「シャトー・ムートン・バロン・フィリップ」1965


 


 ビンテージワインの楽しみ方の一つに、バースディ・ビンテージを集めたり飲んだりするというものがあります。実際にはこれがなかなか難しく、一般 的にグレートビンテージとされるものはやたら値段が高くて手に入らず、オフビンテージとされるものはすぐに売り飛ばされてやはり手に入らないのでした。私のバースディ・ビンテージは1965年、良い年か悪い年かといえば、どちらかというと悪い年に当たるようで、それだけに質に関わらず欲しいと思っても殆ど見つからない状態でした。今までに入手できたものは……キャンティ・クラシコ、リオハ・グラン・レゼルバ、ポートといったところ。あとは五大シャトーのうちムートンとラトゥール(やや出所が怪しいのですが……)。まあ、たとえ見つかっても、一般 的に言われているようにとっくにピークは過ぎているはず。殆ど自己満足の世界です。
 これもそういう気持ちで購入した一本。「シャトー・ムートン・バロン・フィリップ」は、今は既になくなってしまったブランド。1933年にフィリップ・ロートシルト男爵が手に入れた当時は、 ムートン・ダルマイヤックと呼ばれ、ポイヤックの5級に格付けされていました。 その後、1956年にムートン・バロン・フィリップと改名され、 1975年には、この年に他界したフィリップ・ロートシルト男爵の 奥様の名を取って、ムートン・バロンヌ・フィリップと改められました。 そして、1988年にフィリップ・ロートシルト男爵がなくなるまで その名のワインが毎年造り出されました。 1989年からは、再びダルマイヤックという名称にもどっています。というわけで、本家のポイヤック一級「シャトー・ムートン・ロートシルト」とは深いつながりがあり、ラベルの印象もどこか似ていますが、別 にセカンドワインと言うわけではありません。いずれにしても、まだネット販売でいくつかのビンテージが購入可能とはいえ、二度と作られることのない希少なアイテムには違いありません。
 それほど期待できないだろうとは思いつつ、まあ今年はCWEアワードを受け取った記念の年でもあるし、ということで、Nさん宅で空けてみたのがこの「シャトー・ムートン・バロン・フィリップ1965年」でしたが、実際にグラスに移してみると、やや濁りがあるものの、意外と赤色が残っていて悪くない感じ。香りは当初やや獣臭を感じたものの、落ち着くと果 実の香りが上がってきて、決して力強くはないものの非常に上品な香水を思わせる香りに変化しました。タンニンは落ち着き、スムーズに飲める口当たりで、やや枯れた印象もあるものの、後味も意外としっかりしていて、いわゆる古酒としては十分楽しめるレベルに思えました。
 グレート・ビンテージ、オフ・ビンテージ……これらはその年の地域の天候や降水量 を元に推測され、実際のワインの仕上がりの平均から決められているようですが、様々な生産者が天候の不利な条件を克服するために努力しているのも確かなので、あまりこだわりすぎる必要もないのかも知れません。まあ現実問題として、なかなか入手できない古酒を飲み比べしてみることもできないのも事実ですが。



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