「ドメーヌ・ギベルトー・エゲルトン」は、聞きなれない銘柄なのですが、ホームページで調べてみると楽天市場に商品紹介が載っていました。http://www.rakuten.co.jp/wine-takamura/411854/554617/ 「もうブッ飛ぶぜ〜!」と手放しの褒めようであります。あおり文句だけ読むと、なんかフルボディの濃厚なワインを連想してしまいますが、実際に飲んでみると、色合い的にはブルゴーニュとボルドーの間位 の明るい赤紫で、非常に柔らかい味わい。カベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニヨンを使用しているようですが、後味に独特のナッツ香のような甘味が残るのが特徴です。
 「シノン」はカタログ等でもよく見かけるクロ・デ・ロッシェのもの。赤と黄の明るい色合いのラベルが特徴。10年間寝かせた割には意外とフレッシュ。酸はしっかりしていて、やや青っぽいニュアンスがあるものの、ピノ・ノワール的な正統派の赤ワインという感じ。
 さて、私の持参した「セラン」ですが、その生産者ニコラ・ジョリイはビオデナミ(バイオダイナミックス)のリーダー的存在としてあまりにも有名。ビオデナミは有機農法をさらに徹底させたもので、ボルドー液と硫黄を除いて一切の農薬・化学肥料を否定し、月の満ち欠けや正座の動きに合わせて剪定や収穫を決定するという「自然に帰れ」農法です。水晶の粉を撒いたりとか、どこかおまじない的な要素もあるらしいのですが、ブルゴーニュのドメーヌ・ルロワやルフレーヴ、ローヌのシャプティエといった有名銘柄の生産者の多くが実践していることもあって、無視できない存在となっています。ニコラ・ジョリイがこの農法を実践したのは、手元の資料では1980年からという記述と1985年からという記述の両方があるので、今回の持込みワインの1980年物が果 たしてその農法によるものなのかどうか良く分からないのですが、1987年にジョリイを訪ねたルロワが、この農法を自社畑に取り入れて話題となったのは確かなようです。
 シヤトー・ディケムやモンラッシェと並んで五本の指の中に入る白ワイン、とまで言われる「セラン」。私を含めて飲んだことのない人も多かったので、さぞかしパワフルなワインだろうと敢えて赤ワインの後に飲むことになったのですが、実際に飲んでみると1980年物とは思えない若々しさ。コクがありミネラル感も高い。コルクがかなり痛んでいるように見えたので、かなりシャバシャバになっているのではと心配したのですが、逆にもっと熟成していきそうな勢いがありました。もっと重い味を想像していたので、その意味ではギャップを感じたのですが、あらゆる雑味が取り除かれた「生一本」という印象のワインは、確かにビオデナミが追及する「キレイなワイン」の理想形に近いのかも。
 「コトー・デュ・レイヨン」はロワール三大貴腐ワインの一つ。こちらも75年物とは思えないフレッシュな印象の甘口ワイン。ドイツワインの持つ果 実香に近いのですが、さらに梅酒のような香りが加わって深味を増しています。
 食後酒にはイタリアンレストランらしくグラッパ。珍しい蛇口付きのボトルで出てきました。写 真ではちょっとボケているので分かりにくいのが残念。
 
 さて、次回はアメリカに行くSさんを送別がてら「驚かす」ワインというのがテーマ。もしかしたらSさん秘蔵のDRCが飲めるかも。



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